第15話 花火が始まる
花火大会の会場は、市内の大きな湖だ。その湖の周りには小さな公園がいくつもあって、今はそこに屋台がたくさん並んでいる。これらの公園全部が会場で、花火は湖の真ん中から打ち上がる。周りの公園のどこからでも花火が見えるんだ。
花火の打ち上げまでまだ一時間以上あるけど、公園にはもう人がたくさんいた。場所取りをしている人もたくさんいるし、屋台に並んでいる人もいた。
といっても、ぎゅうぎゅう詰めって感じじゃない。四人でまとまって歩くことは楽にできた。
私達も屋台に並んで、焼きそばとか綿あめとかを買った。
「この食べ物は知ってる?」
と、私はガイア君に焼きそばを見せた。
「炒めた麺ですか。魔法世界にも似たようなものはありますよ」
うん? 焼きそばって焼いてないんだ。よく考えたらおそばでもない気がする。なんだこの食べ物。
「こっちはなんですか?」
「綿あめって言って、お砂糖を細長い糸みたいにして、ぐるぐるにまいたお菓子だよ」
「なるほど、綿みたいな見た目です。アメというのは、甘いお菓子のことでしたね」
そっちは知ってるんだ。そういえば、クラスの女の子達からお菓子もらったりしてたな。
ガイア君は綿あめを一口食べると、目を丸くした。
「驚くほど甘いですね」
「嫌い?」
「いえ、美味しいです。魔法世界では、こんなに甘いお菓子はありません」
どんな世界なの? 大きい家もないし、甘いお菓子もない。変な世界だなぁ。
私達はそんな話をしながら、屋台を食べて回った。
「そろそろ場所移動しねえか?」
もうすぐ打ち上げというタイミングで、秋斗が言った。
「ここで見ないの?」
「ここは混むからな。もっと空いてるところがあるんだ。ガイアもその方が護衛が楽だろ?」
「そうですね。お気遣いありがとうございます」
「でも、どこで見るの?」
「こっちだ」
そんなに大きな花火大会じゃないから、屋台の周り以外を探せば、ゆったりと見られる場所もある。座って見るには場所取りが必要だけど、立ち見だったらいくらでも場所があるんだ。
秋斗が選んだのは、公園の周りを通る道路だった。花火大会の間は、歩行者天国になっている。
座れる場所はない。けど、だからこそ、見ている人も少ない。屋台で買ったものを食べ、おしゃべりをしながら見るのにちょうどいい。
「暗いけど、あの辺に水面が見えるだろ? あそこから花火が打ち上がるから」
「夜空に打ち上げるのだったわよね。光る花を」
フウラちゃんが空を指差した。既に日が沈んでいて、明るい星がいくつか光っている。
「光る花っつーか、燃える花っつーか。意外と言葉で説明するのが難しいな」
「始まればわかるよ」
もうすぐ始まるはずだ。私は二年ぶりの花火にわくわくしながら湖を見ていた。
「あっ、ほら、打ち上がった!」
私は湖を指差した。水面から、オレンジ色の光の弾が勢いよく打ち出された。光の弾はゆらゆら揺れながら、「ひゅ~~」という音を出して、高く高く昇っていく。
そして……。
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