第2話 「女じゃない。愛里だ」

 翌日、幼ななじみでクラスメイトの秋也と昼休みにドラマの感想を話し合う。


「僕は励ましの言葉に感動したな」


 秋也は、最初は女性向けのドラマなんてと拒否したが、今は野球のクラブチームの練習終わりに録画で見てくれるほどハマっている。

 秋也はロマンチストだからきっと好きだろうという読みは当たったな。


「オレは、ファストフード店で飲み物飲む時のしぐさが好きだったな」

「どんなの?」


「ハンカチを出して、それ越しに飲み物を掴んだんだ。水滴が手につかないように。バッグからハンカチ取り出すとき手の指がそろっててキレイだった。テーブルの上の飲み物がどこにあるか、見えないから手に当たったときに倒さないようそっと動いてるんだけど恐々してるってより優雅だった」


 秋也は、「よく見てるなぁ」と笑った後、ハッとした様子で聞いてきた。


「給食の時、目をつぶって牛乳取って飲んでたの、それのマネだったの?」

「そ。お前もオレのことよく見てるのな。オレのことそんなに好き?」

「たまたまだよ」


 なんて言い合っていると、いつも周りにイチャモンをつけて嫌われている通称メタボが鼻を鳴らしながらバカにしてきた。


「女のマネなんて気色悪ぃ」


 オレは、いつもなら無視するのにカチンときて応じてしまった。


「女じゃない。愛里だ」


 主人公の名前は愛里と言う。


「愛里は女だろ?」


 何言ってんだコイツって顔をされたが、主張せずにはいられない。


「そうだけど違う。オレは愛里になりたいけど、女になりたいわけじゃないんだ」


 女性らしい美しさに惹かれ、表現したいと思っても、女性という生き物に成り代わりたいとは思わない。

 オレは男だからオレなんだ。


「わけわかんねぇ。頭おかしいんじゃね?」


 メタボはあだ名の由来になった腹の肉を揺らしながら教室の外に出ていった。

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