第17話 緊急事態

 小さな花火が十個、二十個、三十個と連続で打ち上がる。そして、最後に大きな花火がドーン!と爆発した。

 その火花が消えると、会場の方から大きな歓声と拍手が聞こえてきた。

 三十分ほどの花火大会が、終わったんだ。

 会場の公園から、ぞろぞろとお客さん達が出てくる。ほとんどの人が駅の方へ向かっていった。私たちのいる方へ来る人はいなかった。

「俺たちも帰ろうか」

「そうね。でも少し待ってもらえるかしら」

 そう言うと、フウラちゃんはガイア君に耳打ちした。

「どうやら、花火に驚いて、警備の結界が崩れてしまったそうです。元に戻るまでお待ちいただけますか」

「なんだって? ……まぁ、あの音なら、爆弾騒ぎと勘違いしても仕方ないか」

 周りが静かなので聞こえてしまった。魔法世界の人たちは、本当に花火を知らないんだ。

 そして待つこと数秒。フウラちゃんが耳元に手を当てた。護衛の人から、テレパシーみたいなのを受け取ってるのかな。

 慌てた顔になって、ガイア君に言った。

「大変です。結界が崩れた隙に、魔力を持った何者かが侵入していたとのことです」

「なに?」

 魔力を持った人? それって魔法使いってこと?

「結界を張り直したら反応があり……もう、すぐ近くに」

 でも、私たちの周りには誰もいない。会場から出てきた人たちは、みんな私たちとは違う方向へ帰って行っている。

 ガイア君が険しい表情になった。

「お二人とも、僕たちのそばを離れないでください」

「魔法世界の人なんだよね? ガイア君に挨拶に来ただけとかじゃないの?」

「だったら姿を消す必要がありません。わざわざ隠れて僕たちに近付く理由はひとつだけ。襲撃です」

 王子様を狙う、テロリスト!?

 あまりの急展開についていけない。

 え、嘘だよね。いくらガイア君が王子様だからって、本当にそんなことが起こるなんて。

 私は冗談だと思った。

 だけど、本当だった。

!」

 すぐ近くで声がした。

 そして、何もない空中から、真っ赤な炎が現れた!

「きゃぁっ!?」

「うわぁっ!?」

 今度は私と秋斗が叫ぶ番だった。ドラゴンが吹くような炎の塊が、私たちに向かって飛んでくる。

「伏せろ!」

 ガイア君が叫ぶと同時に、私たちの体は地面に伏せた。ガイア君が魔法で操ったんだ。炎は私たちの頭上を通り過ぎると、煙のようにパッと消えた。

 フウラちゃんが走り出していた。炎が出現した場所に手を伸ばす。

「一瞬触れた! やっぱりここにいます!」

 犯人がそこに!? 魔法で姿を消しても、手で触ればわかるんだ!

 フウラちゃんはバッグから魔法の棒を取り出した。その先端を、自分の耳に当てる。

「聞こえるようになれ!」

 姿が見えなくても、息の音は聞こえるはず。フウラちゃんはそう考えたみたいだ。そしてそれは、正解だった。

「そこですっ!」

 フウラちゃんが魔法の棒を空中に突き出す。何かの手ごたえを感じた瞬間、呪文を唱えた。

「姿を現せ!」

 パリン、という音が聞こえた気がした。一瞬、空中に人の形の光が現れたと思ったら、それが砕け散った。

 中から出てきたのは、金髪の女の人。黒いパーカーを着て、スタイリッシュなジャージをはいていた。

「弱くなれ」

 続けてフウラちゃんが唱えた。その途端、女の人は、くたっとその場に倒れた。

「あれ、動けない。なんで……」

「あなたの体中の力を弱くしました。もう立つこともできないはずです」

 女の人は手足を投げ出している。全然動けないみたいだ。

「さすがフウラだ。でも油断するな、仲間がいる可能性がある」

「はい。護衛の報告によれば、二人組だと」

 似たような人が、もう一人いるってこと?

 私と秋斗は急いで立ち上がると、フウラちゃんのそばに寄った。

「申し訳ありません、王子。ご無事ですか」

 暗闇の中から、肩幅の広い男の人が現れた。たぶん、この人が護衛さんだ。

「フウラのおかげでね。ところで、もう一人はどこにいるかわかるか?」

「いえ、それが……」

 護衛さんが首を振ったとき。

 私の体が、ぐいっと後ろに引っ張られた。

 えっ、なに、と思う間もなく、私は後ろから誰かに抱きしめられた。そして、喉に何かを突きつけられる。

 この感触は、人の指!?

「動くな!」

 頭のすぐ上から、男の人の怒鳴り声がした。

 捕まった、とやっと気づいた。

 私は、もう一人の魔法使いに後ろから捕まったんだ。

 体が動かない。でもこれは魔法じゃない。手足が震えて力が入っていないだけだ。

 私はずるずると後ろに引きずられた。ガイア君の手も、フウラちゃんの魔法の棒も、届かないところまで離される。

「少しでも動いたら、この娘がどうなっても知らないぞ」

 三人が硬い表情で私を見る。

 怖い。動けない。

 助けて!

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