第33話 そして、ついに

「海!? どうやってこんなところまで来たんだ!?」

「お父さん! すっごいすっごい探したんだから! お母さんが心配してるよ! 早く帰ろう!」

 私はお父さんに駆け寄って、腕にしがみついた。

「早く帰らないと、お母さん、超怒るよ!」

「心配してるのか怒ってるのかどっちなんだ」

「どっちもだよ!」

 お父さんは立ち上がると、ひとまず私を腕から離した。

 よく見ると、お父さんは魔法世界の服を着ていた。少しサイズの大きい上着と、長い巻きスカートみたいな服。魔法世界の人は大体こういう格好をしていた。

「ちょっと、状況を整理させてくれ。ぼくはそんなに長くここにいたんだったかな?」

「そうだよ。もう一年も帰ってきてないんだよ!」

「一年……」

 お父さんは虚空を見上げた。

「あー、そうか、たしかにそのくらいになるな。まずいな、ちょっと夢中になりすぎた」

 ちょっとじゃないよ〜!!

「いやすまない、こっちの世界は一ヶ月が五十日くらいあって、一年が七ヶ月しかないんだ。だからまだ半年ちょっとしか経ってないと思っていた」

 え、そうなんだ。

 って、そんな言い訳聞いてないよ! だいたい、半年でも十分長いし!

 お父さんは「まぁまぁ」と言って私の肩に手を置いた。そして、そこで初めて、ガイア君達に気がついた。

「ええと、君たちは……おお、よく見たら秋斗君! 久しぶりじゃないか、大きくなったな」

「久しぶりっす、おじさん。元気そうっすね」

「もちろんだ。毎日美味しいご飯をクリンさんが運んできてくれて、ぼくは研究や村の発展のことだけを考えていられるからね」

 クリンさんがお父さんのお世話係りもしてるんだ。って、あれ。いつの間にか、クリンさんがいなくなっている。忙しそうだし、村長さんの家に戻ったのかな。

「監禁とかはされてないってことっすか?」

「監禁? なぜだ?」

 お父さんはきょとん、とした。どうやらお父さんは、完全に自分の意思でここにいるらしい。それなら話は早い。お父さんを説得して、家に連れて帰ろう。

「あまり時間がないので、手短にお話しします」

 ガイア君がお父さんに一歩近寄った。

「初めまして、龍河さん。僕はガイア・ギルバート。現国王の第三王子です。こちらは、専属メイドのフウラ・キャロル」

「えっ、ガイア・ギルバート?」

 お父さんも、その名前は知っていたらしい。ガイア君の顔をジロジロと見たあと、

「本当だ! ガイア王子じゃないか! どうしてこんなところに!?」

 と叫んだ。

「話すと長くなるのですが……科学世界で海さんと親しくなり、海さんのお父様が行方不明とお聞きして、捜索に協力させてもらったんです」

「へぇ、海がガイア王子と。海は何か失礼なことをしていませんか?」

 お母さんもお父さんも、どうして最初に聞くのがそれなの?

「いえ、海さんはとても礼儀正しい方ですよ」

 とガイア君は笑った。

「ねえ、お父さんはこの村で、一年も何をしていたの?」

「決まってる。魔法の研究をしているんだよ」

「魔法の……?」

「この一年間、ずっと研究を繰り返して、ようやくいくつかの法則を見出してきたところさ」

「え」

 ええっ!?

 信じられない。魔法の法則を見つけた? でもきっと私より、ガイア君とフウラちゃんの方がびっくりしてたはずだ。

 お父さんはたった一年で、歴史上誰一人として知らなかった、魔法の法則を見つけてしまった!

「り、龍河さん。あなたは、魔法の理論を見つけたのですか?」

「いいえ、王子。残念ながら、まだ理論と呼べるほどのものではありません。見つけたのは、簡単な法則だけです」

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