第6話 偵察
この日は主要なメンバーが会議室のような場所に集まって、ミネ博士からの話を聞く。
「これから皆さんには、『オール・ワン』の前哨基地のさらに先に言ってもらいます。厳密に言えば、この間襲撃した前哨基地、そして複数の怪人が出現する方向から、おそらく北と思われる方向に『オール・ワン』に関係する何かがあると考えられるわ。今回はある種の偵察のようなものと思っていれば問題ないわね。この偵察行動には第2班と第3班、そしてイツキに行ってもらいます。ただし無茶はしないこと。最悪の場合、イツキだけでも帰還するように行動してください。何か質問は?」
その言葉に、イツキが反応して手を挙げる。
「あの、どうして自分だけでも帰ってくるように指示するんですか?」
「あなたがレジスタンスの中で一番の戦力だからよ」
「回収したヘリクゼンバックルは?」
「まだ解析中。しばらくかかりそうだし、そもそもあのバックルに適合出来る人間がレジスタンスの中にいるとは思えないわ。よって、あなたがレジスタンス最大の戦力であると言えるわね」
「そうですか……」
「他に質問は?」
「あ、じゃあ……」
イツキが続けて手を挙げる。
「北と思われる方向って何ですか?」
「イツキにはまだ説明してなかったわね。後で私のデスクに来なさい。そこで説明するわ」
ミネ博士は会議室を一周見渡す。
「他にないようなら、以上で伝達を終了するわ。2日後の朝、外に集合すること。終わり」
「起立! 礼!」
これで解散となった。イツキは一足先に研究室に向かう。
研究室に着き、ドアをノックしようとすると、そこにミネ博士がやってくる。
「ちょうど良かったわね。とりあえず入って」
そしてデスクに向かう。
「さて、北と思われる方向について、だったわね?」
「はい」
「あなたは地球の地理をどこまで把握してる?」
「えぇと……」
「……質問が悪かったわね。ここはニホンと呼ばれる場所だけど、47都道府県言えるかしら?」
「まぁ、なんとなくなら……」
「ならいいわね。本題に入りましょう。遥か昔、ある日を境にして時間も空間も滅茶苦茶になってしまったの。ここはミトと呼ばれる場所だけど、東に歩いていったら何があると思う?」
「えぇと……。海ですかね……? その前の町なら大洗町とか」
「昔はそうだったのだけど、現状で東に向かったらツルガという都市に繋がるわ」
「敦賀って福井県の?」
「そう、全く正反対の場所に出るの」
ミネ博士はある紙を2枚取り出す。
「こっちが本当の地図。こっちが現状分かっている地図よ」
片方には正確な日本地図が、もう片方には手書きで書かれた地図だった。それらを見比べながら、ミネ博士は説明する。
「本来の地図なら、南に進めばチバかトウキョウに出るはずなんだけど、現状ではヒコネに繋がっている。西も本来の地図とは全く異なる場所に出る。これらの都市は少なくとも数百km以上離れているのに、現状は歩いて1時間で到着するような状況ね」
その説明に、イツキは混乱する。
「えと、つまり、どういうことですか?」
「そうね。簡単に言えば空間が捻じ曲がって、あり得ない場所へ繋がってしまう。今は安定しているけど、10年か20年に一度のペースで空間が再度捻じ曲がることもあるわ」
「はぁ……。それってワームホールみたいなのが出来てるってことですか?」
「ま、その認識でいいわ」
そういってミネ博士は地図をしまう。
「それにさっきも言ったけど、時間も滅茶苦茶になっているわ。今は西暦何年なのかも不明。幸い、一日という単位だけは変わっていないようだから、これを基準に日々を過ごしている状況よ」
「はぁ……、そうなんですか」
「ま、大まかな説明はこんな感じね。他に何か質問ある?」
「いえ」
「そ、なら明後日の偵察の準備でもしておきなさい」
そういってミネ博士は研究室の中心に置かれている机に向かった。
そこには、以前前哨基地で回収してきた未知のヘリクゼンバックルが置かれている。それの解析で忙しいのだろう。
イツキは静かに研究室の中を移動し、そっと外に出るのだった。
それから2日後、レジスタンスの戦闘員とイツキは建物正面に集合する。
朝礼台にミネ博士が登壇し、皆を一瞥した。
「皆さんには、これから偵察行動に移ってもらいます。当然ながら危険はつきものです。しかし、皆さんなら何かしらの情報を持って帰ってくると信じています。以上」
「総員、出発!」
そういって偵察隊は、拠点を出発した。
歩き始めて30分ほどで、木が生い茂った山中に出る。途中頻繁に休憩を取りながら地図を書き、現在位置を確認する。
そして進んだ先にあったのは、採石場のような場所に出た。洞窟のような場所をくり抜いたようだ。
「とりあえず、ここを中間地点にするのが得策だろう。周囲の警戒をしてくれ」
レジスタンスのメンバーは、そのまま周辺の確認をするために草木を分けて進む。
イツキも警戒に行こうと思ったのだが、偵察隊隊長に止められる。
「お前はここを守るために移動するな。ここの警戒をするんだ」
そういって隊長は、周辺の地図を埋めに移動する。
「え……。俺、荷物番……?」
結局、数人のメンバーと一緒に待機ということになった。
水筒の水をチビチビと飲みながら、ずっと座っていることになった。
その時、ガサガサと音がする。どうやら誰かが帰ってきたようだ。
だがどうも様子がおかしい。銃声も聞こえてくるのだ。
そして、メンバーが現れた。
「か、怪人だー!」
その瞬間、その後ろから巨大な影が現れる。それは完全に敵の姿であった。
イツキは反射的に飛び上がり、バックルを腰に装着する。
『アルファ!』
『スキャニング!』
バックルの前面を押す。
『アプルーブ!』
『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』
装甲が全身を覆い、変身が完了する。
そのままイツキは、怪人に向けて走り出す。
「でぇい!」
拳を振るうものの、簡単に弾かれる。
『ウオーン! アセンブラ様のお出ましだぞ!』
怪人アセンブラは周辺の手頃な石に対して、手を触れずに宙に浮かばせてみせた。
「なっ……。これも現実改変プロンプトの出来る技か!」
『でぇーい!』
アセンブラが手を前に出すと、石がこちらに飛んでくる。
イツキはそれに対して素早く回避するものの、いかんせん数が多い。数回ほど石が当たってしまう。
イツキは物陰に隠れると、あるものを取り出す。
『ドリル!』
『セカンド・スキャニング!』
『アプルーブ』
ドリル・デバイスを装填し、ドリルフォームに変身する。
ドリルを装備したイツキは、意を決して物陰から出て突進する。
『食らえー!』
そこにアセンブラから投石攻撃が飛んでくる。
イツキはそれらを、右手に装備されたドリルで次々と破壊していく。しかし、いかんせん数が多くて対処しきれていない。
「ふっ、ぬっ!」
『まだまだー! それー!』
投石の数が多すぎて、結局対処しきれなかった。投石のうちの一つがイツキの左肩に命中し、そのまま地に倒れてしまう。
「グッ……!」
『おやおやー? そんな程度の実力なのかなー?』
アセンブラはだんだんと近づいてくる。
「くそ、ドリルが駄目なら……」
イツキは立ち上がりながらドリル・デバイスを引き抜き、別のデバイスを取り出した。
『ブルドーザー!』
ブルドーザー・デバイスを、バックルの右側に装填する。
『セカンド・スキャニング!』
そしてバックルの前面を押し込んだ。
『アプルーブ!』
これにより、両手の装甲が変化して巨大な盾のようになる。ブルドーザー・フォームだ。
巨大な盾のようなものは、ブルドーザーのブレードであり、実質的に盾のように機能するようだ。
「うぉぉぉ!」
『何度来ても無駄だよー!』
そういってアセンブラは投石攻撃を続ける。
しかしイツキは、ブレードを使って防御や弾きをしながら前進する。
それは、先ほどとは比べ物にならない程の防御力だ。
『な、なななー!?』
アセンブラは少しずつ後退しながら投石を続ける。しかしそれ以上にイツキの前進が早い。
そしてイツキの間合いにアセンブラが入る。
「はぁ!」
ボクシングのガードのようなポーズを取って、ブレードが前に来るように腕を構える。そしてそのまま、瞬発力で突撃する。
その攻撃で、アセンブラは後方に押し出されてしまう。
アセンブラが姿勢を崩したところで、イツキはブレードを使った裏拳をかます。
『グアッ!』
アセンブラは吹き飛ばされて、地面を転がる。
「今だ!」
イツキはバックルの前面を押し、続いて右側を押す。
『アルファ ファイターパンチ!』
イツキは右半身を引き、拳に力を溜める。そして一気に拳を振るった。
ちょうどアセンブラが体を起こした所に、拳から放たれた波動がアセンブラに命中する。
そのまま勢いに押されて、アセンブラの体は石の壁へとめり込んだ。
そして爆発する。
「ふぅ……」
イツキは変身を解除して、レジスタンスのメンバーの方を見る。
すると、偵察隊隊長が近づいてきた。
「よくやった、イツキ。君のおかげで俺たちは救われた。ありがとう」
そういって隊長はイツキの肩を叩く。
イツキはなんだか、レジスタンスの仲間になれたような、そんな気がした。
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