第34話 魔法理論

 お父さんは上機嫌で、魔法の法則を語った。

「この村には魔法使いが四人しかいなかったので、研究には少々難儀しましたが……文献を集めたり、近隣の村人にも手伝ってもらったりして、様々なことがわかりました。例えば、魔法は遺伝します」

 え、遺伝? 親から子に伝わるってこと?

「子供は親と同じような魔法が使える……というのは、経験則で知られているのではないですか?」

「そういう傾向はありますが、そうでない子供もいます。兄弟同士で使える魔法が異なることもあります。そこに法則なんてありません」

「そうだよ! もし遺伝するなら、私にも魔法が使えるはずだよ!」

「血液型みたいなものなのさ。A型とB型の両親から、O型の子供が生まれることはある。残念ながら、海はO型だったってことだ」

 う、うそぉ……。

「まだはっきりとはわからないが、おそらく魔法はいくつかの系統に分類できる。両親がどの系統に属しているかで、子供にどの魔法が使えるか、予想できるようになるはずだ。血液型と同じようにね」

 お父さんは元気一杯の上機嫌だった。意気揚々と、魔法の法則を語り続ける。

「他にも法則はあるぞ。例えば、魔力は溜めることが

「え? でも、賢者の石の伝説では、賢者の石に魔力を溜めてたよ?」

「おお、海もあれを知っていたのか。あんなものは嘘っぱちだ」

 えぇ!?

「魔寄せの儀式があるだろう。あれは一見、相手に魔力を与える儀式に見える。だが本当は違う。ぼくの推測では、人間は生まれときから、体内で一定の魔力を生み出し続けているんだ。しかし通常は、バリアのようなものでそれが抑え込まれている。魔寄せは、このバリアに穴を開ける儀式なんだ」

「なんでそんなことがわかるんすか?」

 秋斗が目を輝かせながら聞いた。そういえばこいつ、お父さんの話聞くの好きだったな……。

「もし魔寄せが、相手に魔力を与える儀式だとすると、魔寄せを何度も行えば、相手は限りなく強い魔力を得られるはずだ。だが村の若者で実験したところ、そうはならなかった。他人に魔力を与えることはできないんだ。だからおそらく、賢者の石の伝説も嘘っぱちだ」

「ちょっと待ってください」

 フウラちゃんが手を伸ばして、お父さんの話を遮った。

「龍河さんは、賢者の石を信じていると聞きました。本当はどっちなんですか?」

「あの伝説は嘘だと思っている。だが、賢者の石は存在するはずだ」

「なぜですか?」

「魔法使いになるためには、魔寄せの儀式が必要だ。だが魔寄せの儀式には、魔法使いが必要だ。なら、最初の魔法使いは、どうやって生まれたんだ?」

 え?

 ……ああっ! 本当だ! 魔法使いがいなかったら、魔寄せができなくて、魔法使いが生まれない!

「おそらく、あの伝説は逆なんだ。少年が賢者の石に魔力を与えたんじゃない。賢者の石はもともと強力な魔力を持っており、少年に魔寄せしたんだ。そして少年は世界初の、そして唯一の魔法使いになり、その圧倒的な武力で村々を統一したんだ!」

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