第2話 魔法使いの転校生

 運良く、私は遅刻にならずにすんだ。教室に着いたときには八時二十分を過ぎていたけど、先生がまだ来ていなかったのだ。

「助かったな」

 先に着いて友達と話していた秋斗が、私を見ると手を振った。

「私を置いてったくせに」

「遅刻する方が悪いんだよ」

 その通りなので何も言い返せない。

「それにしても、八木先生が遅れるなんて珍しいね?」

 私はランドセルを机に置きながら言った。八木先生はこの五年二組の担任で、時間や約束をきっちり守る人だ。

「転校生が来てるらしいぞ。そのせいで遅れるって」

「へぇ!」

 激レアイベントだ! 楽しみだなぁ、どんな子が来るんだろう。男子かな、女子かな、友達になれたりするかな。

 ワクワクしていると、教室の前のドアが開いた。

「遅れてごめんなさい。はいみんな、席について」

 八木先生が入ってくると、みんな急いで席についた。先生はいつも堂々としているけど、今日はどこか雰囲気が違った。ちょっと緊張しているみたいに見える。

「もう聞いてると思うけど、今日は転校生が来ています。それも、二人も」

 えっ、二人!?

 教室がざわめく。二人も来るなんて、レア中のレアだ。

「はい、みんな静かに。これから紹介しますが……その、かなり特殊な、いえ、高級な人たちですから、みんな失礼のないように……」

 どゆこと? 私たちが首を傾げていると、ドアの向こうから声がした。

「八木先生、お気遣いありがとうございます。ですが僕達は、この国の方々との対等な交流も目的なんです。変に気を使わず、普通の小学五年生として扱ってください」

 すごく真剣な喋り方だった。普通の小学五年生はそんな話し方しないよ。いったいどんな子が来ているんだろう。

「そ、そうですか……では、お入りください」

 八木先生はまだ気を使っていた。

 クラス全員が注目する中、ドアから入ってきたのは。

 男子と女子の二人組だった。男子の方は背が高くて、女子の方は低い。二人とも、綺麗で高級そうな服を着ている。だけど私たちが一番目を引かれたのは、二人の髪だった。

 二人の髪の毛は、どっちも金色に輝いていた!

 男子のショートカットも、女子のツインテールも、魔法みたいに輝いている。

 この二人、魔法使いだ!

 二人は教室の真ん前に来ると、私達の方を向いた。男子の方がにこりと微笑むと、教室が、特に女子の空気が、ガラリと変わった。まるで王子様みたいな笑顔だったからだ。でも先生の言いつけを守って、みんな騒ぐのはこらえた。

「それではお二人とも、自己紹介お願いします」

「はい。皆さん、初めまして。魔法世界の国、シュバルツ王国から来ました。ガイア・ギルバートです。どうぞ気軽にガイア君とお呼びください」

 男子の方が言った。うん? どこかで聞いたことある名前の気がする……。

「日本には九月まで滞在する予定です。短い間ですが、皆さんどうぞよろしくお願いいたします」

 ガイア君が頭を下げると、ぱちぱちと拍手が起こった。

 それが終わると、女子の方が胸を張って、自慢するように言った。

「初めましてね! あたしはフウラ・キャロル。こちらのガイア王子の専属メイドよ!」

 ガイア王子……?

 あっ、そうか! どこかで聞いた名前だと思ったけど、ニュースで聞いたんだ!

 クラスメイトの一人が手をあげた。

「ガイア王子って、あのガイア王子?」

「ええ、そうよ! シュバルツ王国ギルバート王家の第五子、ガイア・ギルバート王子本人よ!」

 教室は、今度こそ大騒ぎになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る