第9話 魔寄せの儀式

「どうしてそうなるのかは、僕もよく知りません」

 テーブルを回って、ガイア君が私に近づいて来た。

「でも僕たちの世界では、子供に微量の魔力を与えると、その子供は魔法が使えるようになるんです」

 私は突っ立ったままだった。私の前まで来ると、ガイア君はその場で立てひざをついた。

「では、手を出してください」

 言われるがまま、私は右手を差し出した。するとガイア君はその手を取って……手の甲にキ、キスをした!!

「ふゎぁぁあああああああ!?!?」

「ど、どうしました?」

「あら、顔を赤色にする魔法? 私も似たようなもの使えるわ。お化粧するときに便利よ」

 二人とも落ち着いている!? 魔法世界では当たり前のことだから、なんとも思ってないんだ!

 でも秋斗は落ち着いてなかった。

「お、お、おいガイア! 海から離れろ!」

「本当にどうしたんですか?」

 ガイア君は立ち上がると、私から一歩離れた。すると秋斗も立ち上がって、ガイア君に拳を突き出した! まさか、喧嘩する気!?

「お、俺にもやれ!!」

 何言ってんのこいつ!?


 私たちは二人とも魔寄せの儀式を受けた。

「これで俺も、ものを止めたりテーブルを大きくしたりできるのか?」

 手の甲をティッシュで拭きながら秋斗が聞いた。

「何ができるかはわかりません。人によって、使える魔法は違いますから」

「じゃあ、俺に何ができるかは、どうやってわかるんだ?」

「手当たり次第に試すしかありませんが、その人の資質を見る良い方法があります」

 ガイア君の話によると、人にはそれぞれ「得意な魔法」があって、その魔法やそれに近い魔法を使うことができるようだ。訓練次第では使える魔法を増やすこともできて、ガイア君はそういう訓練もしているらしい。

「で、どうやって資質を見るんだ?」

「『何か起これ』と唱えてください。そうすれば、その人の最も得意な魔法が発動するはずです」

 な、なんか頭悪そうな呪文……。でも魔法世界では常識ってことだよね。

 私と秋斗は目を合わせると、こくんとうなずいて、一緒に唱えた。

「「何か起これ!」」

 結果。

 何も起こらなかった。

「ダメかぁ……」

 まぁわかってたけどね。お母さんだって私に魔寄せしただろうし。それに、科学世界の人は、過去に誰一人として魔法を使えた人はいないらしい。いくらハーフだからって、私に使えるはずもないんだ。

「すみません、期待させてしまって」

「別にガイア君のせいじゃないよ」

「そうだよ、ガイアのせいじゃない。それに、海はともかく、俺は魔法なんていらないしな」

「不思議な話ね。あたし達の世界じゃ、魔法は生活に絶対必要なものなのに」

 それはお母さんを見ていてもわかる。料理にもお買い物にも、日常のちょっとしたことにも、あらゆるところで魔法を使っている。

「そういや、そもそも海はなんで魔法を使いたいんだ? 俺たちは魔法がなくても生活できるだろ」

「そりゃなくても生活できるけど、あった方が絶対便利だもん」

 だって、私たちの科学じゃ、お人形のテーブルを人間用サイズにすることなんてできない。これができるだけでも、魔法を使う価値はある。

 それに……。

「それに、生活のためだけじゃない。私にはもっと、やりたいことがある」

「なんですか?」

 とガイア君が聞いた。

「もし魔法でできることなら、僕たちが力を貸しますよ」

 言っても無駄だと思っていたから、秋斗にも言っていなかった。魔法がなきゃ絶対できないようなことだから。でも、ガイア君とフウラちゃんが手伝ってくれるなら、もしかしたら。

「私、お父さんを連れ戻したいの。それで、お母さんとお父さんを仲直りさせたい。そういう魔法、ある?」

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