第26話 いざ、魔法世界へ
フウラちゃんもガイア君も、あの襲撃者が使っていたのと同じ、瞬間移動の魔法が使えた。私たちはその魔法で、魔法世界へのゲート前まで飛んだ。
「この魔法で直接魔法世界に行けばいいんじゃないか?」
と秋斗がガイア君に聞いた。
「それは無理ですね。二つの世界をこの魔法で行き来することはできません」
「なんでだ?」
「さぁ……。魔法とはそういうものだ、としか」
フウラちゃんの捜索魔法も魔法世界のお父さんを見つけられなかったし、魔法は異世界には届かないって法則があるのかもしれないね。
魔法世界へのゲートは、空港にある。元々は全然違うところに出現したらしいけど、魔法世界の人と交渉して、この場所に移してもらったらしい。
空港なんて、初めて来た! ものすごーく広いロビーに、たくさんの人が行き来している。家族連れの人や、スーツを着た人、外国の人もたくさんいた。それに、色んなお土産屋さんもある!
「海さん、こっちです」
キョロキョロしている私の肩を、ガイア君が叩いた。
連れていかれたのは、空港の奥の奥。そこだけ全然人気がなく、なんだかシンとしていた。
人のいない小さなカウンターがあり、その向こうに閉ざされた自動ドアがあった。
ガイア君がカウンターの上のボタンを押すと、「ピンポーン」とチャイムが鳴った。
「ゲートの通行には許可が必要ですが、昨夜のうちに申請しておいたので、もう下りているころでしょう」
「許可? それって、私達にも下りてるの?」
「もちろん。許可といっても、それほど厳格なものではありません。加えて僕は王子です。許可制なんてあってないようなものですよ」
なんだか悪巧みしているような気分になった。
「お待たせしました、ガイア・ギルバート様」
空港の職員さんが、カウンターにやってきた。
「魔法ゲートを通りたいんですが」
「はい、伺っております。ガイア・ギルバート様と、護衛の方三名ですね」
私達は護衛ということになっていた。その方が許可取りやすかったのかな。
「……護衛?」
と、職員さんが私達を見て首を傾げた。あ、そうか、子どもだから疑われているんだ!
「あたし達は間違いなく護衛よ! フウラ・キャロルと、羽村海と、杉本秋斗!」
「……かしこまりました、では必要書類にご記入を……」
職員さんはまだ怪しんでいたけど、手続きには問題なかったみたいで、私達は無事、自動ドアの中に入ることができた。
「これが、ゲート!」
ドアの向こうは体育館くらいの広さの部屋だった。床はアスファルトで、壁もコンクリートむき出しの殺風景な部屋だった。どことなく寒々しいのは、冷房のせいだけじゃないだろう。
その部屋の一番奥に、デン、と巨大なゲートが設置されていた。大きい! 写真では見たことあるけど、実物を見るのは初めてだ。
見た目は「豪華な鏡」って感じだ。額縁は木か何かで出来ていて、花とか鳥とか、動植物の彫刻がたくさん彫られている。
そして内側は、一面くもった鏡みたいになっていて、私達の姿がぼんやり映っていた。
「いまゲートを起動しますね」
ガイア君とフウラちゃんが、ゲートの額縁に手を触れた。
「ん? 待て、世界をつなげるには、賢者の石が必要だったんじゃないのか?」
秋斗が二人を止めた。細かいことが気になるやつだな。でもたしかに不思議だ。
「最初につなげるときはそうだったようですが、このゲートの起動には、僕達の魔力程度で十分なんです」
「どんな仕組みなんだ?」
「さぁ……考えたこともありません。このゲートを作ったのは祖父と曽祖父だったと聞いていますが、どうやって作ったのかは、いまとなっては分かりません」
え、それって、ゲートが壊れたときに、とっても困るんじゃ……。まぁ、世界中に何十個もあるから、一個や二個壊れても平気なのかな。
ガイア君たちは改めてゲートに触れると、
「起動せよ」
と唱えた。すると、鏡に映った私達の姿が歪んだ。金属っぽかった表面が、まるで水面のように波打ち始めた。波は徐々に細かく、激しくなっていき、ザザザザ……とかすかな音を立てる。
だ、大丈夫かなこれ。壊れてないかな……と不安になった直後、テレビ画面のように綺麗な映像が映し出された。
そこは見たことのない場所だった。この部屋と同じくらい広い、殺風景な部屋だ。床も壁も石のようなものでできていて、塗料で模様が描かれている。そこに、十人くらいの大人の人がずらっと並んでいた。みんな金髪で、上品そうな人たちだった。
「つながりました」
ガイア君が額縁から手を離した。
「あまり長くは持ちません。早く通りましょう」
「通るって、ここを?」
「そうです。こんな風に」
ガイア君は鏡に手を触れた。すると映像がまた、水面の波のように歪んだ。そして、ガイア君の手が、映像の中に入っている!
ガイア君はそのまま前に歩いて行った。映像の中にするすると体が入っていき、ついに全身が入った。すると、映像の中にガイア君がいた! 並んでいた大人たちが、みんなガイア君に頭を下げている。
ああ、理解した。この映像は、魔法世界の映像なんだ! 音は聞こえないけど、向こうのゲート越しの映像が見えているんだ!
「ほら、早く行くわよ!」
フウラちゃんも映像に飛び込む。秋斗も、ちょっとビビってたけど、思い切って飛び込んだ。
残ったのは私だけ。
私はゲートの表面に手を触れた。何も感じない。指先を中に入れると、なんだか温かかった。向こうの方が室温が高いんだろう。こっちは冷房がかかってるけど、向こうはかかってない感じがする。
私は深呼吸をひとつすると、地面を蹴って、魔法世界に飛び込んだ。
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