第28話 お城へ

 次の瞬間、私達は大きい橋の前にいた。その橋の向こうには林が広がっていて、その上に高い塔が何本も見えた。

 写真で見たことがある。あれは、シュバルツ王国のお城、ガイア君の家だ!

「全員無事来れましたね」

 私達の人数を確認すると、ガイア君はほっとしていた。

「城の入り口には飛ばないんだな」

「ええ、危険ですから」

「危険?」

「木が多いので、この人数ですと、何人かが木の中に飛んでしまう可能性があるんです」

 さらりと怖いことを言った。

「なら、なんで林の中にお城を作ったの?」

「戦争を繰り返していた時代の名残ですね」

 そっか、敵の軍隊に瞬間移動できる人がいると、お城の前や中に瞬間移動されて攻められちゃうから、それを防ぐ必要があったんだね。

 ちなみに大昔は、竹みたいに一日で成長する植物をたくさん植えてたんだって。そうすると毎日地形が変わるから、瞬間移動で攻めにくかったらしい。

 あと、お城の中は結構狭いらしい。これも、大軍でお城の中に瞬間移動できないようにするための工夫だそうだ。

「もっとも、現代は平和ですから、そんな対策はほとんど不要ですけどね。僕がこうして気軽に外出できるのが、その証拠です」

「でも、襲われたじゃないか」

 秋斗が指摘すると、ガイア君はため息を吐いた。

「全く、予想外のことでした。戻ったら父上にこっぴどく叱られることでしょう」

 ガイア君は、橋の前の警備員さんに挨拶すると、私達を連れて橋を渡った。周りは深い池になっていて、橋を通らずにお城までたどり着くのがまず不可能な作りになっていた。これも防御のためなんだって。

 ただ、水の上を歩く魔法や空を飛ぶ魔法もあるから、そういう魔法を使えない人しか防げないみたいだけど。魔法があると、防犯が大変なんだね。

 橋を渡ると、そこにも警備員さんがいた。ガイア君が挨拶すると、警備員さんは小屋から動物を出してきた。

 さっき空港の前で、これに乗っている人を見かけた。意外に小さくて、背丈は私の身長くらいしかない。横幅が広くて、足も太い。科学世界の馬みたいに、乗って移動するための動物なんだろうけど……馬というより、太った猫に見えた。毛は灰色っぽいけど、光の加減で白にも見える。そういう絶妙な色合いの毛並みだった。

「ニコラを見るのは初めてですか?」

「ニコラ?」

「この動物の名前です」

 ガイア君は慣れた様子で、ひらりとニコラに乗った。白馬の王子様、というフレーズが頭に浮かんだ。馬ではないし、白でもないけど。

「さ、手を」

 ガイア君が私に手を差し伸べた。

「え。あ、うん」

 ちょ、ちょっと恥ずかしい。

 私は言われるがままにガイア君の手を取り、ニコラの横に垂れてる輪っかに足をかけた。

 すると、ガイア君がぐいっと私を引っ張って、ニコラの上に乗せてくれた。

 上から見ると、思ったより高い。それに、ガイア君の前に座ったから、か、体が密着している! ガイア君が手綱を持つと、私はほとんど抱き付かれるようなかっこうになった。

 ガイア君の後ろにもひょいとフウラちゃんが乗り、さらに秋斗も乗ってきた。ニコラは背中が大きいから、四人くらいなら簡単に乗せられるんだ。

「っていうか、ガイア君が運転?するの?」

「はい。任せてください」

「ガイア様はニコラに乗るのが好きなんです」

 フウラちゃんが最後尾から教えてくれた。

「二人とも、しっかり捕まってくださいね。ハッ!」

 ニコラは、その太った見た目からは想像がつかないくらい、速く走った!

「うわああああ!?」

「ひゃああああ!?」

 私と秋斗は、振り落とされないように、必死にガイア君にしがみついた。

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