第6話 お母さん

「豪邸ですね……」

 ガイア君は私の家を見上げて言った。お世辞じゃなくて、本当に驚いていた。

 私も見上げてみるけど、豪邸には見えない。ただの二階建ての一軒家だ。

「ガイア様、おしゃべりに夢中で気付きませんでしたが、このあたり豪邸だらけですよ」

 フウラちゃんまでそんなこと言っている。普通の住宅街だと思うんだけど……。

「ガイア君ってどんな家に住んでるの?」

「僕の家は城ですから、お宅よりは大きいですが……ですが羽村さんのお宅は、シュバルツ王国の一般家庭より遥かに大きいですよ」

 魔法の国って、そんな小さな家ばかりなの? 魔法があるなら、簡単に大きい家とか建てられそうだけど。

「お母さん、ただいまー」

 私はインターホンを鳴らして、お母さんを呼んだ。ガチャリと鍵の開く音がして、お母さんがドアを開けた。

「おかりなさい。あら、秋斗君もこんにちは。ええと、後ろの子は……えっ!」

 お母さんはびっくりして、目を見開いた。そりゃあ、魔法世界の子が来たらびっくりするよね。そう思ったけど、お母さんの「びっくり」はそこだけじゃなかった。

「ガガガガイア王子!? どうしてここに?」

 あ、そうか。お母さんはガイア君のこと知ってるんだ。

「今朝のニュースで、こちらの世界に来てるとは報じてましたが……ま、まさか、海が何か失礼を?」

 どうしていきなりその思考になるわけ?

「いえ、羽村さん……海さんは、とても礼儀正しい方ですよ」

 急に「海さん」なんて言われて、ドキッとしてしまった。「羽村さん」だとお母さんと被るからか……。

「本日お訪ねしたのは、羽村ミナモさんにお話をお聞きしたいと思ったからです」

「私にですか? いったい、何の話を……」

「ミナモさんと、羽村龍河さんのことを」

 お父さんの名前が出ると、お母さんは冷めた表情になった。

「異世界人同士のお二人がどうして出会ったのか、お互いの文化の違いをどうすりあわせたのか。そうしたことを、お聞きしたいんです。将来的に、魔法世界と科学世界の橋渡しをするために」

 難しく言ってるけど、「二人の馴れ初め」が聞きたいってことだ。つまり恋バナだ。二人が今もラブラブならいくらでも話してくれるだろうけど、今はタイミングが悪い。ガイア君もそれがわかっているから、すごく申し訳なさそうに話していた。

 お母さんはそんなガイア君の顔を見て、小さくため息をついた。

「あの人もよく、似たようなことを言っていました。十年以上経っても、何もできていないようですけど」

 言葉にトゲが生えている。お父さんのことを話すときは、いつもこうなる。

「わかりました、少しならお話しします。どうぞ、中へ。大したおもてなしはできませんが」

 私たちは、四人そろって家に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る