第18話 目的

 目線を下げると、大きな男の人の手が見えた。その指先が、私の首に突きつけられている。

「ちょっとでもおかしな真似をしたら、この娘は……」

 男の人が言いかけた、その瞬間。

 ガイア君の顔が怒りに染まった。

!!」

 途端に、私の体が解放された。私はその場に膝をついて、倒れてしまった。

「ぐわっ!?」

 後ろから叫び声。振り返ると、腕の太い金髪の男性が、何メートルも離れた場所でひっくり返っていた。

「な、なんでこの距離で、魔法が使えるんだ!?」

 男の人が叫ぶと同時に、私の横を何かが猛スピードで駆け抜けた。

 秋斗だ。中腰に屈んだ秋斗が、例の電動ローラースケートを最大速度にして、男の人にタックルした!

「捕まえたぞ! フウラ、早く、さっきの魔法を!」

 フウラちゃんが魔法の棒を手に慌てて走り出す。秋斗から逃げようともがく男の人に、棒の先端を突きつけた。

「弱くなれ!」

 その途端、男の人はその場に、くたっと、倒れた。


 護衛さんが二人の手を背中で縛り、並んで地面に座らせた。二人ともまだフウラちゃんの魔法が効いてるみたいで、ちょっと揺すったら倒れてしまいそうだった。

 ガイア君が二人の前に仁王立ちし、にらみつけた。

「なぜこんなことをした?」

 その声は怒りに燃えていた。

「僕を襲うことは、王国への反逆と見なされる。あまつさえ、僕の友人にまで手を出した! いったい何が目的だ? そもそも、あなた達は何者だ? 言わなければ……」

 ガイア君が手のひらを二人に向けた。それでも二人は全然怖がらず、顔色ひとつ変えなかった。

 男の人が叫んだ。

「我々の目的はただひとつ! あんたの持つ『賢者の石』だ。あるんだろう?」

 賢者の石!? それって、魔法使い系の漫画でよく出てくる、とんでもない魔法の力が秘められてるやつ?

 ガイア君は二人を表情を変えずに答えた。

「持ってない」

 それを聞くと、女の人がニヤリと笑った。

「その言い方……?」

「つまり、賢者の石は実在する!」

「うちらはまさに、それが知りたかったんだよ!」

 ガイア君は、しまった、という顔をした。でも、すぐにその表情を隠した。

「それがどうした。賢者の石の存在は、隠しているわけじゃない。ただ、あまりにもおとぎ話じみていて、誰も信じていないだけだ」

「ああ、うちらも信じちゃいなかったさ。でも龍河さんは信じていた! うちらはその証拠が欲しかったんだ!」

「え?」

 私達はみんな、耳を疑った。

 この人、いま「龍河さん」って言った?

 それってまさか、羽村龍河……私の、お父さん?

「ガイア王子! あんたが持ってないなら、賢者の石はいま、どこにある?」

「それを知ってどうする気だ?」

 男の人が吐き捨てるように言った。

「はっ、決まっている! 俺達が王家に成り替わり、新しい国を作るんだ!」

 どういうこと? 賢者の石と王家に、何の関係があるの? そもそも、本物の賢者の石って、どういうものなの?

 私が頭に疑問を浮かべていると、二人の後ろの風景が、ぐにゃりと歪んだ。

「そこまでだ」

 歪んだのは一瞬で、気がつくとそこには、金髪の男の人がもう一人立っていた。長い金髪を顔の横に垂らした、不気味な雰囲気の人だった。

「バカな、どうやって結界の内部に!?」

「龍河に教わった通りやっただけだ。あの男は凄まじいな。科学世界の人間なのに、魔法世界の誰よりも魔法に詳しい」

 お父さんに!? どういうこと!?

 長い金髪の男の人は、地面に座る二人の頭に手を乗せると、

「移動する」

 と唱えて、パッと消えた。

「ど、どこへ行った!?」

 秋斗が三人のいた場所に手を伸ばした。でも、その手は何にも触れなかった。フウラちゃんが魔法の棒を耳に当てたけど、何も聞こえないようで、首を振った。

 三人はもう、この場にいなかった。

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