第10話 囮

 イツキは中間拠点へと戻り、湖の事とその先にあった建物のことを、通信を使ってミネ博士に報告した。

『なるほど……。湖ねぇ……』

「ですが、この建物から『オール・ワン』との繋がりを感じるような物は確認出来ませんでした。万全を期して探索をするべきかと思います」

『……いや、その建物は「オール・ワン」の物でしょう。おそらく中にはバックルを修理出来たり、新しいアイテムを作れる設備があるに違いないわ』

「……それ本気ですか? まだ中すら確認してないんですよ?」

『それでもです。その建物が残っているということは、少なくとも頑丈である証拠。レジスタンスの根城にするにはちょうど良いわ』

「えぇ……」

 偵察すらしていない建物に対して堂々と侵略宣言するのは、肝が座っているのか、はたまた考えなしか。

「個人的には、少数精鋭による偵察を行うべきだと思います」

『あなたの意見は最もです。しかし今のレジスタンスの状況を鑑みるに、戦力を温存するよりも積極的に使っていくのが有意義でしょう。それに、その建物の周辺で新しい戦力を発見することも出来るかもしれません』

「それはさすがに……」

『これは決定事項です。直ちに本隊を結成し、そちらに向かわせます。作戦はこちらで立案し、現地到着次第すぐに作戦行動に移ります。以上通信終わり』

 そういって一方的に通信は切れた。

「ミネ博士、本気なのかね?」

「この感じだと本気だな。あの人の直感ってのは大体当たってるし」

 そんな中、イツキは息を吐き出しながら、天を仰ぐ。

「面倒なことになったなー……」

 しかし、ミネ博士の言うことだ。自分は従うしかない。今の自分には彼女に従う以外の道はないのだ。

 その頃レジスタンスの拠点では、進軍のためのメンバー選任が行われていた。ミネ博士は、メンバーが集合した広場で簡単な説明をする。

「……と、このような感じです。しかしこの作戦は、例えレジスタンスの全員を投入しても、半分以上が戦死すると見積もっています。私はこれから、あなたたちを使いつぶすつもりです。それでも参加したいという、覚悟のある人だけはここに残ってください」

 そういって朝礼台から降りる。しかし、その場から動いたメンバーは誰一人としていなかった。中には負傷している人もいる。それでも、動けるなら全員参加する覚悟を持っていた。

「……分かりました。あなたたちの覚悟を称賛します」

 そして3日後。本体の伝令役が中間拠点にやってくる。

「ミネ博士からの伝言です。『イツキは二手に分かれた本隊の囮として中央突破せよ。場合によっては敵を壊滅させても問題はない』とのことです」

「ちなみに本隊の作戦はどうなってるんです?」

「湖畔に沿って二手に分かれ、ゆっくりと進軍していくとのことです。敵の引きつけ役は、先ほども申しましたがイツキさんが行ってください」

「無茶だなぁ……」

 イツキは遠い目をするものの、そんなことをしていても現実は襲いかかってくるばかりである。

 イツキは覚悟を決めた。

「分かりました。すぐに行動に移ります」

 そういってイツキは、バックルを持って湖のほとりへと向かう。

 するとそこには、すでに「オール・ワン」の戦闘員が少なくとも100体、そして怪人1体が水面に立っていた。

『お前が我が軍勢の怪人を殺し続けている格闘者だな?』

「そういうお前は?」

『私はデストラクタ。お前を抹消するために遣わされた怪人だ』

 そういってデストラクタと戦闘員は、水面から水中に消える。

 イツキはバックルを装着すると、アルファ・デバイスとバトルシップ・デバイスを装填する。

『セカンド・スキャニング!』

「変身……!」

『アプルーブ!』

『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』

 バトルシップフォームに変身したイツキは、そのまま水面を歩く。

 すると周りの水面から戦闘員が飛び出してくる。しかしそれを予見していたかのように、主砲は全方向を向いていた。

「主砲、斉射」

 主砲から戦闘員に向けて砲弾が撃ち出される。その威力はすさまじく、発射した時の衝撃波だけで数体の戦闘員が再起不能になっていた。もちろん、砲弾が直撃した戦闘員は木っ端みじんだ。

 そのまま戦闘員らとの戦闘が始まる。主に水面下からの攻撃が中心であるため、イツキは水上をスキーのように逃げる。だが、ただ逃げているだけではなく、手榴弾ほどの大きさの爆雷を投下し、対潜戦闘も行っていく。

 時折、水中から飛び出してきた戦闘員が投げてくる槍のような攻撃を、自動迎撃ガトリング砲で迎撃し、そして反撃する。

 さらに近くに戦闘員がいた時は、全力の蹴りを入れるなど、奮闘していく。

『なかなかやるな。だがまだだ』

 すると、どこからともなく何らかの魚影が見える。イツキは一瞬で判断した。

「魚雷……!」

 水面を蹴り、ジャンプする。先ほどまでイツキがいた場所で爆発、水柱が立った。

 それだけでは終わらない。デストラクタは手だけ水面の上に出し、ある棒状のものを投げた。それは一方の端から火を噴くと、イツキに向かって飛翔する。

 小型ミサイルだ。

 自動迎撃ガトリング砲が小型ミサイルを迎撃するが、数発は弾幕を逃れてイツキに向かって飛んでいく。

 イツキに命中するものの、バトルシップ特有の分厚い装甲がイツキを守る。特段目立った損傷は見られないだろう。

『なるほど、その攻撃も無力化するか。だが、それでも私には勝てん!』

 デストラクタは次々と攻撃を仕掛ける。

 その攻撃を躱しているイツキは、回避しながらある心配をしていた。

 本隊である。本隊はすでに対岸の建物を取り囲むように移動していた。

「建物の包囲、終了しました」

「よし、それでは総員突撃」

 扉という扉から、一斉にレジスタンスが突入する。

 しかし中はもぬけの殻で、誰かがいるようには感じないだろう。

 いや、正確には戦闘員が数体ほどいるのだが、全く警戒している様子はない。本隊の銃撃によって簡単に倒せるほどだ。

 これにより、次々と建物内を制圧する。

 そして最終的には、建物の全てを掌握するに至った。

「旗を掲げろ!」

 本隊はイツキに合図を送るため、レジスタンスの旗を建物の屋上にあったフラッグポールに掲げる。

 イツキはそれを確認した。

「じゃ、遊びはおしまいにするか」

 そういってイツキは爆雷を周辺にバラまいていく。その爆雷はデストラクタを取り囲むように沈んでいく。

『不味い、これでは爆雷の餌食になる……!』

 そう考えたデストラクタは、一か八かで浮上する。

 すると、そこには待ち構えていたイツキの姿があった。

 イツキはそのままデストラクタを掴み、水中から引きずりだす。

『な、お前……!』

「それじゃ、さいなら」

 そういってイツキは全力で思いっきり斜め前方にぶん投げる。

 それと同時に、バックルの前面を押したあと、左側を押す。

『アルファ ファイターキック!』

 そのまま水面を蹴り、イツキはキックをかます。そのキックはデストラクタの体を貫く。

 再び水面に着水した時、デストラクタの体は爆散した。

「っふぅー……」

 なんとか戦闘に勝ったことを、イツキは噛みしめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る