第8話 会話
その後偵察隊は、無事に拠点へと戻ってくることができた。
戦果としては、怪人2体の排除と、「オール・ワン」の情報が入っているであろうメモリーカード。上々の出来だろう。
その報告をしに、今回の隊長がミネ博士の元に向かった。
「なるほど。これが怪人の中に入っていたフラクタルメモリーカードね」
そういって基盤のようなものを見るミネ博士。
「ひとまずは休息を取って、この後のことを考えましょう」
「はっ」
そういって隊長は、研究室を後にする。
ミネ博士は早速、フラクタルメモリーカードをPCに繋いで中身の解析を始める。
しかし、中に入っていたファイルは全て文字化けしている状態だった。
「やっぱり。一筋縄では行かせてくれないようね」
ミネ博士は解読作業に没頭するのだった。
その頃イツキは、拠点防衛のための周囲警戒のために哨戒に出ていた。
瓦礫の山と化した町を延々と警戒して回る。それだけなのだが、怪人の姿と似ている場合があるため、油断は出来ない。
イツキはレジスタンスの戦闘員たちから若干離れて歩いていた。正直言って気まずいからである。
「なんか話したほうがいいかな……。いやでも、そんなことして気持ち悪がられたらどうしよう……?」
変なことで悩んでいた。
しかし、ここで立ち止まっていては先には進めない。イツキは意を決して戦闘員たちに話を振ってみた。
「み、皆さんはどうしてレジスタンスに入ったんですか?」
突然の質問に、戦闘員らは変な目でイツキの方を見る。
だが質問には答えてくれた。
「私、1年くらい前に『オール・ワン』の怪人に親を殺されたの。どうにかして復讐をしてやろうと思って、レジスタンスに入った」
「あっ……、そうなんですね……」
かなり重い話に、イツキは後悔する。
「そういうアンタはどうなの?」
「え?」
「アンタ、ミネ博士のお気に入りなんでしょ? しかもヘリクゼンバックルを使える。何のためにレジスタンスに入って戦ってるの?」
その言葉に、イツキは言葉に詰まる。
今のイツキには、昔の記憶がない。おそらく記憶喪失なのだろうが、どうしてそうなったのかを説明してくれる人がいない。
実際の所イツキがレジスタンスにいるのは、ミネ博士に言われたからである。そしてその状態のまま、なんとなくでレジスタンスに所属している。
「俺は……、なんでレジスタンスにいるんだろう……」
その言葉をポロッと吐いた瞬間、目の前で爆発が起きる。
『ニヒヒヒー! ルーチンがお前ら全員葬り去ってやるぞー!』
怪人が現れた。イツキは反射的にバックルを装着する。
その時、レジスタンスの戦闘員らは持っていた銃で攻撃を開始する。しかし、命中している様子はない。
『無駄だよー! ルーチンはそんな攻撃なんか通用しないのだー!』
そういってイツキたちを茶化しているルーチン。
その時イツキは、高揚感のようなものを感じる。そして気が付いた。
「俺は、誰かを守るために戦っている……!」
レジスタンスにいるなら、それが叶う。イツキは少し自分のことを理解した。
「誰かを守るために、己を犠牲にするんだ!」
そういってアルファ・デバイスを起動する。
『アルファ!』
『スキャニング!』
「変身!」
『アプルーブ!』
『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』
そしてルーチンに向かって走る。
「うぉぉぉ!」
拳や足を使って攻撃をするものの、ルーチンはそれらを軽い身のこなしで回避していく。
「クソ、逃げるな!」
『やだよー。お前の攻撃の仕方が悪いんじゃないのー?』
「おちょくるのが得意な怪人だな……!」
イツキは肩の突起物を手に取って、アルファ・スラッシャーを取り出す。
『おっ、そっちがその気なら……』
そういってルーチンは、左肩に付いたボタンのような物を押す。すると、一瞬ルーチンの姿が揺らめき、そして横に増殖していった。
「こ、これは……!」
『ルーチンは分身が得意なんだー。本物のルーチンを見つけてみてよ!』
そのまま一斉にルーチンが攻撃を仕掛けてくる。
イツキはアルファ・スラッシャーで応戦するものの、物量で押してくる相手には敵わない。
仮に攻撃が命中したとしても、分身だった時は煙のように消えるだけだ。
「クッソ! こんな一斉攻撃に本物が加わるとは思えない……! 本物は後ろで待機しているヤツに違いないのに……!」
残念ながら、今は分身からの攻撃を躱すだけで精一杯だ。
そんな時、イツキの後ろから銃撃音がする。それによっていくつかの分身が煙のように消えた。
イツキが後ろを見ると、そこにはレジスタンスの戦闘員たちがいた。
「私たち、あなたに守られるほど弱くないので」
そういって銃を構える。
「それと、そのバックルがなかったらあなたのほうが弱いですよ」
ずいぶんと痛い所を突いてくる。でもイツキは否定しない。
「確かにそうかもしれません。でも、この力が使える。それだけでいいんです」
「そのバックルに適合しなかったらどうするつもりだったの!?」
「でもそうはなりませんでした。それで十分です」
彼女は一瞬銃を下ろしそうになったが、すぐに構えなおす。
「結果論で納得して、瞬間瞬間を好き勝手に生きてるなんて、おこがましいにも程がある。……ちゃんとその力、使いこなしてよね」
「もちろん」
彼女と和解した所で、イツキはルーチンと相対する。
『そんな余裕をかましてられるのも今のうちだけだー!』
そういって分身が一斉に攻撃しに入る。
イツキはやってくるルーチンを切り裂いていく。しかし、どれも攻撃をすればそのまま煙になって消えていく。
一方で、戦闘員のほうも銃撃で応戦していた。イツキのように一撃で倒すことは出来なくとも、何とか猛攻を防ぐ。結果として、迎撃した全てのルーチンは偽物であった。
「このままじゃ埒が明かないな……」
何かこの状況を打破できないものかとデバイスを見ていると、あるものが目に入った。
「ギガント……? 何か巨大な物でも使うのかな?」
そんなことを思ったイツキは、それを手に取った。
「物は試しだ。使ってみよう」
そういってデバイスを起動する。
『ギガント!』
『セカンド・スキャニング!』
そのままバックルの前面を押す。
『アプルーブ!』
その瞬間、バックルから大量の流体状の金属があふれ出す。大量といったが、大きさで見ると、明らかにイツキの数十倍もある。
そして流体状の金属は、イツキの体を包み込んで人間の形を作っていく。
ギガント・デバイス。その正体は、巨大ロボットを召喚するデバイスだったのだ。
「うぉぉぉ……! これどうやって操縦するんだ?」
バランスを崩しそうになり、足踏みをする。それにルーチンが巻き込まれていた。
『うわぁぁぁ! 逃げろー!』
『こっち来るなー!』
レジスタンスの戦闘員も巻き込みそうになったものの、その前に操縦の感覚を掴んだようだ。
「おぉ、こんな感じかぁ」
そういって手を握ったり、腕を回したりする。
そして地面を這いつくばっているルーチンを見た。
「とりあえず、踏みつぶすか」
ルーチンがいるであろう周辺をドカドカと踏み荒らす。それによって、ルーチンは一気に数を減らしていく。
『ま、不味い……! 逃げなきゃ……!』
本物であるルーチンが背を向けた時、周辺を影が覆う。
ギガントの手がルーチンの直上にあったのだ。そのまま文字通り、ギガントの手中に収まってしまう。
『ぐ……、離せ!』
「そういって離すヤツがどこにいるんだ?」
そのままイツキは、思いっきりルーチンを放り投げる。
そしてイツキは操縦席で、バックルの前面を両手で押し、そして左側を押した。
『アルファ ファイターキック!』
ギガントがジャンプすると同時に、背中にある推進機が全力で噴射される。
そのまま上昇しながら、巨大ロボットがキックを繰り出した。
『うわぁぁぁ!』
ルーチンは何もすることが出来ず、巨大な足で破壊された。
空中から戻ってきたギガントは、推進機を使って減速しながら地上に降りる。
そしてイツキは変身を解除した。
「ふぅ……」
巨大ロボットは再び流体状の金属となり、バックルに吸収される。
それを見ていたレジスタンスの戦闘員は、唖然としていた。
「これが、適合者の力……」
イツキは、戦闘員と向き合う。
「先ほどの話、俺は皆さんのことを決して弱いとは思っていません。俺は皆さんのことを勝手に守っているだけです。でもそれが邪魔だと言うのなら、その通りにします」
それを聞いた戦闘員らは、顔を見合わせる。
そしてイツキと会話していた彼女が口を開く。
「べ、別に邪魔とは言ってないから……。その……、ありがとう、守ってくれて」
「……はい」
そういってイツキは少し笑った。
「なんだかいい雰囲気だな」
イツキの後ろから声が聞こえてくる。
イツキが振り返ると、そこにはカイドウがいた。
「カイドウ……」
「ルーチンを破壊したのか。ずいぶんと調子がいいな」
「何が目的だ」
「目的? 俺は上からの指示で、現場の状況を見てくるように言われただけだ。全く、組織外の人間だというのに、ずいぶんと人使いの荒い奴らだ」
そういって地面に転がっていた石を蹴る。
「ま、見たところ、これまで破壊された怪人たちもお前の仕業だな?」
「だったらどうする?」
「さぁな。それを決めるのは上の仕事だ。俺は傭兵だからな、命令には従う」
そういってカイドウは踵を返す。
「今は静観するとしよう。だが、そのうち敵対することになるかもな」
そういってカイドウは姿を消した。
「……敵対はしたくないな」
そんなことをイツキはボソッと呟いたのだった。
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