第32話:やっぱりこの娘は我儘過ぎた
そうして俺ら四人は敷物の上に並べられたバスケットの中身を取り囲むようにして床に座る。
中年おじさん1、獣っ娘幼女1、お嬢様1に魔法士1のトンデモ構成だがその状況に異を唱える者は誰もいない。
バスケットの中身から弁当を取り出していると、突然ティナの両手が今の今まで繋げられていた手錠とともに突き出される。
「そうだ、シーク、これとって〜」
「ん?……ほい」
「ありがと〜」
「……そんな手錠を当たり前のように……、しかもノールックノーモーションで……。……オレも魔法を覚えようかな」
「教えてもらうなら師匠に頼んだら教えてくれるよ……多分だけど」
シアの真面目にそう考えてそうな声を聞いてそう答えながら、バスケットの中にお弁当と一緒に入れてあった水筒の中身をカップに注いで視線をゼクスの方へと向ける。
「まぁ、シアが覚えたいってんなら俺も教えるつもりだけど、でもいかんせん魔法書が……って、あ!」
いきなり大きな声を出したかと思ったら、何故かこちらにビッと指をさしてきた。
「俺が前に渡したアレ、まだ持ってる?」
「アレ?ってあ〜アレか」
俺も一口パンを食べようとお弁当に手を伸ばしていたところだったが、その手は腰に備え付けられていた魔法書専用の次元収納口ポケットへと滑り込む。
その代わりにもう片方の手で、器用に食べようとしていたパンを手に取り、それを口の中へと押し込む。
「モグモグ、ん〜??……アレ?な……くない。これか?モグモグ……うんこれだ」
そうして取り出したのは、一見地味な見た目の本。
だがその特筆すべき特徴は、その厚さだ。
次元収納口ポケットの口のギリギリの厚さを誇るその本は、見た目だけでも恐らく二十センチは下らないだろう。
「よっこいせっ!!」
気合を入れて引き出す……が、
「〜〜〜っ!っあぁ重いっ!」
片手では持ち上がらないと判断し、食べかけのパンを全部口の中に突っ込んでから両手を使って勢いよく取り出す。
「よおっし!!」
最後の気合とともに次元収納口ポケットからバカみたいな大きさの魔法書を引っこ抜いた。それは魔法書を重力に任せて地面にぶつけた時の、バンッッッ!!という響いてしまう程の音からも察せられる。
そしてクイナ自身は体全体を使い、無理な態勢からようやく取り出すことに成功した時には、最早動いてすらないのに息切れが起きてしまっていた。
「はぁ……はぁ……、ひ、久々にこんな声出した」
「何その魔法書。私見たことないんだけど」
ティナがほんの少しいじけるような声を出すがこればかりはそうはいかない。
「ティナ。シアもよく聞いとけ。この魔法書の名前は『属性魔法全集』と言って、火だったり水だったり他にも風、土、雷、氷etc.エトセトラの全ての属性魔法の第五位までの中級と呼ばれている魔法の陣が収められているアホみたいな魔法書なんだ。だから間違ってもこんなの買おうと思うなよ」
「え、どうしてだよ。なんか全部盛りでオトクそうじゃん」
シアが疑問の声で訪ねてくる。
確かにオトクと言えばオトクだが……
「まず前提として、人間には属性魔法に対する適正ってもんがあるんだ」
そこからシアには以前ティナに授業の一環として教えたことを説明する。
今回は例の魔法書も持っていることだし、実際に見せながら。
「土魔法の欄は……っとここだここ。見てろ、俺の属性魔法の適正は『土』に該当するから……」
そう言いながら、あるページに描かれた魔法陣に適当な魔力を流し込む。
するとそのページは淡く光りだし、その瞬間俺の目の前にこぶし大の石が形成された。
「土魔法である、この“石生成”の魔法が反応するというわけだ。だが……」
今度は何十枚かのページを掴み、左へとめくる。
そして今度も先程と同じように魔力を注ぎ込む……が、
「俺の適正にない、草魔法であるこの“草魔法:
その言葉に、終始目を輝かせて聞いていたシアは勢いよくコクコクと頷いた。
結果的にシアの適性は『火』と『風』だった。
火もさることながら、属性魔法の中で最強格と謳われている風の魔法に適正があったことは彼女にとっては僥倖だろう。
そこからは基本的な『火』と『風』の魔法の概要について説明を開始した。
シアの魔法に対する姿勢はとても積極的で、ティナほど前のめりではないものの、「魔法を使いたい!」という気持ちは十分に見て取れた。お陰で俺の『面倒くさがり』もひょっこり顔を出さずして説明は終わった。
「―――というわけだ。まぁ、簡単に魔法のことについて説明するんならこんな感じだが、あとは何回も魔法書を手本にして魔法陣を頭が擦り切れるくらいに使うのがコツだな。視た限りは、魔物だからか知らないけど保有できる魔力の量も人よりかは多いし。練習すれば魔法の発動くらいは苦もなくできるんじゃないか?」
「ふ、ふぉ〜……!」
試しにやってみた“風魔法:風生成”を発動させながら、魔法を使えることに対してなのか、はたまたその力そのものに対してなのか……とにかくシアはその力に非常に感動を覚えているらしい。
……なんだか、
「「和むなぁ」」
「二人共、子供を見守る親の目をしてるよ」
ティナに指摘され、思わず俺等は顔を見合わせる。
そして俺らは同じタイミングで吹き出した。
「……フッ、仕方ねぇよな?」
「だよねぇ」
なんというか、こう……庇護欲をそそるもんがある。
言動言葉遣い諸々は、まぁ悪いと言わざるを得ないが、それ込みでも保護対象感がシアからはにじみ出ている。
そんな気持ちになりながら、男二人で幼女に向けてほっこりとした視線を向けていると、唐突にシアがこんな質問を投げかけてきた。
「なぁ、どうしてシークはこんなに魔法について詳しいんだ?」
「そりゃあ……魔法士だからよ」
「いや、そうじゃなくてだな……」
言いたいことが纏まらず、頭を抱えている様子。
そんなシアに苦笑いしながら、ゼクスが助け船を出す。
「つまりアレだな。そんなの普通の魔法士の持っている知識じゃないってことだろ」
「そう!それだ!」
さっき自分で言ったこととそれ程変わらない内容だが、言いたいことは伝わった。
伝わったからこそ、俺は悩む。
悩む。悩みはする……が、どうも昔から染み付いた己の信念というものは中々に芯が太いようで、結局はこんな結論に落ち着くのだった。
めんどくさい。
「まぁ……でも上には上がいるもんだぜ」
嘘である。
いや完全な嘘ではないが、この魔力操作の技術に於いては誰の追随をも許さない自負がある。だがそんなのをそのまま言ってしまえば、地味に勘の鋭いティナには気づかれてしまう可能性がある。
俺の賢者の所以とまで言われるそれだけは必ずティナには伝えてはいけない。
少なくとも、然るべき時が来るまで―――
「ふぅ〜ん?……ま、それもそうだね。師匠自体が普通ではないにしても一番ってわけじゃないか」
どうにか誤解させることに成功したようだ。
「失礼だが全くもってそのとおりだ。それにそれに俺なんかが頂点に立てたら『賢者』や『大賢者』なんて称号はあんまり意味を成さない。彼らはずば抜けた特徴を持って、尚且世のため人のために魔法を使える善人だと判断された人間たちだ。……お前は俺がそんな善人に見えるか?」
「見えないし今の説明を聞いた限り師匠みたいなサボりぐせの持ってる人がなれるものだとも思わない」
「酷い言いようだし、それに第一お前師匠呼びするんならもっと俺を敬えよ!」
「私は貴族様だから良いんです〜!」
「……そう言えばお前貴族だったな。普段の言動からはかけ離れすぎてて今まで忘れてたわ」
半ば嘲るように鼻で笑うと、それにムッとしたティナは何回か咳払いをすると静かに口を開いた。
「あら、少し冗談が過ぎるんじゃないですか?この私、エルヴァレイン家の次女、ティナリウム=エルヴァレインが貴族に見えないとおっしゃるのですか」
「わ」
久々に見た貴族モードに、驚きよりも、そのあまりの変わり身の速さに敬意の念を抱いていると、それを傍から見ていたシアがあまりの出来事に口を大きく開けたまま手に持っていたサンドイッチを落としてしまっていた。
「あ!い、いや悪い!あれだぞ、決してその感じが普段とは違いすぎてなんか気持ち悪いな〜なんて思ってたわけでは……!」
「…………」
子供の素直さには誰にも逆らえないもの。時として無差別に人を惨殺していく子供の言葉に果たして誰が本気で怒れると言うのだろうか。それは貴族サマにも通用するらしい。
なんとも言えない表情のティナに対して、思わず吹き出してしまう。
「ブフッ」
「あの〜……あまりシアのこと起こらないでやってくれないか?」
「……分かってますよ、ゼクスさん。それにシアには結構お世話になりましたから。……でも」
と、そこで言葉を切ると突然こちらに指を指してくる。
「……人に指を指すなって教わらなかったか?」
「それじゃあこれなら良い?」
すると今度は近くに落ちていた棒を拾って、ヒュンッ!とその先を俺の喉元まで突きつけた。
「いや余計に駄目だろ!何やってんだお前!?」
「私を笑った罰。……私と真剣勝負をしようよ」
いきなり、そんなことを言い出した。
「いやこじつけ過ぎない!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます