第29話 家の明かり

 お城は大きかったけど、その中はたしかに狭かった。廊下の幅が狭くて、四人が広がって歩けなかった。それに、ドアがすごくたくさんあった。ひとつひとつの部屋が狭いらしいんだけど、ドアの中には別の廊下につながっているドアもあって、迷路みたいになっていた。

 廊下を歩いている間は、フウラちゃんがずっと明かりを付けていた。魔法の棒の先端から光の玉が飛び出して、それがずっと私達の上を付いてきた。

「やっぱり、電気とかはないんだね」

「はい。この世界では、これが普通です」

「明かりの魔法が使えない人はどうしてるの? たしか、火も使えないんだよね?」

「ええ。そういう人たちは、天窓の大きい家に住むことが多いです」

 それってつまり、太陽頼みってことだ。それで一階建ての家が多いってこと?

 秋斗は宙に浮く光の玉を眺めながら、

「離れたところに魔法は使えないって言ってたけど、こういうことはできるんだな」

 とフウラちゃんに聞いた。

「そうね。軽いからかしら。風や炎も、この棒の先端から飛び出した後、ちょっと離れたところまで飛んでいくわ」

「どういう原理なんだ? 風は運動量が保存されてるからだとして、炎と光は……」

 秋斗はぶつぶつ言いながら光の玉に手を伸ばしたけど、何もつかめなかった。

「何かがあるわけじゃないのか。熱すらない。光だけが浮かんでる?」

 そんなことをしている間に、豪華な彫刻のついたドアの前に着いた。

「ここが父の執務室ですが……すみませんが皆さんはここでお待ちください。僕だけで行ってきます」

 と言って、部屋の中に入っていった。


「とても怒られました」

 フウラちゃんが出した椅子に座って、待つこと十数分。疲れた顔でガイア君が部屋から出てきた。部屋の外にも少し声が漏れてたけど、話の内容は分からなかった。

「襲撃を受けたことが逆鱗に触れたようで」

「なんでそれでガイアが怒られるんだ? 悪いのは襲ってきた方だろう」

「まぁそうなのですが、襲われそうな場所に行った僕も悪いという考えでした。王族たるもの、危機管理はしっかりしないといけませんし、それに……友人を危険にさらしたことも、王族としてあってはならないことでした」

 そう言って、ガイア君は私達に頭を下げた。

「改めて、申し訳ありませんでした」

「い、いいよそんな、謝らなくて」

 頭を上げたガイア君は、渋い顔をした。誰にも聞こえないように、小声になった。

「僕はまた、不安になりました。果たして皆さんを、本当にマルコーニ村に連れて行っていいものかどうか。皆さんをまた危険にさらすわけには……」

「大丈夫だって。この間の俺達は、不意を突かれた。でも今度は、こっちから会いに行く。向こうは何の準備もしてないだろうけど、俺達は準備もしている。今度は安全だ」

 私も平気だろうとのんきに考えていた。だって私、お父さんの娘だし。

 それに今回は、お父さんを連れ戻すのが目的だ。私がお父さんを説得して、お父さんが帰りたがれば、村の人達も帰してくれるだろう。

「きっと大丈夫だよ。それより、明日には特殊部隊の人達が村に行っちゃうんでしょ? 時間がないし、早く行こうよ」

「……そうですね、わかりました。では、すぐに行きましょう」

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