第11話 サーバー

 湖のほとりに建つ謎の建物。ミネ博士はこの建物を「オール・ワン」と関係のある建物であると主張していた。

 イツキはバトルシップフォームのまま湖を渡り、本隊と合流する。

「無事だったようね」

「まぁ、簡単にはやられませんよ」

「そう、それならいいわ。それよりも、この建物は『オール・ワン』が関係していたと断定していいわね」

「本当にそうだったんですね。そうじゃなかったらどうしてたんですか?」

「新しい拠点が出来た、とでも考えてたかしらね」

 そんなことを言いつつ、ミネ博士は建物の中に入っていく。イツキもそれに続く。

 建物の中には、使われていた機材、設備、その他もろもろが残っていた。それらをレジスタンスの技術研究班が使えるかどうか確かめていく。

「これは使える……。これも使える……。これは……、XQ2001プロフェッショナル・ノート・エディション!? あの伝説のノートPCまであるのか!」

「この辺の機械類は、おそらくアイテムを製造するのに使うものだろう。しかし説明書も何もない状態では、手の出しようがないな……」

「見たことのないバックルとアイテムを回収しました! これから解析に回します!」

 見た感じ、かなり活気に満ちているようだ。

「技術研究班はこれから忙しくなりそうね」

 ミネ博士がそんなことをいう。そして彼らの前へと向かう。

「パソコン類が使えるかどうかをすぐにチェックして。機械類の説明書やマニュアルは建物の中を隅々まで探しなさい。そのバックルとアイテムの解析はまだしなくていいわ。技術班以外のメンバーはマニュアル探しを重点的にやって頂戴」

「了解!」

 そういってメンバーは動く。ミネ博士には、それだけの人望があるのだ。

 そのまま建物の中を移動する。歩いているうちに、ある場所で立ち止まった。そこは一見すればただの壁だが、周りの壁とは違って少しだけ色が薄い。

「ここ、何か違和感があるのよね。イツキ、ドリルで穴を開けてくれないかしら?」

「あ、はい」

 イツキは変身してドリルフォームになる。

「この辺を慎重にお願い」

 ミネ博士の言った通りに、壁に向けて穴を開ける。ものの数分で人が通れるだけの穴が貫通するだろう。

 ミネ博士は小型のライトを点けて中に侵入する。イツキも、いつでも戦闘が出来るように注意を払う。

 そこにあったのは、大量の黒い箱。それに近づいたミネ博士は、その正体を一発で見抜く。

「これ、サーバーね」

 ミネ博士はライトを下に向けると、床に転がっていた何かを拾う。

「こっちは何かのフラッシュメモリ。となると、ここはこの建物で使っていた共有サーバーってところかしら」

 そういって周囲を見渡してみる。

「特に目立った損傷はないようね。一回サーバーを起動して、もし使えるようだったら中身を見せてもらいましょう」

 そんなことを言いながらサーバーを出る。

 イツキは変身を解除して、ミネ博士の後をついていく。

 ミネ博士は下にいた技術研究班の一人を捕まえて、何か話をする。

「サーバーを見つけたわ。もしアクセスが出来れば、膨大な知識と技術が使えるわね」

「なるほど。最優先で再起動にかかります」

「正直、拠点をこっちに移してきたほうがいいかもしれないわね。ここを根城にしましょう」

「しかし、向こうにいる民間人の安全確保が難しくなるのでは?」

「全員こっちに移せば、あるいはって所かしら」

「かなり酷な話ですぞ」

 今後のレジスタンスの活動を決定づける話が、立ち話で進んでいる。それだけ逼迫した状態ということだろうか。

「俺、レジスタンスに貢献出来てるのかな……」

 イツキはそんなことをボソッと呟いた。

「貢献は出来ているわね」

 後ろからミネ博士が耳元で囁いてくる。

「うわぁ!」

 イツキは思わず飛び跳ね、そのまま転んでしまう。

「あなたは十分、レジスタンスのために働いてくれています。今のままで問題ないわ」

 そういってミネ博士は、イツキに手を差し伸べる。

「人類のために戦う。それだけでも十分よ」

 イツキはミネ博士の手を取る。そして立ち上がった。

「され、あなたに頼み事が二つあるわ」

「頼み事、ですか?」

「そう、まず一つ目。レジスタンスの拠点から、ここまでの安全を確保して頂戴」

「いきなり無理難題なんですが?」

「こんな広大な範囲を守れる戦闘員、現状あなたしかいないわ」

「それはそうかもしれませんが……」

「そして二つ目。この建物周辺にいる民間人の救助にあたって頂戴。優先順位はこっちが上ね」

「まぁ、それくらいなら……」

「民間人の救助があらかた終わったら、防衛案を考えておいて」

 そういってミネ博士はそそくさとどこかへ消えてしまう。

「なんというか、人使いが荒いなぁ……」

 そんなことを呟きながらも、イツキは建物の外へと出るのだった。

 イツキは外にいるレジスタンスのメンバーから話を聞いて、民間人の救助に当たっている班に合流した。

「おう、ちょうど良かった。この下にこの子の母親がいるんだ。何とかしてくれないか?」

 合流してすぐに、瓦礫を撤去するように指示を貰う。

 イツキはいつものようにヘリクゼン・アルファに変身し、瓦礫をヒョイヒョイと、しかし被害を出さないようにどかしていく。

 数分後、足を負傷した母親が救助された。

「よし、じゃあ次の所いくか」

 民間人救助のために、現場を回るイツキたち。瓦礫の中で暮らしている親子や子供たち、余命幾許かの老人も救助していく。

 救助活動を続けること数時間。だんだんと空が暗くなってくるのが分かるだろう。

「今日はこの辺りにまでして、いったん建物に戻ろう」

 他にも救助するべき人はいるのかもしれないが、それでも今は仲間の命のほうが大切なのだ。

「ここは弱肉強食の世界……。食うか食われるかの世界か……」

 イツキは変身を解除しながら、そんなことを呟くのだった。

──

 ミネ博士以下技術研究班は、この建物のサーバーを復旧させる作業に入っていた。

「どう? サーバーそのものには問題なさそう?」

「はい、問題ありません。ただ、我々が使用している規格に合うかどうかが不明ですが……」

「ま、そのあたりは手探りでやっていくしかなさそうね」

 そういってミネ博士は自分のパソコンを開いて、適当なサーバーに接続する。

「電源さえ入れてしまえば、ほとんど問題なさそうね。一応ウイルスバリアはかけておきましょう」

「電源の確保はすでに出来ています」

「では、サーバーの復元に入ります。電源供給開始」

「電源入れろ!」

 ミネ博士の指示で、サーバーに電力が供給される。

 すると、サーバーからファンの音が唸るように聞こえてくるだろう。サーバーについている緑や赤のLEDライトが点滅する。

 すると有線で繋がったパソコンに、共有サーバーのショートカットが作成されるだろう。

「あ、繋がった」

 研究班の一人がボソッと言う。

 ミネ博士は繋がった共有サーバーの中身を見てみる。かなり膨大なデータ量であるが、どうやらヘリクゼンバックルの製造方法や各種機器の使用方法、研究資料が大量に含まれているようだ。

「すごいわね。これだけの情報があれば、他のバックルの情報を相互的に補完出来るかもしれないわ」

 しかし、内容を見ているうちに、ミネ博士は一つの疑問にぶつかる。

「これだけの情報、ショートカット一つで管理しているなんて、少しおかしいわね。少なくともサーバーのネットワークに入るには、パスワードの一つくらい要求されてもおかしくはないと思っていたのだけど……」

「そんなことしていると、業務の効率化を妨げるだけになると思いますよ。そもそもうちだって外部からのアクセスなんて滅多にないことですから、サーバーにアクセスする時はパスワードなんて要求してないですし」

 そのようなことを、他の研究員に言われる。

「……それもそうね。今は、これまで手に入らなかった情報に触れられるだけありがたいと思いましょう」

 そういってデータの中身を少しだけ確認してみる。

「かなり重要なデータが入ってるわね。バックルの製造工程、アイテムの相互互換のやり方に、バックルOSの更新方法……。まさに宝の山って言ったところかしら」

 ミネ博士は適当な所で手を止める。

「さすがに、今全てのデータを確認することは出来ないわね。研究班の何人かをここに常駐させることにしましょう」

 こうして、サーバーの情報引き出しと運用をするチームが簡易的ながら発足することになった。

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