第31話 科学の村
私達を見つけたのは、マルコーニ村の村長さんだった。隣の村まで集会に行った帰りだったそうだ。
私達は村長さんの家に招かれてしまった。
「まさかこんな最果ての村に王子自らいらっしゃるとは。やはりアレのせいですか、我が村の生活が豊かになったという噂が、ついに城下町にまで届きましたか」
「ええ、まぁ、そんなところです」
こうなってしまったら、流れに乗るしかない。私達は村長さんのあとに続いて、村に入った。
近くで見るマルコーニ村は、遠くから見るより、綺麗に見えた。どの家も欠けた壁はそのままだけど、窓ガラスはピカピカだ。他の村は、白っぽく曇った窓が多かったのに。
それに村人がみんな、清潔感がある。服は綺麗だし、髪や肌のつやも良い。城下町の人達より綺麗なくらいだった。
なぜだか、村全体が、なんとなく明るく見えた。いったい、なぜだろう……?
「こちらが私の家です。小さなところですみませんが、さぁどうぞ、中へ」
ニコラから降りて、私達は村長さんの家にお邪魔した。
「ただいま戻ったぞ」
「お帰りなさい、村長さ……」
若い女の人が出てきた。その人は私達の顔を見ると、絶句した。
「が、ガイア王子……!?」
「その通りだ。先ほど、村の入り口でたまたま出会ったので、お連れした。ガイア王子、こちらは私の秘書のジャスミン・クリンです。クリン、こちらはガイア王子と、そのメイドのフウラ・キャロルさん、そして科学使いの秋斗君と海さんです」
私達は頭を下げた。ここに来る途中、村長さんには自己紹介したんだけど、念のため私の苗字は黙っておいた。まだ、お父さんの状況がわからないからだ。
「クリン、私が皆様を客間へお通しする。クリンは飲み物を用意してくれ」
「は、はい。かしこまりました」
クミンさんが部屋を出ると、村長さんは、
「皆様、どうぞこちらへ」
と言って、私達を隣の部屋へ案内した。
そして中に入った途端、私達はすっごくすっごく、驚いた。
村長さんが、壁のスイッチを押して、電気をつけたから!
「え!? で、電気!?」
思わず天井を見上げる。そこには、明るく輝く電球があった。
そうか、この村がなんとなく明るく見えたのは、雰囲気のせいじゃない。電気のおかげで本当に明るかったんだ!
驚く私達を見て、村長さんは得意げに笑った。
「どうです、素晴らしいでしょう! 我が村が豊かになったのは、ひとえにこの摩訶不思議な力のおかげ! 科学のおかげなのです!」
私達は呆気に取られていた。
「科学は素晴らしいですよ、王子。魔法とは違い、誰でも使える。魔法使いの少ない我が村が豊かになったのは、これのおかげなのです」
「いったい、どうやって科学を手に入れたのですか?」
ガイア君は冷静を装っていた。
村長さんは隠すことなく言った。
「実は、一年ほど前に科学使いの男が我が村に来まして。彼が様々な科学道具を作ってくれたのです。代わりに彼は、衣食住と、私達が知る限りの魔法の知識を要求しました。私達は今も毎日、彼に魔法を教えているのです」
「その男の名前は? 彼は今、どこにいるんですか?」
ガイア君が冷静に聞く。
私の心臓が早鐘を打った。
はやく、はやく言って欲しい。その人の名前を、少しでもはやく聞きたい。
村長さんが口を開いた。
「彼の名前は、羽村龍河。北の大きな家に住んでもらっています」
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