第35話 科学者として

 ガイア君は眉間を抑えながら、大きく深呼吸した。よほどの衝撃で、立っているのもやっと、という感じだった。

「お話はわかりました、龍河さん。魔法にも理論がある……正直言って、僕はまだ信じられませんが、その正否はいま、重要ではありません。いま最も重要なのは、あなたに容疑がかけられているということです」

「容疑? なんのです?」

 お父さんはまたきょとん、とした。

「実は……」

 ガイア君は襲撃のことを話した。襲撃者がお父さんの名前を口にしたことも。そして、お父さんに襲撃を指揮した容疑がかかっていることも。

「そんな、まさか。彼らが、そんなことを……?」

「やはりお知り合いですか?」

「話を聞く限り、その三人はこの村の魔法使いだ。でも、まさか、そんな……!」

 お父さんは机に手を付くと、土下座する勢いで頭を下げた。

「ガイア王子、フウラさん、秋斗君、海! 本当にすまない! ぼくは、科学者として最もやってはならないことをやってしまった!!」

「ちょ、ちょっとお父さん、どうしたの? まさか、本当に黒幕なの!?」

「いいや、違う。だが、ぼくはそれ以上の罪を犯した。科学者が最もやってはならないこと……自分の研究成果を、人を傷付けることに使われることだ!」

 あの人たちは、お父さんの話を聞いて、ガイア君を襲った。あの長髪の男の人は、お父さんの見つけた理論を使って、結界の中に入って来た。お父さんは、それが許せないんだ。それをさせてしまった、自分が。

「そんなの、お父さんのせいじゃないよ! あの人たちが勝手に使ったんでしょ?」

「そうだ。でもダメなんだ。科学者は、自分の理論がどう使われるか、常に警戒しないといけない。ぼくはそれを怠り、研究結果をぺらぺらと皆に喋ってしまった!」

 ガイア君が、真面目な顔でお父さんの肩をつかんだ。

「あなたの言葉が正しいかどうか、いまここで、僕達が判断することはできません。どちらにせよ、僕はあなたを城へ連れ帰り、取り調べしてもらう必要があります」

「ああ、そうしてくれ。ぼくが知る限りのことをすべて話そう」

 お父さんは顔を上げると、ガイア君の手をにぎった。それを合図に、私達は部屋を出た。ひとまずこの家を出て、村長さんの家に預けっぱなしのニコラを迎えに行こう。

 だけど、家を出ようと、フウラちゃんが玄関のドアに手をかけたときだ。

「や、やめろ! 待ってくれ!」

 お父さんが急に叫んで、足を止めた。

「? どうしたんですか、龍河さん」

「お父さん、行くよ」

 私もお父さんの手をつかんで引っ張った。

 すると。

「い、嫌だ! 出たくない! 怖いんだ! やめてくれ、外には、外には出ない!!」

 お父さんが、ものすごい力で手を振り払った!

「きゃっ」

 私は思わずしりもちをついてしまった。転んだ私を見て、お父さんははっとした。

「あ、ああ、海、すまない! ぼくはなんてことを……!」

 おかしい。何か変だ。いつものお父さんじゃない。

「おじさん、どうしたんだ。何を怖がってるんだ?」

「わ、わからない。だが、ものすごく怖いんだ。外に出るのが……」

 お父さんの顔が青ざめている。ガタガタと全身が震えていた。

 これはいったい……。

「ガイア様、これって……」

「ああ、間違いない。まさか、こんなことをしてくるなんて」

 ガイア君の顔が、怒りに染まっていく。あまりの怒りで、手が震えていた。

「ガイア君? これって、どういうこと? お父さんはどうしちゃったの?」

「龍河さんは、心を書き換えられています」

 えっ!?

「この家から出ることに恐怖を覚えるよう、書き換えられています」

「で、でも、心を書き換える魔法は法律で禁止されているって、言ってなかったっけ?」

「ええ、言いました。これは明らかな違法行為です。だけど、そこまでして、この村の人間は、龍河さんの心を書き換えた」

「な、なんのために?」

「決まっています。龍河さんをこの家から、この村から外に出さないためです」

 それは、つまり。

「龍河さんは、

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