第9話 探索
「なるほど、カイドウと遭遇したのね」
イツキは哨戒から帰ってくると、カイドウのことをミネ博士に報告する。
「彼、何を考えているのかさっぱり分からないから、目的を探るのは難しそうね。でも注意するに越したことはないわ。もし、また遭遇するようなことがあった時は確実に仕留められるようにしておいて」
「……分かりました」
イツキは難しい顔をする。いくら敵とはいえ、同じ人間を手にかけるのは憚れるからだ。
「そうだ。あなたには知っておいてほしいのだけど、前に回収してもらったヘリクゼンバックルとフラクタルメモリーカードを使って、新たな知見を得ることが出来たわ」
「そうなんですか。でも自分にはもうバックルがありますけど……」
「何もあなたに使うとは言ってないわ。レジスタンスの中で、新しい適合者を探すのが先だわ。それに、今すぐこれを応用することも可能だけれど、今の拠点の設備ではどうしても難しいことが分かったの。この間の前哨基地のような、『オール・ワン』の技術が使われた設備が欲しいところね」
そういって溜息をつく。
「そこで、新しい『オール・ワン』の施設を発見する必要があるわ。そのためには、イツキの力が必要よ」
「……なんとなく察しましたけど、それってもしかして……」
「周辺の探索をしてほしいの」
イツキは声には出さなかったが、少し険しい顔をする。
「もちろん、闇雲に探すわけではないわ。一応と言ってはなんだけど、当てはあるの。さっきのフラクタルメモリーカードを解析したら、北と思われる方向に施設があるらしいわ」
そういってミネ博士は、手書きの地図を引っ張り出す。
「以前行ってもらった中間拠点は覚えてるわね?」
「はい」
「その中間拠点のさらに北のほうにあるらしいわ」
「結構曖昧ですね」
「仕方ないじゃない。詳しい座標まで解析できたわけじゃないもの。それに、古い地図の座標を使っているはずだから、そのままの情報を使うわけにはいかないわ」
「どっちにしろ周辺の探索が必要、というわけですか」
「察しが良くて助かるわ。早速だけど、あなたはしばらく中間拠点で生活してちょうだい。メンバーからも何人か引き抜いて護衛につけてあげるわ」
「それ……、事実上の左遷ってヤツじゃないですか?」
「否定はしません」
その言葉に、イツキは少し肩を落とした。
「分かりました。行けばいいんでしょう」
「物分かりが早くて助かるわ。2日後を目途に移動して。そしたらあなたの足を使って周辺の探索をする事」
「了解です」
イツキは乗り気ではなかったが、ミネ博士からの命令である。反故には出来ないだろう。
とりあえず、当面の生活をするとのことなので、簡単に荷物をまとめた。
そして2日後。イツキは3人のメンバーと共に、中間拠点へと向かった。道中は特に危険なこともなく、すんなりと中間拠点へと到着する。
「では、我々はここの防衛を行っていますので、イツキさんは自由に探索を行ってきてください」
「りょーかい」
言い方としては、完全な放任主義といった所か。しかしそれ以上に彼らに出来ることはない。ここはイツキ一人で何とかするしかないのだ。
イツキは早速、コピーしてもらった地図を元に周辺の探索に入る。以前探索した所も、確認という意味でチェックしていく。
しばらく北と思われる方向に歩き、その周辺を探索。東に進み、西に進み、そして中間拠点へと戻ってくる。
初日はそんな感じで終了した。
次の日。まだ行ったことのない場所に向かう。方向としては北東方向といった所か。
「ここまで書いてあるから、この先か……」
地図と照らし合わせて、イツキは未踏の場所へと足を踏み入れる。
そこは大きな湖であった。少々山に囲まれている上に、さざ波も立っていないことから湖と推定した。
「こんな所があったのか……」
イツキは地図に湖のことを記載する。大きさはまだ不明であるが、目測で測るなら湖の周辺を1時間で歩くことが出来るだろう。
そして湖の向こうを見てみると、何か巨大な建物が見える。
「あれは……」
未確認の建物のことを記載し終わったとき、上空から何かバラバラと音が聞こえてくる。
イツキがふと見上げてみると、目の前にロケットのようなものが急接近してきていた。
「うわぁ!」
イツキはその場で回避行動を取る。先ほどまでイツキがいた場所で爆発が起きた。
『ウォウ、今の回避するのかい!』
イツキが声のする方を見ると、そこには明らかに不自然な人型が浮いていた。
『僕はオーバーフロー。申し訳ないけど、君を殺すように命令されてるんだ』
「あいにくだが、俺も死んでいられないんだよ」
そういってイツキはバックルを装着し、アルファ・デバイスを装填する。
『スキャニング!』
「変身!」
『アプルーブ!』
『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』
イツキは、変身し終わったところで気が付く。
「空飛んでるヤツにどうやって攻撃すればいいんだ……?」
空を飛べるとなると、ギガント・デバイスの出番だろうか。しかし巨体であるため、人間サイズに対して攻撃するのは至難の業だ。
『考え事してる場合かい!?』
そんなことを考えていると、オーバーフローが攻撃してくる。かなりの速度で突っ込んできた。
イツキはそれを回避するものの、オーバーフローは去り際に小型爆弾のようなものを落としていく。それによって、イツキは爆発に巻き込まれてしまう。
「ぐわぁぁぁ!」
『いいねぇ、その声! 少しだけ倒し甲斐があるよ!』
そういってオーバーフローは反転し、再度イツキに攻撃を仕掛けてくる。
だが、イツキもやられているばかりではない。
『ブルドーザー!』
『セカンド・スキャニング!』
『アプルーブ!』
イツキの両手にブレードが生成される。それをガッチリと構え、攻撃に備える。
オーバーフローからロケット攻撃がされる。イツキのブレードに直撃するものの、ブレードが分厚いためか、損傷のようなものは見受けられない。
だがダメージはしっかり通っていた。
「っつぅ……!」
イツキはブレードを外して、腕を押さえる。
「不味いな……。これじゃジリ貧だ……」
何か他に策はないか考える。デバイスを見返して、そして見つけた。
「これ、使える……?」
そんなことをしていると、オーバーフローによる第三波攻撃がやってくる。
「えぇ、ままよ!」
イツキはデバイスを起動する。
『バトルシップ!』
『セカンド・スキャニング!』
『アプルーブ!』
その瞬間、オーバーフローの攻撃が命中する。
爆破に巻き込まれたイツキを確認して、オーバーフローは喜ぶ。
『イェーイ! 倒してやったぜ!』
一人盛り上がっているオーバーフロー。しかし、何か様子がおかしいことに気が付いた。
『なんだぁ……?』
爆発後の煙の中に、人影があったのだ。
すると、その人影から何かが高速で飛んでくる。それはオーバーフローの真横を通り過ぎていく。
『ヤツは倒したはず……』
「お前の中では、そう思ったんだろ?」
煙が晴れると、そこにはイツキが立っていた。しかも背中に戦艦の艦橋と煙突のようなもの、そこから両脇に梁のようなものが伸びて巨大な砲に繋がっていた。
バトルシップフォームだ。
イツキは地面から湖の方にジャンプすると、水面に着地する。驚きなのは、その水面に立っていることだろう。
『……クソッたれがぁ!』
オーバーフローはこれでもかというロケットによる弾幕攻撃を仕掛けてくる。
イツキはそれに冷静に対処する。背中や体の両脇に存在する対空砲を使って、弾幕を張ったのだ。
次々にロケットに命中し、撃墜される。
しかしそれでも、対空砲を潜り抜けたロケットはある。それがイツキに命中するだろう。
だが、イツキのほうは全く動じていなかった。それどころか、攻撃の跡すらついてない。
『なんだ、その防御力は……!?』
「戦艦ってのは簡単に沈まないんだよ」
そういって両脇の主砲をオーバーフローに向ける。
「焼霰弾、発射」
8門から発射された砲弾は、まっすぐオーバーフローへと向かっていく。
『狙いはいいが、砲弾なんぞに当たらなければ……!』
そういってオーバーフローは、イツキから離れるように回避行動を取った。
その瞬間である。焼霰弾が破裂し、先端から大量の火の玉が噴き出す。まるでショットガンを使った面制圧のような感じだ。
それによってオーバーフローは火だるまになる。
『ぎゃあああ!』
オーバーフローはそのまま高度を下げ、湖の水面に墜ち、爆発する。
「なんとかなった……」
そのままイツキは水面を移動し、オーバーフローが爆発した場所に向かう。何か残骸でもあればいいと考えたからだ。
しかし実際には、残骸はことごとく燃え尽き、そして水底に沈んでいたのだ。
イツキは若干モヤモヤしながら中間拠点に戻るのだった。
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