第10話 お父さんを探せ

 いま思えば、お父さんは確かにちょっとおかしな人だった。私に無理難題を押し付けて魔法を使わせようとしたり、大学の研究室に一週間以上も泊まり込んで家に帰って来なかったり。お母さんが怒るのも当然のことだと思う。

 でも私の目には、二人はとても仲の良い夫婦に見えていた。いつも私なんてほったらかして、二人だけでイチャイチャしてたから。

 お父さんはお母さんの作る料理が大好きで、いろんな料理をせがんでいた。特に好きだったのは、厚いトーストに野菜や卵を魔法で埋め込んだサンドウィッチだった。「不可能物体サンドウィッチだ!」と言って喜んでいた。

 お母さんはお父さんの科学の話が大好きだった。お父さんの話すソリュウシ?とかなんとかの話を、うっとりした顔で聞いていた。そんな顔でも内容はちゃんと理解していたみたいで、時々何かを質問して議論になっていた。二人とも、それをすごく楽しんでいるようだった。

 二人がいちゃつき始めると、私はバカバカしくなって、自分の部屋へ行った。そして魔法使いの出てくる漫画でも読んで、魔法の練習をするのだった。

 あれが良いことだったのかどうか、正直よくわからない。でも少なくとも、今より悪いってことはない。

 だから私はお父さんに帰ってきて欲しいし、お母さんと仲直りして欲しい。

「そういうことができる魔法、ある?」

 私が聞くと、ガイア君は真剣に答えてくれた。

「人の心を書き換える魔法の使用は、法律で禁止されています。ですので、魔法でお二人を仲直りさせることはできません」

「そんなぁ……」

「ですが、お父様を探すだけならできます」

「えっ」

 お父さんを、探せる!?

「フウラ、やってくれる?」

「わかりました、ガイア様。ですが、この魔法には……」

「そうだね。海さん、お父様の持ち物で、壊れても良いものはありますか? この魔法には探し人の持ち物が必要なんですが、一度使うと壊れてしまうんです」

 どうだろう、そんなものあるかな。

「ちょっと探してくる!」

 私は二人を待たせて、部屋から出た。


 私が見つけてきたのは、お父さんの服だった。どこにでもありそうな普通のTシャツだ。お母さんに内緒で持ってきたから、ちょっと後ろめたい。

「こんなものでもいい?」

「十分です! 早速やりましょう」

 テーブルの上には、透明な丸い玉が置かれていた。占い師が持ってる水晶玉みたいなやつだ。私はその横にTシャツを広げる。

「この玉は?」

「これは映写機です。ここにお父様のいる場所が映し出されます」

 すごい。本当に占い師みたいだ。

 フウラちゃんはまた髪の毛を一本抜くと、それを魔法の棒に巻きつけた。そして棒の先端をTシャツに押し付ける。

「羽村海の父、羽村龍河の居場所を示せ」

 フウラちゃんが唱えた途端、Tシャツに亀裂が入った。次の瞬間、それは全体に広がり、Tシャツはビリビリに破れた。

 そして、透明だった水晶玉の中に、黒いモヤのようなものが浮かんだ。そのモヤは水晶玉の中を漂い、丸くなったり、人型になったり、色々な形になったあと……すっと、消えた。

「……あれ? 終わり? 何も出なかったけど……」

「失敗か?」

 ガイア君たちを見ると、二人は気まずそうに顔を曇らせた。

「いえ、失敗ではありません。魔法は成功しました」

「それじゃあ、お父さんの場所は?」

 二人とも黙っている。その雰囲気で、私はなんとなくわかってしまった。

「まさか、お父さんは」

「……はい、おそらく、そうです。この魔法で映像が出ないということは、お父様はもう、亡くなっている可能性が高いです」

 そんな……。

 私は、全身から力が抜けた。

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