第8話 フウラちゃんの特技

 お母さんの話を聞いたあと、私たちはお菓子の乗った大皿を持って私の部屋に移動した。

「本音を言えば、お父様のお話を一番聞きたかったのですが」

 階段を上りながら、ガイア君はこっそり教えてくれた。

「お父様には、魔法への恐怖心がなかったわけですよね? この世界の人たちに魔法を受け入れてもらうためには、まず恐怖心を取り払う必要があります。そのヒントをお父様から得られると思ったのですが……」

 なるほど、良い考えだと思う。でもお母さんの話を聞く限り、うちのお父さんは変な人だったっぽいし、ヒントになったかなぁ?

 私は部屋に入ると、電気を点けて、三人を部屋に通した。秋斗はともかく、ガイア君に部屋を見られるのはちょっと恥ずかしい。変なものとか置いてないよね……?

 さて、大皿をどこに置こう、と私は立ち尽くした。私の部屋にはテーブルがない。ベッドと勉強机、本棚、そしてクローゼットがあるだけだ。床に置くわけにもいかないし。

「どうやらテーブルが必要みたいね! あたしに任せない!」

 困っていると、フウラちゃんがリュックから何かを取り出した。

 それは、木の棒みたいなものだった。茶色くて、細長い。手元には白い小さなクリスタルみたいなものが付いていて、フウラちゃんはそこを握っていた。こ、これはまさか……。

「魔法の杖!? 本当にあるんだ!!」

「杖? 何を言っているの?」

 フウラちゃんは首を傾げた。

「こんな短い棒、杖になるわけないでしょ」

 あれ、言われてみれば……。

「で、でも、漫画とかの魔法使いはみんな、そういう棒を『魔法の杖』って呼んでるよ」

「ふぅん? おかしな文化ね」

 おかしいかなぁ。

「じゃあ、それはなんていうの?」

「え? そうね……考えたことなかったわね。ガイア様、なんて呼べばいいと思いますか?」

 フウラちゃんに聞かれて、ガイア君は「う〜ん」と悩み始めた。

「なんでガイアが考えてるんだ? その棒、魔法世界の人はみんな持ってるものじゃないのか?」

「持ってないわよ」

 秋斗の質問に、フウラちゃんは胸を張って答えた。

「この棒は、あたしが作ったんだから! 私の弱い魔力を、強い魔力に変えてくれる装置よ!」

「魔力に強い弱いなんてあるのか?」

「あるわ。いま見せてあげる」

 フウラちゃんはリュックから、お人形サイズの小さなテーブルを出した。それに指先で触れると、

「大きくなれ」

 と唱えた。するとテーブルが……ほんの少しだけ大きくなった。

「私の力だとこれが限界。だけど、この棒を使えば」

 そう言いながら、フウラちゃんは自分の金髪を一本抜いた。それを棒に巻き付けると、棒の先端でテーブルに触れる。

「大きくなれ」

 その途端、テーブルがぐわっと大きくなった!

「きゃっ」

 び、びっくりした。危うくクッキーを落とすところだった。

「どう? すごいでしょ、この棒。名前は……ガイア様、どうしますか?」

「ごめん、思いつかない。魔法の棒でいいんじゃないかな」

「わかりました、ではそう呼びますね」

 そんな名前でいいんだ。

「魔法世界の人って、みんなそんな風に発明とかするの?」

 私は大皿をテーブルに置きながら聞いた。それを合図のように、みんながテーブルの周りに座る。

「あたし以外に、聞いたことないわね」

「え? フウラちゃんだけ?」

「そうですね。これはフウラだけの特技です」

 ガイア君が褒めると、フウラちゃんは嬉しそうに笑顔になった。

「自分で作ったなんてすごいな」

 秋斗もフウラちゃんを褒めた。こいつが人を褒めるなんて珍しい。

「俺も工作とか好きなんだぜ。発明ってほどじゃないけど、今度見てみるか?」

「あら、本当に?」

 妙なところで気が合う二人だ。たしかに秋斗は、よく変なものを作ったり、買ったものを改造したりしている。

「なぁなぁ、その棒、どんな仕組みなんだ? そもそも魔力ってなんなんだ?」

 秋斗はあぐらをかいたまま、身を乗り出した。知りたくてたまらないって感じだ。でも、ガイア君もフウラちゃんも、首を傾げてしまった。

「すみません、考えたこともありません」

「あたしも、仕組みはよくわかってないわ」

「え、じゃあ、どうやって作ったんだ?」

「ほとんど偶然よ。最初のきっかけは、ダクタスって木を魔法で切ろうとしたら、隣の木も勝手に切れたことだったわ。そこで試しに、ダクタスの棒に魔力を通したら、反対側からほんの少し強い魔力が出ることがわかったの。仕組みはわかんないけどね」

「それで、そのダクタスって木を利用して作ったのが、その魔法の棒か」

「その通りよ」

 それを聞いて、秋斗はクッキーをかじりながら何かを考え始めた。仕組みを考えようとしてるのかな? 魔法の道具に仕組みなんてあるとは思えないけど……。

「ねぇ、その魔法の棒、私にも使えたりしないかな?」

 秋斗が黙ってしまったので、私も気になったことを聞いてみた。

「それを使えば、私にも魔法が使えるかも」

「それは無理だと思うわ」

 フウラちゃんはバッサリ答えた。

「これは、流し込んだ魔力を増やして、反対側から放出する装置だもの。魔力ゼロじゃ使えないわよ」

「そっか……」

 なんだ、残念。まぁなんとなくわかってたけど。

 落ち込んでいると、ガイア君が言った。

「気になっているのですが、海さんは本当に魔法が使えないのですか?」

「うん、お父さんにも色々やらされたし、自分でも色々試してきたけど、一度も成功したことはないよ」

「僕たちの世界でも、生まれつき魔法が使える人はいません」

「えっ、そうなの?」

「はい。ですが、他の人から魔力をもらうことで、魔法が使えるようになるんです。僕たちの世界では、それを魔呼せと言います」

「やってやって! いますぐ!」

 私は思わず立ち上がった。なんでお母さんは、それをやってくれなかったんだろう? それとも、やったけどダメだったのかな。

「わかりました、やってみましょう」

 ガイア君も立ち上がった。

 ついに私にも、魔法を使えるときが……!?

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