第16話 爆弾

 ぱっと大きな花火が咲き開いた。

 その一秒後、

ドンッ!!

 と大きな音がした。体が一瞬揺さぶられるような、不思議な衝撃。

 これぞ花火! 私が思わず歓声を上げようとしたとき。

「うわぁっ!?」「キャァッ!?」

 ガイア君とフウラちゃんが、頭を抱えてしゃがみ込んだ!

「え、なに、どうしたの?」

「どうした二人とも? 音がデカくて驚いたのか?」

「お、驚いたなんてものではありませんよ! なんですか、あれは!」

 ガイア君は、次々と上がる花火を指差した。

「あれは、爆弾じゃないですか!!」

 ばく、だん……?

 私は花火を見上げた。赤とか青とか、色とりどりに輝いては散っていく花火たち。たしかに、爆発しているのだから、爆弾と言えなくもない。

 でも、爆弾ってもっとこう……あれじゃん。違うじゃん。

「違うぜ」

 秋斗がガイア君の前に立った。

「あれは、爆弾じゃない。爆弾は、兵器だ。花火は兵器じゃない」

「でも、爆発してるじゃないですか。僕たちの世界では、魔法を使わない火も、爆弾も、国際条例で禁じられています」

「……なるほどな。なんとなく、魔法世界の文明レベルがわかってきた気がする」

 秋斗が一人で何かを納得している。後ろでは、小さい花火がどんどん上がっている。

「ガイアもフウラも、魔法の仕組みを全然知らないだろ? 魔法世界には、魔法の仕組みを解明してる人間がいないんじゃないか?」

「魔法に仕組みなんてないわ。魔力が引き起こす人智を超えた現象が魔法よ」

「科学世界の人類も、身の回りの現象について、長い間そう思っていた。でも、違った。こっちの人類は、あらゆる現象をひとつひとつ観察して、実験して、その仕組みを解き明かしていった。その結果を、生活に役立ててきた。その人類の叡智の結晶のひとつが、あれだ!」

 秋斗が後ろを指差した。その指の先で、ドーン!とまた大きな花火が咲いた。

「人類は調べた。火とは何か。なぜ燃えやすいものと燃えにくいものがあるのか。なぜものを燃やすと軽くなるのか。火の仕組みを、片っ端から調べたんだ」

「その結果が、あの爆弾なんですか?」

「そうだ。科学世界の人類は、火を制御する方法を見つけたんだ。。……いや、まぁ、爆弾は危険だけど、勝手に爆発せず、爆発させたいときだけ爆発するような爆弾を作れるようになった。だから、俺たちはこうして、爆弾が爆発するところを楽しむことができるんだ」

 そういえば、昔はお母さんも花火を怖がっていた気がする。だけどお父さんが何かを言って、次の年からは平気になっていた。今の秋斗みたいなことを言ったのかな。

「だいたい、よく見てみろよ。そっちの世界の爆発と、この花火。見た目が全然違うんじゃないか?」

 ガイア君たちは、恐る恐る顔を上げた。

 夜空にいくつも花火が上がる。丸いものもあれば、土星みたいな形のものも、ハート形のものも上がった。オレンジ、緑、黄色、白、……色とりどりの光の点が、パッと広がって散っていく。

 打ち上げ場所はすぐ近くだから、私たちはほとんど真上を見上げていた。爆発とほぼ同時に来る音の衝撃。光の点が、私たちの方に雨のように降ってきて、途中で消えた。

「……炎ではないんですね。衝撃もほとんどない」

「それにこの距離なのに、ちっとも熱くない」

 花火は燃えてるものだと思ってたけど、ロウソクとかアルコールランプの火とかとは、全然違う。ガイア君が言うまで、私も気づいていなかった。

「たしかに炎じゃないな。良い観察だ。これは火花といって、鉄やマグネシウムなんかの金属が燃えているものなんだ」

「鉄って燃えるの!?」

 私が一番驚いて声を上げた。科学世界の人間なのに知らなかった。

「ああ。細かい粒にしないといけないけど、たいていの金属は燃やすことができる。そして金属によって火花の色が変わる。それで、あんな風にカラフルな花火になるんだ」

 燃えてるものが違うんだ。知らなかった。

「そして細かい粒だから、すぐに燃え尽きる。だからこの距離でもちっとも熱くないし、ほとんど真上にあるのに、俺たちの頭が燃えることもない。落ちてくる前に、燃え尽きてるからだ」

 ほえー。

 私たちは秋斗の話を聞きながら、花火を見上げた。ガイア君たちも、もう怖がってなさそうだった。

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