第7話 救援
レジスタンスのメンバーの数人が、アセンブラの爆発した跡に集まり、何か相談のようなことをしている。
気になったイツキは、彼らの所に向かった。
「何してるんですか?」
「ん? あぁ、さっきの怪人の残骸を調べててね。ミネ博士からの命令みたいなものだよ」
「残骸に何かあるんですか?」
「そうだね。ミネ博士曰く、怪人には『オール・ワン』からの命令を受けて、それを基にした行動を起こしているらしいんだ。怪人の体のどこかに存在していて、フラッシュメモリに似ているらしいんだ」
そんな話をしていると、メンバーの一人が声を上げる。
「おい、これじゃないか?」
「見せてみろ」
そういってルーペのような物で何かを見る。
「2041/NAND FRACTAL LEVEL1……。間違いない、フラクタルメモリーカードだ」
「フラクタルメモリーカード……?」
聞きなれない言葉に、イツキは聞き返す。
「フラクタルメモリーカードっていうのは、フラクタルという図形を使用している。この図形は、マンデルブロ集合という特殊な図形で、一般的に数式で現すことが出来る。その外周は無限とされていて、そこにデータを収容することが出来れば、無限の容量を持つフラッシュメモリが完成するということだ。今見つけたヤツはLEVEL1、容量はかなり大きいが有限のものということだ」
「えーと……」
イツキにしてみれば、全くのちんぷんかんぷんだろう。
「ま、このメモリの中に命令が入っていて、怪人はその命令を忠実に実行していたのだろうということだ」
そういってフラクタルメモリーカードを丁寧にしまった。
その後は、この採石場を中間拠点にするための簡単な偽装工作を行う。まずは怪人が寄ってこないためのキャンセラーのような装置を設置。出入口を限定するために、他の出入口になりそうな場所をネットで覆う。そして中に簡単な医務室と武器庫を設置すれば完了である。
外が少しだけ暗くなってきた。とはいっても常に曇天であるため、太陽は拝めない。
「よし。今日はここまでにして休憩にしよう。今の時間は推定で1735。もうすぐ夜だ。各自しっかり休むように」
そういってメンバーはバラバラに散らばった。
イツキは良い感じの岩の隙間に全身を預ける。毛布をかけて体を温かくすれば、すぐに眠気が襲ってくるだろう。
──
イツキが寝ている間、ある夢を見る。誰かが戦っている様子だ。
宇宙のような場所だろうか。葉巻型の物体が数えきれない程存在している。
その中に一つ、異質な物が存在した。ロボットである。
そのロボットは、葉巻型の物体を文字通り食っていた。
『食ってやる……! 全部まとめて食ってやる……!』
強い破壊衝動を感じる。今までにない、とてつもない破壊衝動。
それはまるで、宇宙そのものを破壊出来るという、強い力だ。
──
イツキは目を覚ます。寝汗なのか冷や汗なのか、とにかく体から汗が出ていた。
「なんか、すごい夢を見ていた気がする……」
思い出そうとしても、曖昧にしか思い出すことが出来ない。だが少しだけ、恐怖を感じていた。
岩の隙間から体を起こし、体を軽く動かす。毛布を片付けていると、偵察隊隊長が声を出す。
「全員集合」
メンバーはダッシュで隊長の元に駆けつける。イツキも遅れまいと走った。
「今日はこの拠点を中心に簡単な探索を行い、拠点の隠匿工作を行ったのちに本拠地へと帰還する。現在推定時刻は0735。1200までを地図作成とする。遠くには行かないように。以上」
レジスタンスのメンバーは、すぐに自分のやるべき行動を取る。
イツキも何かしようと思って、駆けだそうとした。
「あ、イツキ」
その時、隊長に呼び止められる。
「な、なんですか?」
「イツキは何かあったときの戦闘要員だから、この中間拠点の防衛を頼む。もし外で何かあったら、この無線機に連絡が入るはずだから」
そういって少し大きめのトランシーバーを受け取る。
「じゃ、よろしく頼んだよ」
そういって隊長は自分のやるべきことに戻る。
イツキは少し落胆する。
「俺はあくまで貴重な戦力か……」
そういって簡単な机と椅子が置かれている仮司令席に座った。
そんなことをしているうちに、メンバーのほとんどは周辺の探索に出て行ってしまった。残っているのは、衛生担当2名と通信担当2名とイツキのみである。
イツキにとっては正直耐えがたい状況だ。話したこともない相手と一緒にいるだけで苦痛すら感じる。
イツキは思考を別のことに使う。そこで、今日見た夢を思い出す。
ロボットと思われる物体と、宇宙船と思われる物体。ロボットのほうが小さく見えたのだが、宇宙船に対して完全に優勢であった。しかし、それが自分と何の関係があるというのだろうか。
そんなことをつらつらと考えていると、無線機から雑音が聞こえる。そして声が聞こえた。
『こちら東側! 多数の「オール・ワン」の戦闘員が現れた! 至急応援求む!』
その声に、イツキは思いっきり立ち上がって出入口へと走り出した。
外に出ると、一度方向を確認し、応援要請のあった方向へ走る。低い木が生い茂る中であるためうまく走ることは出来ないが、とにかくイツキは全力で駆ける。
そして少し拓けたところに出た。
するとそこには、「オール・ワン」の戦闘員が数えきれないほどいた。
「おわっ……!」
イツキは思わず声を出してしまう。それによって、戦闘員が反応した。
その瞬間、周辺に銃声が響き渡る。それと同時に、声も聞こえてくるだろう。
「早く変身しろ!」
その言葉を聞いたイツキは、すぐにバックルを取り出す。そしてアルファ・デバイスを起動し、上部に装填。バックルの前面を押す前にドリル・バックルも装填した。
『セカンド・スキャニング!』
「変身!」
バックルの前面を押し込むと、流体状の金属が体を包み込むのと同時に、右手にドリルが形成される。
『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』
ドリルフォームへの同時変身である。
「おりゃ!」
そのままイツキはドリルで戦闘員に攻撃する。
なまじ鉄の棒のようなものであるため、振り回すだけでもかなり強力である。しかもそこに回転が加わっている。もはや兵器といって差し支えないだろう。
そのまま戦闘員を薙ぎ払い、体の一部を捥ぎ、そして複数の戦闘員を弾き飛ばす。その勢いはすさまじく、戦闘員のほうは手も足も出ない。
こうして戦闘員を一気に排除した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
少しばかり息を整えていると、草むらの向こうから何かがやってくる音が聞こえてくる。
イツキはすぐにそちらの方を向き、戦闘体勢を取った。
するとそこから、イツキの体より一回りほど大きい怪人の姿があった。
『俺様はメタクラス。貴様の攻撃は通用しない……!』
その言葉が意味するように、全身のありとあらゆるところが装甲で防御されていた。
「なら、俺が無理やりにでも装甲を破る!」
イツキはドリルの回転を全開にして、メタクラスに突撃する。ドリルをメタクラスに突き立てるも、その頑丈な装甲によって弾き返されてしまった。
「なっ……!」
イツキは何度かドリルを突き立てたり、キックを入れたりしてみるが、残念ながら分厚い装甲の前には歯が立たない。
『クハハ、無駄だ。そんなもので俺様の装甲を破れることはない』
「やってみなきゃ分からんだろうがい!」
イツキは一度距離を取り、助走をつけてドリルを突き立てる。だが駄目だった。
ドリルの先端は装甲の上を滑り、勢い余ってメタクラスの後ろに転がってしまう。
「いてて……。こいつ、動きは鈍重なのに装甲が硬すぎる……」
『そうだろう、そうだろう。俺様は最強の装甲を持っている。お前の攻撃なんかちっとも痛くないぞ』
そういって、ゆっくりとイツキのほうを向く。
イツキは何か他の解決方法を探してみたのだが、根本的な解決方法は見つからない。
今自分が持っているもので解決できないか、体中を探る。
その時、ある物を発見する。別のデバイスだ。そこには「パイルバンカー」と書かれている。
「……やってみる価値はある……!」
そういってドリル・デバイスを引き抜き、パイルバンカー・デバイスを起動する。
『パイルバンカー!』
バックルの右側に装填する。
『セカンド・スキャニング!』
そしてバックルの前面を押した。
『アプルーブ!』
右腕部分の装甲が変形を始め、どんどん大きくなっていく。
そして流体状の金属が大まかな形を作ると、ギュッと形が定まる。
巨大な杭が装填された、まさに工業機械のようだ。これがパイルバンカーフォームである。
『今更そんな武器で、俺様を倒せると思うなよぉ?』
メタクラスはそんなことを言っているが、積極的に動こうとしない。あくまで受け身のようである。
それを察したのか、イツキはゆっくりとメタクラスに歩み寄っていく。
そして杭をしっかりと奥まで押し込み、装填。チャージを開始する。
電磁気力のメーターが振り切れたことを確認すると、イツキはパイルバンカーをメタクラスの装甲に押し付け、発射スイッチを押す。
すると、初速2750m/sで発射された杭は、メタクラスの装甲を簡単に砕いた。
『ギャアアア!』
杭を打ち出した衝撃で体に響いたのか、メタクラスは悲痛な声を上げる。
イツキは反動で少し後方に3歩ほど動いた。本来なら、作用反作用でもっと衝撃を受けているはずなのだが、まるでそんなものはなかったと言わんばかりに立っている。
イツキは再び杭を装填すると、メタクラスに接近する。
『い、いやだ……! これ以上は駄目だ……!』
メタクラスは逃げようとするものの、その足の遅さが仇となった。
再びメタクラスの装甲にパイルバンカーを押し付けると、発射スイッチを押す。
メタクラスの背中側の装甲が砕け、中身が完全に露わになった。
『イギャアアア!』
メタクラスは悲痛の叫び声を上げているものの、残念ながらイツキには届いていなかった。
イツキはパイルバンカーを三度装填すると、バックルの前面を押し込む。
そしてバックルの右側を押した。
『アルファ ファイターパンチ!』
パイルバンカーを振りかぶり、拳を突き出すと同時に発射スイッチを押す。
すると、杭がパイルバンカー本体から飛び出し、メタクラスの元に一瞬で飛ぶ。
メタクラスに命中した瞬間、彼を中心に大爆発が発生した。
「工事完了……」
そういって、イツキは変身を解除するのであった。
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