第27話 魔法の空港

 床に足がつくと、空気が変わった気がした。温度が上がっただけじゃない。からりと乾燥していたし、何より匂いが違う。自然、な感じ? 朝早く外に出たときみたいな匂いがした。

 これが、魔法世界の空気。

「ようこそいらっしゃいました」

 金髪の大人の女性が私に言った。メイドさんかな。上品な黒っぽいエプロンを付けた人だ。フウラちゃんとは雰囲気が全然違う。

「ガイア様のご友人の、羽村海様ですね?」

「は、はい。そうです。あの、ここが魔法世界なんですか?」

「はい、そうでございます」

 今のところ、まだ魔法っぽさはない。周りは、科学世界から見た映像の通りだ。石の床と壁。そして、大人たちがガイア君やフウラちゃんと何かを話している。

「あの、あなた達は……」

「私共は、ギルバート家の使用人です。皆さまのお出迎えに上がりました」

 私達四人を迎えるためだけに、こんな人数の大人の人達が来たんだ。ガイア君、本当に王子様なんだなぁ。

「お待たせしてすみません、海さん、秋斗君」

 話を終えたガイア君が、私達に声をかけた。

「一度、外に出ましょうか」


 魔法世界でも、ゲートは空港的なところにあるらしかった。でも、科学世界の空港とは、ずいぶん雰囲気が違った。

 建物はそんなに広くなかった。駅くらいの広さだ。だけど人はたくさんいて、夏祭りの会場みたいになっていた。床は石畳で、壁や天井には大きなガラスの窓があった。歩く人たちの足音や話し声があちこちに反響している。

「ここって駅なの? 空港なの?」

「それらの違いが分かりませんが、空港のような場所ですよ。専用の部屋に移動魔法を使える者達がひかえていて、利用客を瞬間移動させるんです」

 す、すごい場所だ。瞬間移動ができるから、電車とか飛行機とかがいらないんだ。

 秋斗も興奮していた。

「ここって、好きな場所に移動させてもらえるのか? 家の前とか」

「いえ、空港からは、原則的に別の空港へしか移動できません。法律でそう決まっています。逆に、外から空港内へ移動することも、法律で禁じられています。まぁ、瞬間移動ができるなら、わざわざ空港に来る理由もないと思いますが」

 私達は、はぐれないようにゆっくり移動した。やがて大きなアーチ状の出入り口に着いた。この向こうが魔法世界の街だ。

 まぶしい太陽の光に目を細めて、外に出る。気温は高かったけど、建物の中より涼しかった。どこからか甘い匂いが漂ってくる。これは、花の匂い?

 目を開けた私の前に広がっていたのは、日本とはまるで違う、魔法世界の街並み!

 手前は石畳の広場だった。真ん中が花壇になっていて、見たことのない花が咲いていた。黄色い花の中に青い花が並べられ、何かの記号っぽい形になっている。あの記号、なんとなく見覚えがある。たしか魔法世界の文字だ。全然読めないけど、たぶん「ようこそ」的なことが書いてあるんじゃないかな。

 広場からは、石畳の道が何本も伸びていた。その道の両側には、石造りの低い建物がたくさん並んでいる。どの建物も木でできた看板を掲げていた。全部お店なんだ。文字が読めないから、なんのお店かは全然わかんないけど。

 そして、道を歩く人たちは全員、魔法みたいに輝く金髪だった。そのことが一番、ここが魔法世界なんだって教えてくれる。服装も私達とは少し違った。男の人も女の人もスカートみたいな服を着ていて、ズボンをはいている人は少なかった。ガイア君はいつもズボンだけど、もしかしたら科学世界の文化に合わせてたのかもしれない。

 どの道も人通りが多かった。なんなら私の家の近所より人が多いくらいだ。ここは大都市なんだろうな。車は走ってなかったけど、見たことない四本足の動物に乗っている人は何人かいた。

 驚いたのは、空飛ぶ車があったこと! 乗用車くらいの木の箱が、いくつも空を飛んでいる。箱には横や下に窓があって、外が見えるようになっていた。さらに、文字がたくさん書いてある。きっとバスかタクシーみたいなものなんだろうな。

 私達の後ろから、使用人の人達も着いて外に出てきた。

「みんな、いるね」

 ガイア君は人数を数えると、指を振った。

「城へ移動する」

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