第4話 スクリプト
数日後。ミネ博士の呼びかけによって、レジスタンスの面々が体育館のような場所に集合していた。
「皆集まったわね? 今日は、例のカチコミ作戦を実行に移そうと思う」
その言葉に、一同の空気が変わる。分かっていないのは、おそらくイツキだけだろう。
「作戦の内容を簡単におさらいしよう。目標はここから一番近い『オール・ワン』の前哨基地。一点集中突破による電撃作戦が大まかな作戦だ。今からここの詳細を詰める」
そういってプロジェクターを使って説明する。
「この地点から基地内に侵入。簡単に基地内を捜索したのちに撤退する。所要時間は1時間以内を目標ね。仮に仲間が怪我をして動けなくなっても、時間が来たら構わず切り捨てて脱出すること。以上。何か質問は?」
余りにも簡潔な説明。そして人命軽視である。イツキは文句の一つでも言おうとしたが、その前にミネ博士の口が開く。
「今回の作戦の序盤は、奪取したプロトタイプのヘリクゼンバックルに見事適合したイツキが担当する。彼には切り込み隊長としてカチコミしてもらうわ」
その時、レジスタンスの何人かがイツキのほうを見る。その視線はおおよそ、差別的な視線であった。
「その他質問がなければ、説明は以上。作戦開始は、今より3時間後とする。解散」
そうしてレジスタンスの面々は、準備のために駆けだしていく。
その流れに逆らうように、イツキはミネ博士の元に行く。
「ミネ博士!」
「イツキ。さっきの作戦は聞いたわね? 切り込み隊長としてよろしく」
「そんなことよりも、こんな作戦でいいんですか? 明らかに人命を軽視しすぎです」
「元よりレジスタンスはそういうものよ。ならあなたが今から作戦を立案する? それとも一人でカチコミかけられる?」
「それは……」
「まぁ、やってみないと分からないでしょうけど、十中八九無理ね。あなたには戦闘の経験値が少なすぎるもの」
そういってミネ博士はイツキから体育館の出口へと歩いていく。
「あなたも準備しなさい。今日は大変な一日になるから」
イツキはその場に立ち尽くしていた。
「俺は、まだ力が足りないのか……」
しかし、決まってしまったからには従うほかない。イツキは前を向くことにした。
数時間後、レジスタンス一行はとある場所に来ていた。この場所こそ、「オール・ワン」の前哨基地である。
とはいっても、主戦力はすでに撤退しており、内部には敵の戦闘員と怪人がいるだろうと予測されているのみである。
銃火器を装備した斥候のレジスタンスが、物陰から様子を伺う。突入予定場所付近には問題はないようだ。
そのまま突入可能の合図を出す。合図を受け取ったミネ博士は、全体に指示を出した。
「突入開始」
その合図と共にイツキは覚悟を決め、バックルを装着する。
『アルファ!』
『スキャニング!』
『アプルーブ!』
『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』
流体状の金属を身にまとい、変身が完了する。
敵の戦闘員が突入予定場所付近を警戒している所を、イツキが強襲する。
「うぉぉぉ!」
敵の戦闘員ごとタックルで押し込み、前哨基地の壁を破壊する。
「今だ! 行け行け行け!」
銃で武装したレジスタンスが、壁に開いた穴から続々と侵入する。
まずはイツキが先頭に立って敵を排除。その後ろからレジスタンスが前哨基地を探索するという流れだ。
イツキは作戦通りに、行く手を阻む戦闘員を排除することに集中する。通路の向こう側から現れた戦闘員がいれば、レジスタンスの面々に被害が及ぶ前に攻撃する。
そんな感じで前哨基地を進んでいくと、ある場所に到達した。そこは中庭のようで、そこそこ広い。
その中心にあるベンチに、一人の男が座っていた。
「誰だ、お前は?」
イツキは男に聞く。
「そういうのはまず自分から名乗るもんじゃないのか?」
そういって男は立ち上がる。
「まぁいい。どちらにせよすぐに知ることだ。俺はカイドウ。ただの雇われの傭兵だ」
そういってイツキの数メートル前までやってくる。
「そして、諸兄らレジスタンスの敵でもある」
そういってカイドウは、四角い何かを取り出す。
そこに遅れてミネ博士がやってくる。
「イツキ! 注意しろ、そいつは何かを隠し持っている!」
「隠しても無駄だから、今から見せてやるよ」
そういって何かを腰に当てる。するとベルトが展開し、腰に装着された。
「それって、まさか……!」
「そうだ、ヘリクゼンバックルだ」
そういってカイドウは、右手に持った厚めのカードのようなアイテムを顔の左側に持ってくる。そして、それの中心部分のボタンを押した。
『スクリプト!』
そのまま顔面を横切って、アイテムを右側に持ってくる。
「変身」
バックルの右側にアイテムを添えると、そのままスライドさせてバックルに装填する。
『ローディング!』
次の瞬間、バックルを中心にデジタルのような文字が全身を包む。そしてそれに合わせて流体状の金属が展開され、その造形が露わになる。
全身が流線形のようなもので覆われており、頭部の額には剣のような造形が突出していた。
『ファイター スクリプト!』
それは、イツキと似たような感じの変身だった。
「まさか……!」
ここまで見れば、誰でも分かるだろう。
「俺も、格闘者だ」
変身が終わり、ゆっくりと歩み寄ってくるカイドウ。
イツキは勇敢にも、それに立ち向かっていく。
「うぉぉぉ!」
勢いに任せて、走りながらのパンチを繰り出すイツキ。しかしそれを、カイドウは簡単にいなしてしまう。
そのままイツキによる一方的な攻撃になるものの、いまいち効いている様子はない。どちらかと言えば、ムキになっている子供に対してあやしているような感じである。
「組織から強奪したバックルで変身できた適合者なのに、所詮はこんなものか……」
そういってカイドウはイツキのパンチを片手で受け止める。
カイドウはそのまま体全体でイツキのことを押す。それによって、イツキの体は中庭の入口、ミネ博士の横まで押し戻される。
「大丈夫かい、イツキ」
「ちょっとこれは予想外ですね……。殴った感じ、簡単には勝てそうにはないです」
そういって、イツキは肩の突起からアルファ・スラッシャーを勢いよく取り出す。
「今の自分の全力を出します!」
そういって再び走り出す。
「はぁぁぁ!」
カイドウの手前で若干沈み込み、そのまま勢いよく突きをかます。
しかし軌道を読まれていたのか、簡単に回避されてしまう。
イツキは、カイドウが回避した方向に体をひねり、無理やり剣先の軌道を横に移動させる。せめてひっかき傷でもいいからダメージを与えておきたいからだ。
腕に引っかかりそうな所であった。突然カイドウの腕周辺の空間がグニャリと変形し、そのままアルファ・スラッシャーは空振りをする。
「なっ……!」
イツキは驚きつつも、地面を転がってカイドウと距離を取る。
「なんだ今の……」
物理現象とはかけ離れた「何か」が働いたような、そんな感じだ。
「お前、まさか現実改変プロンプトを知らないのか?」
「現実改変……?」
聞いたこともない言葉に、イツキは混乱する。一方で、カイドウのほうは頭を抱えていた。
「仕方ねぇ。特別に教えてやる。現実改変プロンプトは、文字通りこの現実を書き換える力を持っている。さっき俺はお前の剣から逃れるために、剣と腕の間に小さな余剰空間を創り出した。ヘリクゼンバックルを使っている適合者なら常識の技だ」
「なるほど、そういう機能だったのね……」
後ろでは、ミネ博士が関心している。
「さっきその剣を肩から引き抜いている所を見るに、とっくに使っているもんだと思っていたが……。見当違いだったか」
そういってカイドウはゆっくりとイツキに接近する。
イツキも黙って接近されるのを許さず、思い切ってアルファ・スラッシャーを振りかざす。
だが、イツキの間合いの内側に入られてしまい、そのままスラッシャーを持つ腕を掴んでしまう。イツキは反対の手でカイドウの手を離そうとするものの、その手も封じられた。
「おまけに格闘も剣技もズブの素人と来た。お前本当に適合者か?」
カイドウから煽られてしまい、イツキは反撃しようとした。
だがその前に、カイドウから蹴りを入れられて、イツキは後ろに下がってしまう。
その瞬間、カイドウはバックルに装填されたカード状のアイテムを右から押す。
『スクリプト レイズアタック!』
拳を握り、そのまま前に正拳突きをする。すると、拳から放たれた衝撃波がそのままイツキの方に飛んでいく。
イツキはそれをスラッシャーで受け止めるものの、ぶつかった衝撃で弾き飛ばされてしまう。
そのまま10mほと吹っ飛び、イツキは地面を転がる。
「今日はここまでにしておこう。あばよ」
そういってカイドウは建物の奥へと消えていった。
「……くっそ」
イツキは変身を解除する。そこにミネ博士が走ってくる。
「無事?」
「えぇ、なんとか……」
「彼──カイドウと言ったか? 初めて負けた相手ね」
「もっと他にいうことあるでしょうよ……」
そんな話をしていると、レジスタンスの戦闘員が走ってくる。
「ミネ博士! そろそろ時間です!」
「分かった。何か収穫はあったか?」
「えぇ。未使用のヘリクゼンバックルと思われるものを発見しました」
「よし、戦果としては上々だね。誰かイツキに肩を貸してやってほしい」
こうしてレジスタンスの面々は、前哨基地を無力化し、拠点に戻るのだった。
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