第3話 危険な魔法

 休み時間中、ガイア君はずっと人気者だった。あれだけかっこよくて本物の王子様なんだから、誰だって興味を持つよね。

 かくいう私も興味津々だったけど、あっという間に女子の集団に囲まれてしまって、輪に入っていけなくなってしまった。

「王子様って普段何してるの?」

「将来は王様になるの?」

「どうして日本に来たの?」

 次々と来る質問に、ガイア君は嫌な顔ひとつせずに笑顔で答えていた。

「普段は勉強と、武道の稽古などをしています。王様にはなれないでしょうね、僕は末っ子ですから。日本に来たのは、こちらの世界の文化や科学技術を直接学びたいと思ったからです」

 なんだか大人だ。同じ小学五年生とは思えない。

 質問はまだまだ続いていたけれど、私が一番聞きたい質問はなかなか出てこない。やっぱりみんな、怖がっているのかな。

 やきもきしていると、ついに、その質問が出た。

「ねぇねぇ、魔法の国から来たってことは、ガイア君も魔法を使えるの?」

 誰かがそう聞いた途端、しん、と教室が静まり返った。気まずい空気を打ち破るように、メイドのフウラちゃんが言った。

「もちろんよ! ガイア様は、どんな魔法だって使えるわ!」

「どんなってわけじゃないよ。色々使えるのはたしかだけどね」

 ガイア君は笑顔のまま答えたけど、周りを囲っていた女子は気まずい表情のままだった。聞いた女子も、「冗談のつもりだったのに」って顔だ。

「色々って、それ、危なくないの?」

「魔法は危険なものだって、ママが言ってたよ」

「ネットでもみんなそう言ってるよね」

「本当に大丈夫なの?」

 ざわざわとした戸惑いが、クラスに広まっていく。ガイア君はまだ笑顔のままだけど、隣のフウラちゃんは怒って頬っぺたを膨らませていた。

 私は頬杖をついて、そっぽを向いた。私があの女子の集団に入っていけないのも、実はクラスでちょっと浮いてるのも、これが原因だ。

 魔法は危険。それはこの世界の常識だ。だから、魔法使いと日本人のハーフである私も、秋斗以外のクラスメイトから距離を取られている。

 ガイア君はいま、あの笑顔の裏でどんな気持ちになっているんだろう。悲しんでるのかな、怒ってるのかな。

 ガイア君はなんて答えるんだろう。そっぽを向きながら、私は聞き耳を立てていた。

「魔法は決して、危険なものではありません。だって僕たちは、毎日魔法を使っていますから。それが危険なんてことは、ありえません」

「そうなの?」

「はい。例えば僕はいま、日本語を話しているように聞こえると思いますが、本当は僕の国の言葉を話しています。魔法で翻訳しているんです」

「えっ、うそ!?」

「本当です。でも僕たちにも皆さんにも、何の影響もないでしょう? 魔法は危険なものではないんです。もちろん、悪い人が使えば危ないことにも使えますが……そうでない限り、魔法は安全です。他にもやってみせましょうか?」

 ガイア君は返事も待たずに、筆箱から消しゴムを取り出した。それを空中にひょいと投げる。そして指を振り、

「止まれ」

 と言うと……消しゴムが、空中でぴたりと止まった!

「わっ、すごい!」

「浮いてる!」

「もっとやりましょうか」

 ガイア君は次々と、定規やノリ、手帳なんかを投げると、それを空中で止めていった。

「面白いでしょう? これ、僕が小さい頃、初めて使えた魔法なんですよ」

 みんなの反応は様々だ。すごいすごいと騒いでいる人と、警戒して遠巻きに見ている人がいる。ちなみに私も秋斗も、目をお皿のようにしてそれを見ていた。

 そしてガイア君はノートも投げ、それを空中で止めた……その瞬間、八木先生が教室に入ってきて、目を剥いた。

「何をやっているんですかっ!」

 ガイア君がびっくりすると、空中に浮いてたものが全部一斉に落ちた。

「ギルバート君ですか!? あなた、こんな危険なことを、教室でするなんて!」

 鬼のような剣幕で怒っていた。クラス中の誰もが、しゅんとして下を向く。

 魔法は、危険。やっぱり、みんなそう思っているんだ。

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