第20話 お泊まり会

「海!? どうしたの、その格好!?」

 うちに帰ると、お母さんがびっくりした声を上げた。地面に伏せたり転んだりしたから、浴衣が汚れちゃってたんだ。

「申し訳ありません、ミナモさん。実は……」

 ガイア君が、今日のことを説明してくれた。

「え、襲撃? え、海、怪我は?」

「大丈夫、全然平気だよ」

 ちょっと手をすりむいたくらいだ。痛みも全然ない。

「護衛をつけておきながら、このような事態になってしまい、誠に申し訳ありません」

 ガイア君とフウラちゃんは、深々と頭を下げた。王子様に頭を下げられて、お母さんは慌てた。

「べ、別にそんな、皆さんがご無事なら気にしなくて大丈夫ですので……」

 お母さんは私をちらちら見ながら言った。私は笑顔を見せて「無事だよ」アピールをした。

「ねえ、お母さん、ひとつお願いがあるんだけど」

「な、なに?」

「今日、というか、これからしらばく、ガイア君達をうちに泊められないかな?」

「え?」

「海さん、僕から依頼させてください」

 ガイア君は顔をあげて、お母さんに事情を説明した。さっき秋斗が話したこととほとんど同じことだったけど、「四人が一ヶ所にまとまっていた方が、護衛もしやすい」という説明が増えていた。

 え。ってことは秋斗も泊まるの?

 ……ま、秋斗ならいいか。小さい頃はよくお互いの家に泊まったりしてたし。

「もちろん、謝礼も致します」

「謝礼なんてそんな。こちらこそ、大したおもてなしもできませんが」

「いえ、お気遣い頂かなくて結構ですので」

 とお互いに気を遣いながらも話はまとまり、ガイア君達がうちに泊まることになった。


 問題は寝る場所だった。私の部屋じゃ四人も寝れないし、お母さん達の寝室を取るわけにもいかない。

 話し合った結果、リビングで寝ることになった。ソファとローテーブルをちょっとどかせば、四人で寝れるスペースが作れた。そこに、私の布団と、お父さんの布団と、お客さん用の布団を、四人でせっせと運んで並べた。

 それから、護衛の人たちは、廊下と窓の外の二か所で見張ることになったみたいだ。護衛さん三人で、代わりばんこに見張ってくれるらしい。

「それじゃ、電気消すよー」

 私はリビングの電気を消すと、自分の布団に入り込んだ。

 四つの布団は、「田」みたいに並べた。私の隣にフウラちゃん、私の頭の上にガイア君、その隣に秋斗。布団に入ったまま、みんなで顔を合わせておしゃべりできる配置だ。

「学校のお泊まり会みたいだね」

 と私は笑った。

「場所は海の家だけどな」

 たしかに私の家なんだけど、私だってリビングで寝たことなんてない。なんだかすごく新鮮で、こんな状況なのに私は楽しくなっていた。

「どうする? 恋バナでもする?」

「な、なに言ってんだよ、ばか。こんなときに」

 秋斗が妙に慌てだした。

 おやぁ? なんだこいつ、柄にもなく好きな人でもいるのか??

「恋バナとはなんですか?」

 ガイア君がいつもの調子で聞いてきた。魔法世界にも恋愛はあるだろうけど、王子様だから「こいばな」なんて庶民の言葉は聞いたことがないんだろうな。

「恋愛の話のことだよ。この間、お母さんが話したみたいな」

「ああ、なるほど。魔法世界でも、定番の話題のひとつです。どこの世界でも同じなんですね」

「あたし、聞きたいわ! 海は好きな人とかいるのかしら?」

 フウラちゃんが乗ってきた。お母さんの話のときにも興奮してたし、こういうの好きなんだろうな。

「そうだねー……」

 考えてみる。好きな人、好きな人かぁ。

「別にいないかな」

 秋斗が「おい」と突っ込む。

「自分から話し始めておいてなんだそれは」

「えー? じゃあ、秋斗は好きな人いるのー?」

 私はにやにやしながら聞いた。

「えっ? いや、俺は、その、う……」

「う?」

「い、いいんだよ、そんな話は!!」

 秋斗は怒り出した。

「そんなことより、今はもっと重要な話があるだろ! なぁ、ガイア!?」

「そうですね、色々と整理しなくてはいけない事柄はありますが……」

「ほら、ガイアもこう言ってる! 海だって、ガイアに聞きたいことがたくさんあったんじゃないのか!? 今が絶好のチャンスだぞ!」

 ま、たしかにその通りだ。聞きたいことは山ほどある。

 お父さんのこと。「賢者の石」とやらのこと。それに、魔法や、魔法世界のことも、もっともっと聞きたい。

 でもいったい、どれから聞けばいいだろう。私の頭の中で、色々な思いが混線した。

 そして結局、私はこう聞いた。

「ねえ、ガイア君は、私のことどう思ってる?」

 空気が凍った気がした。

 みんなの動きが止まった。

 次の瞬間、フウラちゃんと秋斗が同時に叫んだ。

「海、それは恋バナの続きかしら!?」

「海! それはどういう意味だ!?」

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