第38話 脱出

 私は、クリンさんを無力化する作戦を話した。

「なるほど、うまくやれば一瞬で決まるな」

 と、秋斗は賛成してくれた。

「そのくらいの違法行為なら、違法のうちに入らないわ! 王子だし、緊急時だし!」

 と、フウラちゃんも賛成してくれた。

「ただ、その作戦は……」

 ガイア君だけは、渋い顔をした。

「魔法に法則があるという前提で成り立っています」

「ご安心ください、王子!」

 お父さんが元気に割り込んできた。

「魔法には法則があります!」

「……」

 ガイア君は小さく深呼吸したあと、言った。

「わかりました。海さんを信じます。その作戦でやってみましょう」


 秋斗が靴を履き直した。靴ひもをしっかり締めて、出力を最大に調整する。

「よし、大丈夫そうだ。ガイアはまだか?」

 私達は、がらんとした部屋の中央をじっと眺めた。この部屋にあった椅子もテーブルも食器も、全部隣の部屋に持っていった。私達は部屋の隅に固まって、ガイア君が戻ってくるのを待っていた。

 次の瞬間、パッとガイア君が現れた。

「よ、よかった、なんとか無事に飛べました」

 物が多い場所に瞬間移動するのは危険だ。だから私達は、部屋を片付けてガイア君を待っていたんだ。

「ガイア君、おかえり! うまくいった?」

「はい、準備万端です」

 よし、これで作戦の第一段階はクリアした。

 話している間に、フウラちゃんはカーテンの隙間から外を確認した。

「村人達もクリンさんも、まださっきの場所にいるわ。あたし達が諦めて出てくるのを待っているのかもしれないわね」

「じゃ、諦めたフリして出てみるか」

 秋斗が、お腹側にリュックを抱えた。そして背中にガイア君をおんぶした。

 この姿を見て、諦めたと思うかな……?

 秋斗はドアの前でしゃがんで、靴に手を伸ばした。

「ガイア、しっかり捕まってろよ」

「はい」

「それじゃ海、三つ数えたらドアを開けてくれ」

「うん」

 私は玄関ドアのノブに手をかけた。

「じゃあ行くぞ。3……2……1……今だ!」

 勢いよく、ドアを開けた。

 それに負けないくらいの勢いで、しゃがんだ姿勢の秋斗が外へ飛び出した!

「なっ、なにごと!?」

 クリンさんがびっくりしてるけど、村の人達の魔法は解けていない。ガイア君が前に手を伸ばした。

「クリンさん、止まれ!」

 ピタッ、とクリンさんの動きが止まった。魔法が届いた!

 でもまだ、秋斗とクリンさんの間には、村の人達がいる。

「動け!」

 その人達を、ガイア君が魔法でどかした!

 あっという間に、秋斗がクリンさんのところに着く。秋斗はスピードを緩めず、そのままクリンさんに突撃した!

「ガイア!」

 秋斗がクリンさんを捕まえた! それと同時に合図をする。

 ガイア君は二人の体を両手でつかんで、叫んだ。

「移動する!」

 パッ、と三人の姿が消えた!

 村が一瞬、シン、となった。

 ここまでスピード勝負だった。

 ここからもスピード勝負だ。

「フウラちゃん、どう?」

「まだ。まだよ」

 私達は、村の人達の様子を観察した。

 みんなまだうつろな目をしている。

 もしかして、失敗?

 そう思った次の瞬間。

 村の人達が、ピク、と動いた。目に生気が宿る。背筋を伸ばして、きょろきょろし始めた。

「あれ? 俺達は今まで何を……?」

 魔法が解けた!

 私は振り返って、お父さんに手を伸ばした。

「お父さん、今のうちに逃げるよ!」

「え、でもぼくは……」

「大丈夫だから、早く!」

 まだスピード勝負なんだ。この状態が何秒持つのか、わからない。

 お父さんはライフル銃を抱えたまま、一歩、二歩、恐る恐る足を前に出した。

「あ、あれ……? こ、怖くない! 外に出られるぞ、海!」

 私はお父さんの手をつかんで、外に引っ張り出した。

 お父さんは、無事だ!

「フウラちゃん!」

 お父さんとつないだ手を、フウラちゃんに差し出す。

 フウラちゃんはそこに自分の手を重ねると、三人の手に魔法の棒を突きつけた。

「移動する!!」

 パッ、と、景色が変わった。

 ここはもう、村の外。


 私達は、脱出に成功した。

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