第5話 警備

 前哨基地から帰還したレジスタンスは、各々の休憩を取ることになった。

 ただ、現場から物品を持ち帰ってきた班と研究職の面々は、それの処理を行う。

 イツキはミネ博士に連れられて、研究室のような場所に入る。

「それで、今回の奇襲で手に入れたバックルというのは?」

「これです」

 部屋の中央のテーブルに、金属とも樹脂とも見て取れる物品が置かれていた。

「これまた奇妙な形をしているわね……」

「一応資料と思われる紙と複数のメモリも回収しています」

「分かったわ。細心の注意を払って解析を進めて」

「はい」

 研究員はそのバックルを、横に置いてあるパソコンに繋ぐ。

「あれもヘリクゼンバックルなんですか?」

「えぇ、そうよ。あなたが使っているものと違うでしょ?」

「そうですね」

「あなたの持っているバックルを入手した時に判明したのだけど、ヘリクゼンバックルは複数個存在していると考えられるわ。そしてお互いのバックルとアイテムは共通していない。別のアイテムとバックル同士を使わせないようにする措置ね」

「そんな事してどうするんですか?」

「もしアイテムの規格を統一なんてしたら、強いアイテムを求めて身内で争いが発生する。それを抑制するためと思われるわ。それに……」

 そういって研究員の操作しているパソコンを覗き込む。

「やっぱり……。あなたが使ってるバックルと、このバックルでは、使われているシステムそのものが違うようね。あえて互換性をなくして、無駄な争いを行わないようにしたと考えられるわね」

「なんか、かなり面倒なことしてますね……」

「これが標準ってことよ。あなたのバックルも、解析には何か月もかかったもの」

「そうですか……」

 そういって、イツキはバックルを見つめる。

「それじゃ、解析のほうよろしく」

 ミネ博士は研究員に解析を任せると、そのままイツキを自分のデスクに連れていく。

 そしてミネ博士の背後にある棚から、今イツキが使ってるアイテムのようなものを複数個取り出した。

「あなたが変身する時に使用しているのは、正式にはアルファ・デバイスと呼ばれているわ。そしてここにあるのは、変身する時にカスタマイズ出来るカスタムフォーム・デバイスよ」

「カスタマイズ?」

「えぇ。アルファ・デバイスが何もない素体なら、カスタムフォームは追加機能って言ったところかしら」

 そういってミネ博士はデバイスの一つを見せる。

「これはドリル・デバイス。その名の通り、ドリルを装備出来るフォームね」

「はぁ……」

「これを使う時は、バックルの右側に差し込んで使うこと。いいわね?」

「はい」

 こうしてイツキは複数のデバイスを受け取る。

「それじゃあ私もさっきのバックルの解析に回るから。後は好きにして。ただし、戦闘訓練は受けること」

「分かりました……」

 イツキは少し不本意ながらも、戦闘訓練を受けることになった。

 翌日から、再びジョーの元で訓練を受けるイツキ。

「どんどん打ち込め! 攻撃の手を緩めるな!」

「はぁ……! はぁ……!」

「ワンパターンになってきてるぞ! 足も使え!」

 今はジョーと一対一の打ち込み練習中である。現在レジスタンスの中でも、最も戦闘力が高く、かつ敵と対等に戦えるのはイツキしかいない。そのため、イツキが優先的に戦闘訓練を受けることになったのだ。

「ラスト! 打ちまくれ!」

「あぁぁぁ!」

 イツキはほぼ絶叫に近い雄たけびを上げる。

「そこまで! 休憩!」

「っあぁ……」

 イツキは事切れたように、地面に横になる。

「いいかイツキ。これからのレジスタンスはお前が中心に戦っていくことになる。そのためには、戦闘に慣れておく必要がある」

「分かってますって……」

 イツキは息を切らしながら、返事をする。

「正直言って、お前の戦闘はまだまだ未熟だ。博士から聞いた限りじゃ、バックルの力でゴリ押ししているだけらしいじゃないか。そんなヤツがもっと強いヤツと戦うんじゃ、必ずお前が負ける。そのための戦闘訓練だ」

 ジョーは説教じみたことを言う。

 しかしそんなこと、イツキは分かりきっていた。バックルの力はかなり強大だし、体も思った通りに動かせている。それでもまだ技術が足りないのだ。

 それに、一刻もこんな戦闘訓練を終わらせたいのもある。周りを見てみると、レジスタンスの戦闘員が、イツキのほうを見ながら何か話していたり、嫌な視線を向けてきている。イツキの存在が邪魔なのか、それとも敵のスパイとでも思っているのか分からないが、注目の的になっているのだ。

「おし、じゃあ続きをやるぞ。さぁ、立て!」

 そういってジョーはミットを構える。

 イツキは苦しい表情をしながら、全身の力をふり絞って立ち上がった。

「ふぅん、努力家ではあるんだな」

 そんなイツキの様子を、ミネ博士は窓際から眺める。

 それから数日後、イツキは朝からレジスタンスの拠点周辺の警備に当たっていた。レジスタンスの戦闘員は交代で警備を行うのだ。それはイツキとて例外ではない。

 本来なら二人一組になって周辺を見回るのだが、イツキの場合はなぜか三人一組になっていた。イツキのことを警戒してのことだろう。

 そんな時、瓦礫の山から人影のような何かが姿を現した。

「あれは生存者か?」

 レジスタンスの戦闘員が確認のために近寄ろうとする。

 その時、イツキは何か嫌な感覚を覚えた。

「待って、そいつは──」

 その時、近づきつつあった戦闘員の地面が、ボコッと凹む。戦闘員が手を伸ばしても届かない程の大きな穴が開いたのだ。

 そこに落ちる戦闘員。イツキはとっさにバックルを装着する。

『おいらの名はソート! 全部並べ替えるぞぉ!』

 怪人である。すでにもう一人の戦闘員は仲間を見捨て、報告のために拠点に戻っていた。

 ここはイツキ一人で抑えるしかない。

『アルファ!』

 アルファ・デバイスのボタンを押し、それをバックルに差し込む。

『スキャニング!』

 変身ポーズを若干省略するように、腕を前に出して交差させ、交差させたまま胸の前に持ってくる。

「変身!」

 バックルの前面を押し込んだ。

『アプルーブ!』

 バックルから流体状の金属がイツキのことを包み込み、そして造形が現れる。

『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』

 変身したイツキは、真っ先に穴の方へと走り出す。

 穴の中を覗いてみると、戦闘員のうめき声が聞こえてくるだろう。

「今助ける!」

 イツキはそのまま穴の中へと落ち、うまく着地する。そして戦闘員を抱えたまま、思いっきりジャンプした。

 穴の深さは5メートルほど。簡単に脱出することが出来るだろう。

 するとそこには、拠点から10人ほど戦闘員がやってきていた。

「敵を発見。攻撃を開始する」

 そういって小銃を持った戦闘員が一斉に攻撃を開始した。

 イツキは後ろの方にいた人に、先ほど救助した戦闘員を預け、怪人の方を見る。

 怪人は何らかの方法を使って地面を操作し、壁のような物を作り上げていた。

『そんな攻撃じゃ、おいらには通用しないよー!』

 すると、戦闘員たちの目の前の地面から、細い棒状の土が飛び出してきた。

 ある者は顔に、ある者は腹部に、ある者は小銃に棒状の土が命中する。

「なんだ、この攻撃は……」

 イツキは相手の攻撃を分析しようとするものの、その原理は全く分からない。その時、あることを思い出した。

「現実改変プロンプト……」

 カイドウが言っていたものである。

「もしかしたら、プロンプトを使って地面を操作しているのか?」

 この仮定が正しければ、攻撃はおそらく単純なものになるだろう。

「よし……!」

 イツキは覚悟を決めて、ソートの方へと走り出す。

『無駄無駄! お前も使えなくしてやる!』

 次の瞬間、イツキのすぐ目の前の地面が隆起する。だが、それを予感していたイツキは、簡単に飛び出してきた棒状の地面を回避する。

『何っ!?』

 そのままイツキは、ソートに向かって走り続ける。

『くっ、まだまだぁ!』

 ソートは両手を広げ、広範囲の地面を操作する。

 あちこちから飛び出してくる棒状の地面。だがイツキは、それらを軽い身のこなしで回避していく。

 そしてソートまであと少しの所まで接近する。イツキは拳を握り、それを振りかざす。

「はぁっ!」

 そしてソートをぶん殴ろうとした瞬間である。

 横にあった壁から隆起した棒状のコンクリートが、イツキの脇腹を捉えた。

「ガッ!」

 そのままイツキは横に転がる。

『へっへー、ひっかかったー!』

 さらにソートは、転がった先の地面を操作し、ドーム状の壁を作る。その中にイツキを閉じ込めるつもりなのだろう。

「くっ、不味い! どうすれば……」

 その時、イツキはある物を思い出す。

 カスタムフォーム・デバイスである。その中から、ドリル・デバイスを取り出す。

「ここは行くしかない……!」

 ドリル・デバイスについているボタンを押す。

『ドリル!』

 ドリル・デバイスをバックルの右側に装填する。

『セカンド・スキャニング!』

 そしてバックルの前面を両手で押し込んだ。

『アプルーブ!』

 すると、右腕の装甲から流体状の金属が流れ出し、右手の甲の部分から細長い三角錐状の何かが伸びる。

 それはやがて、よく見るドリルとなった。

「これなら……!」

 一方外側では、ソートが現実改変プロンプトを操作して、ドームを縮小させようとしていた。

『これでよし……! さぁ、お前には死んでもらうよ!』

 その瞬間だった。ソートの目の前の地面が、爆発するように崩壊したのだ。

 そこには、ドリルフォームとなったヘリクゼン・アルファの姿が。

『な、何だと……』

「簡単には負けない……。俺はお前を、書き換える!」

 そしてソートの方へ走り出す。

『この……!』

 ソートも地面や壁を隆起させて応戦する。

 しかしそれらは、ドリルの前にことごとく粉砕される。

 そして、ソートはイツキの間合いに入ってしまう。

『しまっ……』

「うおぉぉぉ!」

 ドリルの回転を増大させて、思いっきりドリルをソートにぶち込む。

 勢いもあってか、そのままソートの体を突き抜けた。

『こ、こんな所で……!』

 そしてソートは爆発した。

 イツキは変身を解除すると、そこに戦闘員の一人がやってくる。

「あれ? 君は、さっきに穴に落ちてた……」

 穴から救助した戦闘員である。

「あの、さっきは助けていただいてありがとうございます」

「いや、礼なんて……。一応仲間ですから」

 そういってイツキは手を頭の後ろにやる。

 戦闘員は頭を下げて、仲間の元に戻っていく。

「誰かを助ける、か。それが俺に与えられた使命なのかもな」

 そんなことを呟くイツキであった。

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