第3話 撃破

 怪人コンパイルとの戦闘の後、イツキはミネ博士のところへ戦闘の報告をしに行った。

「あぁ、全部見ていたよ」

「え? 見てたんですか?」

 あっけなく言うミネ博士。

「そりゃ、貴重な戦力だもの。戦闘可能かどうかの判断をするのも私だから」

 当然でしょ? と言わんばかりの態度である。

「で、あの戦い方だけど、無駄な部分が目立つが及第点といった所ね」

「そりゃあ、記憶喪失なわけですし……。素人みたいなものじゃないですか?」

「でも素人にしては体の動かし方がいいのよねぇ。ヘリクゼンバックルが何かしているのかな?」

 そんなことを言いながら、ノートパソコンに向かって何かを打ち込んでいく。

「ま、あなたが良いっていうなら、今の感じで問題ないわ。次も怪人が出たら対処よろしく」

 そういって部屋を追い出された。

「なんていうか、雑な人だなぁ……」

 そういって外に出た。戦闘が終わった後だというのに、ジョーとの格闘訓練が待っているのだ。

「おう、博士から聞いたぜ? 戦闘は問題ないようだな」

「どう問題ないのかは分かりませんが……」

「そういうわけだから、しばらくの間は体力をつけることをメインにする。まずは外周十周からだ。そら行った行った!」

 そういってイツキのことを追いかけまわす。

「ヒィー」

 イツキは仕方なく校庭のトラックと思われる場所を走っていく。

 その間に、イツキは他のレジスタンスの人々を眺める。下は小学生くらいの子から、上は白髪が目立つようになったミドルまで、年齢性別問わずに様々な人たちが戦闘訓練を行っている。

 これも「オール・ワン」との戦闘を想定しているのだろう。そんなことを思いながら、イツキはトラックを走るのであった。

 翌日。当然の如く訓練が入っている。

「よし、今日も外周だ。そうだな……、三十周するか」

「嘘でしょ……」

 絶望のマラソンが始まると思った、その時である。

 聞き覚えのある金属音が聞こえてきた。怪人出現の合図である。

「建物真正面から来たぞー!」

 そちらの方を見てみると、怪人コンパイルと手下の戦闘員がやってくるのが見える。

「イツキ! 早く行ってこい!」

 ジョーが民間人を避難させながら言う。

 イツキは、バックルとアイテムを持って、怪人の元に向かう。

 一方怪人コンパイルは、戦闘員に指示を出して周辺を破壊していた。

『全テをリセット……スル!』

「そこまでだ!」

 そこにイツキがやってくる。

「これ以上お前の好きにはさせない!」

 イツキはヘリクゼンバックルを腰に当て着装し、アイテムのボタンを押す。

『アルファ!』

『スキャニング!』

「変身!」

 そしてバックルの前面を押す。

『アプルーブ!』

 流体状の金属がイツキを包み込む。

『ファイター ヘリクゼン・アルファ!』

「はぁ!」

 変身完了後、イツキは戦闘員と殴り合いに入る。四方八方なら浴びせられる攻撃に対して、イツキは躱し、受け止め、カウンターをしていく。

 まるで格闘術に精通しているような身のこなしで、戦闘員を次々と排除していった。

「これでラストッ!」

 最後の戦闘員を殴り飛ばして、コンパイルと対面する。

「さぁ、昨日の続きと行くか?」

『コノ……三流風情ガ……!』

 コンパイルのほうから攻撃を仕掛けてくる。

 大振りなパンチで向かってくる。そんな簡単に当たるわけもなく、イツキはヒョイヒョイと躱していく。その躱しの間に、イツキはパンチなどの攻撃を当てていく。

「ほらほら、どうした!?」

 まるで煽るように、イツキはコンパイルのことを殴って蹴る。

 結局コンパイルは、殴られて地面を転がっていった。

『グギギ……! こんなハズでは……!』

「だいぶ戦闘に慣れてきたな」

 そういってイツキは肩をグルグルと回す。

「降参でもするか?」

『誰ガするか……! こうなったら……!』

 そういってコンパイルは、左腕に装着していた電子機器を操作する。すると、空中に何かプログラミングのような文字列が出現し、それが棒状に形成される。

 一瞬光輝くと、それは一つのメイスになった。

『覚悟ー!』

 そういってメイスを振りかざしながら、イツキへと突撃してくる。

「うわっ! そんなのアリか!?」

 イツキはメイスの攻撃範囲から逃れようと、必死に後ずさりする。しかし、連日の訓練の成果が出ているのか、剣の軌道を予測して回避出来ていた。

「このままじゃ埒が明かない……!」

 そう考えたイツキは、いったん大きく後退すると、そのままジャンプで近くの建物の上へと逃げた。

「逃げれたのはいいけど、どうやって戦えばいいんだ……」

 杖と拳では、拳の方が圧倒的に不利である。せめて同じ棒状のものがあれば、あるいは。

 その時、ミネ博士の言葉を思い出す。

『適合者の意思に合わせてある程度変化する』

「俺の意思に合わせて変化するなら……」

 イツキは思い切って、肩に生えていた小さな突起物を掴む。

「頼む……。剣になってくれ!」

 それを言った後、突起物を強く引っ張る。

 すると、突起物はスルッと抜けて、一振りの剣へと変化した。レイピアのように細い剣身だが、その辺の瓦礫に含まれている鉄筋を簡単に斬ることの出来る程は硬いようだ。

 アルファ・スラッシャーの誕生である。

「これなら……!」

 その時、追いかけてきたコンパイルが現れる。

『ギギ……。見つけたゾ……!』

 そういってコンパイルはメイスを振りかざしてくる。

 それに対抗するように、イツキはアルファ・スラッシャーでメイスを受け止める。

 それから数度にわたって鍔迫り合いが起こる。

「はぁっ!」

 アルファ・スラッシャーを手に入れたことにより、イツキの攻勢は強まる一方だ。

 だんだんとコンパイルに攻撃が命中する。

『グアァ!』

 建物の外に出ると、イツキはアルファ・スラッシャーを体の前に掲げて構える。

 そしてイツキは強く願う。

「今ここに、敵を引き裂く力を……」

 すると、アルファ・スラッシャーから炎のようなものがまとわりつく。

 イツキはそれを、コンパイルに向けて振る。斬撃がそのままコンパイルへと飛んでいき、彼の体に命中する。

 コンパイルは地面に倒れ、爆発を起こした。

「倒せた……のか?」

 爆発跡地を確認するも、コンパイルの姿は見当たらない。ただ、コンパイルが使っていたメイスが残っていたため、イツキはコンパイルを撃破したと判断した。

 変身を解除し、イツキはレジスタンスの建物に戻る。

 それをジョーやレジスタンスの仲間が出迎えた。

「よくやったな、見ていたぞ」

「頼りないと思っていたが、そうでもないようだ」

「兄ちゃん、意外と強いんだな」

 そんな声が上がる。

 イツキはなんて返したらいいのか分からず困惑した。とりあえず「ありがとう」とだけ返す。

 そして建物に戻ると、ミネ博士が立っていた。

「今回も見ていたよ。ま、これも及第点といった所かな。あなたは敵を倒せるだけの力を持っていることが分かった」

「はぁ……」

 そういって踵を返す。

「ついてきて」

 イツキはミネ博士に言われるがまま、建物の中を歩く。着いた場所は、ミネ博士たちが研究室と名付けた部屋だ。

「入って」

 中に入ると、様々な装置が置いてあるのが分かるだろう。その中で、あるパソコンに前に座る。そしてキーボードを叩いていく。

「そこにヘリクゼンバックルを置いて」

 ミネ博士はパソコンの横のスペースを指さす。イツキは無言で、バックルを置いた。

 するとミネ博士は、バックルの下部にコードを挿してパソコンと接続する。

 そして何か解析のようなものを始めた。

「今、私たちの知りうる範囲で解析を行っている。それによると、このヘリクゼンバックルとあなたの適合率は84%と言ったところね。今までで一番高い数値を出しているわ」

「そうなんですね……」

 イツキは相槌を打つしかなかった。

 その間、ミネ博士は何かを考える。

「……そうだね。例の計画を実行に移そうか」

 そういってミネ博士は立ち上がる。

「カチコミかけるよ」

「カチコミ……?」

 なんだか嫌な予感がするイツキだった。

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