第36話 犯人探し

 お父さんが、監禁されてる!? 本人すら全く気付かないうちに!?

「そんな……どうすれば外に連れ出せるの?」

「魔法を解くか、より強い魔法で上書きするしかありません。でも僕にもフウラにも、心を書き換える魔法は使えません」

 ってことは、魔法を解くしかない。

「魔法は、かけ続ける必要がありますから、術者を眠らせたり驚かせたり気絶させたりすれば解けます。龍河さんをここから助け出すには、彼に魔法をかけている魔法使いを見つけ出し、何らかの方法で魔法を止めさせるほかありません」

「瞬間移動で村の外に連れてくわけには行かないのか?」

「そんなことをしたら、龍河さんは恐怖でパニックになるでしょう」

 さっきのお父さんの様子を思い出して、私はぞっとした。家から連れ出された瞬間に、お父さんはあれ以上の状態になってしまうだろう。

「容疑者は四人ね。この村にいる四人の魔法使いのうち、誰かが術者よ」

「それすら嘘かもしれねえぞ。村ぐるみでおじさんを監禁してるなら、おじさんの知らない魔法使いがいるかもしれない」

「う……そうね」

「そもそも、術者が一人とも限らない。魔法は、術者が眠っても解けるんだろ? ってことは、おじさんに魔法をかけ続けるためには、眠っちゃだめだ。二人が交代で魔法をかけているはずだ」

「そうとも限らないわ。龍河さんが寝ている間は、術者も寝ていられる。それに、心を操れる魔法使いが、こんな小さな村に二人もいるとは思えない」

「それにぼくは、常にこの家にいるわけじゃない」

 お父さんも秋斗とフウラちゃんの推理に参加した。

「ぼくが作った電気設備のメンテナンスで、よく家を出ている。もちろん、昼間にだ」

 え、どういうこと? つまりお父さんは、普段から心が書き変わってるわけじゃない? それとも、お父さんが外出するたびに、魔法を解いている?

「それよ!」

 フウラちゃんがお父さんに指を突きつけた。

「龍河さんの外出にいつも付きそう人はいない? それから、毎朝あなたに会いに来る人は? その人が、毎日あなたに魔法をかけ直しているのよ!」

 お父さんには心当たりがあった。

「一人、いる。それに彼女は、毎日ぼくに朝食を届けてくれる」

「誰!?」

「君達をここへ連れてきた、クリンさんだ。彼女も魔法使いなんだよ! それも、離れたものに魔法をかけられるレベルの!」

 フウラちゃんとガイア君は、顔を見合わせた。

「心を書き換えられるのですから、そのくらいの魔力は持っているはずです」

「そうだね。しかも村長の秘書だから、村の重要人物の外出に付きそっても不自然じゃない。間違いない、龍河さんに魔法をかけているのは、クリンさんだ」

 そういえば、さっきから姿が見えない。

「あの人は、俺達の目的に気付いてる……よな?」

「そうでしょうね。龍河さんを見つけた海の第一声が、『早く帰ろう』だったもの」

 あああああ……監禁者の前で、私はなんてことを!

「なら俺たちの心も書き換わって、おじさんを連れ戻せなくなってるんじゃないか?」

「いえ、そんなことはなさそうです」

 ガイア君が玄関のドアノブに手をかけた。

「ここまで来ても、僕は何も感じません。龍河さんに魔法をかけるだけで十分と判断したのでしょう。それより早くクリンさんを捕まえて、魔法を解かせましょう」

 ガイア君はドアを開けた。

 そして、ギョッとして立ち止まった。

 玄関の外に、村中の人が集まっていた。

 玄関を囲むよう半円状に並び、うつろな目で私達を見つめている。

 いったい、いつの間に。全然気が付かなかった。

「力技で、僕達を逃がさないつもりか」

「これ、村ぐるみの監禁だったのか?」

「いえ、この雰囲気からして、村人達は心を操られています。これだけの人数を一度に操れるとは信じがたいですが……」

「その信じがたい魔法使いが、このわたしなのです!」

 村人達の後ろに、一人の女の人が立っていた。

 クリンさんだ。

 だけどさっきまでとは、雰囲気がまるで違った。

 その目は、闘志に燃えていた。

「わたしはこれほどの魔法使いでありながら、マルコーニ村の出身というだけで、城下町の学校にも通えなかったし、城下町の仕事にも就けなかった。他の三人もそう! この村の出身者に、まともな魔法使いはいないと、みんな頭ごなしに決めつけるのです!」

 他の三人って、この村の残りの魔法使いのことか。花火大会で私達を襲った、あの三人だろう。

「だからわたし達は、誰よりも強い魔法使いになって、この国を支配することに決めたのです。そのためには、魔法の理論を知る龍河さんが必要不可欠。あなた方なんぞに、連れて行かれるわけには行かない!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る