第36話:始業式の前日に
突然だが……エルヴァレイン領が属しているヒューザリー王国は学問で生計を成り立たせていると言っても過言ではない国である。
農業?食料自給率三十パー切ってる。
製造業?そもそも輸出品ほぼなし。
税金に関してはある条件を満たせばまさかのゼロ。
では国の維持費はどうしているのか。
無論、諸外国からの手厚い支援金に頼り切りである。
ではでは、どうしてその諸外国はこの国に無償で金を寄越してくれるのか。
それこそが最初に言った、学問に繋がってくる。
この国は各貴族の領地に必ず学校の設立が義務付けられており、逆に学校がなくなったらこの国の領地と見なしてもらえないほどだ。
そんな国の首都なのだから、勿論学校があるのは当たり前。それもハイレベルの、数多なる種類の学問を学ぶことができる。しかも王都にあるその全ての学校が国が運営しているものだから金もガッポガッポよ。
そしていつからか外国からもこの国に学びに来る者が現れるようになり、次第に我も我もということで今ではあらゆる国の貴族平民問わずこの国に集結するようになる。そうなるとこの国はもっとガッポガッポになるわけで、しかもこの国の凄いところは、家庭の事情でこの国まで来れない子供に関しては手紙で申請さえしてくれればこの王都までの移動費は全て国負担という狂ったことまでやってのけているのだから敬意を評すよ。
するーと不思議なことに冒険者協会、魔法師協会の二つの組織までもが、この国の防衛と、魔法学校の設立という形で介入してくるものだから、今ではこの国の王都は圧倒的な戦力を抱えるようになるということが起きてしまったのだ。
「―――と、そんな摩訶不思議な歴史がこの国にがあるわけであって、その理屈から考えるにこの国……もっと言えば王都の周りは比較的安全で魔物なんてホッットンド出ないはずなんだけどね」
「……そんなこと私に言わないでよ」
「いやお前に言ってる訳じゃないよー。強いて言えば結構な頻度でこの辺の魔物を狩っている守衛さんたちに言ってるんだよ」
外で一緒に同行している守衛には聞こえないのをいいことに、言いたいことを言いまくる。聞いている側からしたら面倒極まりないのは自覚している。
……ホントは申し訳ないとは思っている。だが俺の口から文句は止まらない。
今の時間帯は夜。俺が馬車の車輪に魔法を使い出した次の日の夜で、貴族学院始業式の前日。そして今は現在進行系で馬車で王都へと進行中。
だが、俺がこんなにも文句を言っているのにもちゃんとした理由があるわけで、本来ならもっと早く……それこそ昼頃に王都に到着している予定だったのだ。
一体何があったかと聞かれると、昼間に結構強い魔物に襲われた。
その魔物は俗に言う小竜レッサー・ドラゴンで、冒険者協会の定める等級は『B級』。住む場所によって色が違い、それに引っ張られるように身体の中にある魔石も変化していく。
見た目はただのデカい蜥蜴で、竜ドラゴンと名は付いているが、本物の竜ドラゴンとは強さも段違いである。
まぁ、そうは言っても昔の人が竜と名前に付けただけあって弱いわけでは全然ない。寧ろ『SS級』から『G級』まであるうちの『B級』なのだから、中堅レベルでないと倒せないくらいの強さを持っている。
そいつが俺らの前に現れた。
しかも王都を目の前にして。
結果的には、慌てて出てきた王都の守衛とうちの騎士たちが協力したお陰で誰も怪我せずに事なきを得た、が……またそのクソ小竜がアホみたいに耐久するので騎士たちが手こずるんだこれが。そのせいで、完全に夜は更けてしまったわけだが。
俺が加勢して瞬殺しても良かったのだが、そこで実力見せて身分を調査されたら即バレするので、もどかしさを感じつつも我慢した。
因みにフィオナスはお嬢様ティナの護衛で側を離れるわけにもいかず、サッと行ってサッと帰ってくれば良いんじゃねぇかというのは全てが終わった後に気がついた。ティナには俺が側にいるわけだし。
「まあ、そんな文句言ったって意味ねぇよなぁ」
「……?どうしたの?シーク」
「いんや、なんでもない。というか師匠呼びは止めたのな」
「止めたというよりも人目がある場所でメイドに対して師匠呼びしてたら変でしょ」
「……それもそうだな」
こんな意味のない会話をしているうちに、ようやく王都の中へと入ることができた。
馴染みのある景色をボケっしながら見ていると、隣からティナの「ねぇ……」と声がかかる。
「そういえばシークはここに来たことあるんだよね」
「そうだなぁ。来たことあるっつーか『ここにいた』って表現のほうが正しいな。王立魔導専門学校もここにあったわけだし」
「そっか。……ってそう考えると私達って思ったよりも近くで過ごしてた訳か。そしてまた別の場所で再会した。……あれ?これってもしかして……運命!?」
「だったら俺がお前にわざわざメイド服の姿にさせられて連れてこられたのもそれは運命か?」
「…………それも運命だよ」
「運命って言葉便利すぎんだろ」
ハッハッハ、と互いに笑い合うが、果たして。
俺の嫌味を込めたその気持ちは伝わっているのだろうか?
なんて思っていると、こちらに聞こえない程の声量でとなりのティーゼさんと話している。そして時たまこちらをチラチラみていることから……まぁ、気持ちは伝わってはいるだろう。
……そう信じたい。
その後は流石に王都の中というだけはあって、無事にその学院の寮内へとたどり着くことはできた。
突然だが、ここで驚いたことを一つ。
部屋がとんでもなくでけぇ……。
凄いビックリした。寮の外見の大きさからも薄々察せられたが、貴族の令嬢とメイド二人で住む大きさじゃねぇ。学院側もメイドもとい様々な従者と住むことを想定しているからなのか、部屋がもう一つの家みたいな状態になっている。
あまりに凄すぎて一度ティナの荷物を床に落としてしまったが、その田舎者のような様子を見て、ティナからだけでなくティーゼさんからもクスクス笑われてしまったのはいい思い出だと考えよう。
その日は結局寮に着いた時にはいい時間になっていたので、全員で床についたが―――因みに何故か俺の分のベッドまであった―――ティナが学院に行っている間は暇になるので、ティーゼさんに色々と案内してもらおうかと考えている。
そしてその翌日。
「オーホッホッホ!このワタクシが迎えに来て差し上げましたわよ!ティナリウムさん!」
もうそろそろティナが出発というところで、
びっくりするくらいのテンプレお嬢様が現れた。
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