第5話 手を取り合って
あまりに突拍子のない話に、私の頭はついていけなかった。何かの冗談?
「どういう意味だ? もう少し詳しく話してくれ」
「もちろんです、杉本君。僕は、この科学世界と魔法世界を、もっと友好的にしたいんです。僕がこの世界に来た理由のひとつは、それです」
教室では科学を学びたいからとか言ってたけど、それだけじゃなかったんだ。
「今日感じましたが、やはり科学世界では、魔法は危険だと思われているようですね」
「うん」
「実は、それと反対のことが、魔法世界で起きています。向こうでは、科学は危険なものだと思われているんです」
「こっちの世界での、魔法みたいな扱いってこと?」
「はい。僕が科学を学びたいと言ったら、そんな危ないことはやめなさい、と家族みんなに言われました。でも僕は、その状況を変えたい。魔法と科学が仲良くなれば、きっと世界はもっと豊かになる。僕はそう信じているんです」
魔法と科学を仲良く?
いや、魔法と科学って、全く正反対にあるようなものじゃないの? それを仲良くさせるだなんて、私にはとても想像がつかない。
だけど秋斗の反応は違った。
「へぇ、面白そうだな」
「賛同してもらえますか?」
「もちろん。話を聞くだけでもわくわくしてくる」
えぇ……わからない。
「ねぇ秋斗。どういうこと?」
「そうだなぁ。さっきガイアが、空中で物を止める魔法を使ってただろ?」
「うん」
「あれが、重くて速いものでも止められるんなら、安全な車が作れるかもしれない」
「安全な車?」
「車は急には止まれないって言うだろ? 目の前に突然人が出てきて、『危ない!』と思ってブレーキを踏んでも、間に合わないんだ。だけどあの魔法で、車を急に止めることができるんなら、車は安全になる」
秋斗はガイア君に、「どうだ?」と聞いた。
「車というのがどういう性質のものか知りませんが、十分な魔力があれば、できるでしょう」
ふうん。つまり、科学でできないことを、魔法でやろうってことなのかな。
「面白い話だと思うけど、それと私の家と、何の関係があるの?」
「ああ、そうでした。羽村さんのお家の事情は、魔法世界では有名なんですよ」
「うちの事情? ……あ!」
ようやく私はピンときた。
「お母さんとお父さんが、魔法世界と科学世界の人だから?」
「はい、そうです。二つの世界の人たちは、お互いに相手を遠ざけ合っています。そんななか、仲良くなって結ばれたお二人に、その理由をお聞きしたいんです」
なーんだ。じゃあ、私じゃなくて、私のお母さんとお父さんが目当てだったのか。私はホッとしたようなガッカリしたような気分になった。
「ですので、今日早速ご両親にお話をお聞きしたいんですが、大丈夫でしょうか?」
「平気だと思うよ。お母さん、今日はお仕事お休みで家にいるはずだし。でも……」
でも、たぶん、お母さんの話は役に立たない。楽しみにしているガイア君を見ると、言い出しにくいけど……。
「どうかされましたか? やはり問題があるでしょうか?」
ガイア君が心配そうに私の顔を覗き込んだ。う、近い。かっこいい。
「う、ううん。うちに来るのは問題ないよ。お母さんに話を聞くのも。だけどね、その、ガイア君が聞きたい話は、聞けないかもしれないよ」
「どうしてですか?」
「うう……」
ガイア君はこのためにわざわざこっちの世界に来たんだ。それが無理だと教えるのは、つらい。
私が言えずにいると、事情を知っている秋斗が横から言ってしまった。
「いま、海の両親の仲が悪いんだ。というか、父親が、もう一年近く帰ってきてない」
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