第18話:いざ、魔法の訓練……!
このエルヴァレイン家には、流石剣聖と言われるだけあって、今代剣聖のヴェンスの弟子も多く存在しており、その多くがこの敷地内に設けられた専用の訓練場で剣の腕を磨いていた。
その訓練場というのがそこそこ大きく、屋根も付いているため雨天でも訓練可能なのだそうだ。時偶、王国の騎士団が剣聖であるヴェンスに師事するため、わざわざエルヴァレイン領にまで来て訓練も行われるようで、俺はまだ来てから日も浅いのでそんな光景は見ていないが、ティナが言うには錚々たる光景なのだそう。
そして俺らは剣の訓練ではなく、その場所に魔法の訓練をするためにやってきていた。
「これは……訓練場じゃなくて闘技場の方があってるんじゃないか?」
「私もそう思うけど……やっぱり外面的には戦う場ってよりも訓練する場の方が良いってことでしょ」
「いやそうなんだろうけど……」
という呟きとともに俺はその訓練場を見上げる。
外見は石で囲われており、窓なども一切ない古典的な建物だ。事実、風化による石の劣化なども見えるのでこの建物も随分前に建設されたのだと推測される。近くにある綺麗は邸宅がよりこの練習場の古めかしさを際立たせている。
と、ここで俺はあることを思った。
「(これは……訓練場というよりゼパルの国の闘技場コロッセオを彷彿とさせるな)」
『ゼパル国』とは、このエルヴァレイン領の大元である『ヒューザリー王国』の隣に位置している国で、冒険者協会の総本山がある国だ。
……ついでにジダが拠点としている国でもある。彼女は賢者兼冒険者という二つの組織に入っているという変な立ち位置のせいで、最初こそはどちらからも受け入れられなかったが、今では二つの組織の橋渡し的なポジションに居座っている。
「(そういえば最近あいつらとは連絡取ってないけど……ま、元気にしてるだろ)」
懐かしの友への想いは早々に断ち切り、目の前のことに集中することにする。
「それじゃあ中入るか」
そうして入り口から入る。
道中の廊下は外装とは打って変わって以外にも整備されており、毎日、とまではいかなくともちゃんと管理も隅々まで行き届いているのを感じた。
「……なぁ。どうしてお前はあの環境で魔法を好きになったんだ?」
道中、俺は雑談の話題としてそんなことを聞いてみた。
「普通に考えて剣聖の家系が魔法に触れる機会なんて殆どないし、ましてやどうあがいても剣の訓練や貴族の勉強しなきゃいけないことも沢山あるだろ」
「うん、普通に考えたらそうだろうね。そもそも他の子だったらシークの言う通りこの時期は貴族として学ぶことがありすぎてそれどころじゃない」
そこで一度言葉を区切るが、しかし!という突然の大きな声とともに足を止めて先行していたティナがこちらを振り向く。
「こう見えて、私天才なんだよ!」
「こう見えての自覚はあったのな。……でも本当の天才は魔法書すら使わずに第四位の魔法を初見で扱えるぜ」
「えっ……!……ぐ、ぐぬぬ……」
速攻で伸び切った鼻を折っていく。
だが、実際にそんな天才が世の中にはいるのだ。
……ウェルナルドという知識の天才が。
「と、取り敢えず今は魔法については置いといて……それ以外の分野では私は自他共に才女と言われるだけの才能があったの。だから私は貴族学校にいる間も勝手に家から持ち出した魔法書を使って魔法の練習を続けていられた。それだけの話だよ」
「……天才……ねぇ」
どうも俺はその言葉の凄さが薄れていっているような気がする。これはあれだ、学園にいる時に「天才」って言葉を聞きすぎた。人間ってばどうも自分より遥かに優れた人物を「天才」という枠を設けて自分とは違う存在にしたがる。……どうしてだろうね?
「ま、俺が教えるのは魔法なんだからそれが扱えないお前は劣等生でしかないんだけどな」
意地の悪い笑顔を向けてやると、さっきまで自慢げだったその顔をプルプル震わせながら大層悔しそうに早足でこの場を去っていった。
「ハハ、少しからかい過ぎたかな」
小さく笑いながら俺もその後を付いていく。
……が、そこで良からぬことが起きてしまった。
「ありゃ?」
早足で角を曲がっていったはずのティナの姿がない。
不思議に思いながらも、俺は少し先に見えた十字路まで歩く。
そこにもティナの姿はない。
……これは……多分……。
「置いていきやがったあいつ……!」
突然のカミングアウトだが、俺は極度の方向音痴だ。
……この時点でもう察してもらえただろう。
……そう。
「どこだここ」
左右の無機質なコンクリートを見渡しながらそんなことを呟く。
最初に「俺は方向音痴なので絶対に置いていかないでください」ってティナに伝えておけば良かったと思うが事が起きてからではもう遅い。
完っ全に迷子った。
なにせこの訓練場が広い広い。というかこの施設、次元魔法が使われてるんじゃないの?歩けど歩けど到着する気がしないし……それに地図も間違ってるんじゃない?いや流石に俺が極度の方向音痴と言っても方位を気にしながら道に沿って歩いていったら着かないわけがないもんなぁ。というか案内板がないんなんて施設として成り立っていない(以下略)。
……とクイナは供述してるが、方向音痴なんてそんなもんである。
実際には始めの方は地図通りに進んでいるのだが、何をどう血迷ったのかいつの間にか真逆の方向に足を進めており、結局元の場所に戻ってしまうのだ。
「(もう、中心部に行くことは諦めて外から行こうかな……)」
なんてことを思いつつも、外にすら出られないのが方向音痴の定め。
暫く歩き続けて―――具体的には外に出ようと思ってから三十分くらい―――彼は思った。
「(あ、これ終わったやつだわ)」
いつもなら風魔法でアンナが探し出してくれるため、失踪案件には至っていないが今回は勿論こんな場所にアンナなんていないし、それなら誰か案内してもらえれば!とも思ったが、不幸にもこの場所は誰もいないことが入る前に確認されている。
こうなったら伝家の宝刀、「右に沿って歩き続ける」を使うしか……でも歩き続けるの面倒くさいなぁ。もういっそ唯一の魔法オリジナルマジックのゴーレムに足になってもらうか、などと考えていたその時。
どこからか物音が聞こえた。
「(あそこは……何かの個室か?)」
瞬間、俺の抱いた感情は、安堵でも喜びでもなく……懐疑だ。
この場所に来る前にティナはこう言っていた。
『練習する場所?それならここの近くの訓練場が丁度いいよ。あそこなら空間も広いし、なにより今は多分あそこは誰も使っていないと思うから』
多分と言っている辺り、その言葉に確信はないのだろうが……それでも、だ。
ティナの想像もしていないことが起きているのは事実。
少しの間悩んだ結果、俺はその部屋に足を踏み入れることにした。
理由は単純で、右に沿ってあるき続けるよりも、もしもこの部屋の中にいる人がこの訓練場の関係者だったら中心部まで案内してもらおうという魂胆だった。
因みに、悪いやつだったら退治しよう、などという高尚な考えは一切持ち合わせていなかった。
「(一応、銀鈴も用意して……攻撃してきたらこいつで一度受け止めて反撃。攻撃してこなかったら様子見だ)」
つい最近も随分お世話になった衝撃を無効化する魔道具片手に……いざ突入!
右手でドアノブを掴み、勢いよくその扉を開く。
するとそこにいたのは……
「は??」
「えっ……」
着替え中だったのだろう。下着しか纏っていない金髪のエルフだった。
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