第15話:疑問、からの衝突.後編
事は終わった時には、もうカンナの英霊剣はただの細剣に戻り光を失っていた。
そしてそれに呼応するかのように、全ての魔力が尽きたせいでその場にうつ伏せの状態で力なく倒れ込んでしまう。
「まぁ……本来はそうなるよなぁ」
その姿を見て、誰にも聞こえないくらいの声量でボソリと呟く。
……そう、本来はこうなるはずなのだ。
「ま、このままじゃ話もできないし、応急処置応急処置」
俺はようやく椅子から立ち上がり、カンナのもとへと近づいていく。
そして……
「ん〜、この魔法久々だから魔法陣これで合ってたっけ」
「えっ?ちょっと待て。…………なんの魔法を使う気?」
魔法陣を思い出し中の最中、カンナが唯一動く頭を動かして震えた声でそんなことを尋ねてくる。
「なにって……その状態じゃキツイだろうから“魔力変換”の魔法を使ってやろうかなって……」
魔力変換とは、読んで字の如く、魔力を変換する魔法で、本来魔法士の内包する魔力は空気中に存在している魔気を体に吸収させて、魔法の原動力となる存在に変えている。だが、その工程は自然に行うことなので勿論スピードは遅い。勿論個人の保有できる魔力の最大量によって最大まで回復する時間の差はあるが、それでも空っぽにした状態からマックスまで溜めるまで約三日ほどの時間が必要になる。
そしてそれを促進させる魔法が、この無属性魔法である“魔力変換”だ。
しかし、便利な魔法にはそれ相応の難点というものが当たり前のように存在しているわけであって……。
「待って……最後に一つだけ聞いていい?」
言葉を発するのも辛いだろうに、それを耐えて声を振り絞る。
「ほんっと〜に魔法陣正確に覚えてる?」
「……………………今思い出してる」
「ねぇほんとに大丈夫!?」
その難点というのが、圧倒的な魔法陣の複雑さだ。
これは無属性魔法全体に対して言えることなのだが、人力での再現が難しい分、理解し難いよく分かんない機構だったり、寸分の淀みも許されない幾何学模様が用いられたりすることもある。
今回の“魔力変換”は魔力操作の技術だけで模倣は原理的には可能なため、まだ無属性魔法の中でも簡単な部類に入る。
だから魔法陣の仕組みの一部を簡略化しても成立する。
それでも、だ。
ムズいもんはムズい。
「……………………大丈夫」
「何その間!なんだかその空白にそこはかとない恐怖を感じるんだけど!!」
「……よし、多分これで大丈夫だろ。……いくぞ」
「えっ、ちょっと私に選択権は……」
という風に有無を言わさずに実行。
そしてもしもの時のために魔法を使用する間の保険として白銀のハンドベルを左手に用意する。
これで準備は整った。
魔法を発動させるため空いた方の右手を倒れているカンナの背中にかざす。
すると、音もなく淡い光がその手から溢れ出した。
今回は目での確認も入れるため、手元に魔法陣を投影させて発動する。その光はただの魔力の光だ。
「あー、あー……ん゛ん゛っ。“無属性魔法:魔力変換”」
俺が簡略化された詠唱を行うと、その光は強さを増す。
そして微風が周囲を吹き荒らして……
「成功」
ものの数秒で、その魔法は完了した。
「取り敢えず動けるだけの最低限の魔力は回復させたけど……どう?」
「うぅ……、酔った感覚で運動した時みたいな不快感が」
「流石に最低限だけだからな。魔力が枯渇した状態を続けて命を削るよりかは何倍もマシだ。ほら、動けるならさっさと立って話し合いを再開するぞ」
「……年上には優しくしなさいって習わなかった?」
「そっちこそ、『魔力の枯渇は捕まると分かってて行う犯罪と同じくらいには愚かな行為』って習わなかった?」
うぐっ、といううめき声を上げた後、ヨロヨロとした動作で起き上がり、先程まで座っていた椅子に向かう。
「……ふぅー……それで、どこで話が途切れたんだっけ?」
「口調は戻さなくていいのかよ」
「いいのよ。というかもう戻す意味なくない?」
先程の淑女の気配はどこへやら、実にあっけらかんとした口調で話を再開する。
「あーっと……それで、ティナのことについて。詳しく話を聞かせてもらおうじゃない」
「その一言のために、俺は戦ったかいがあったよ」
「……さっきのを戦いと呼んでいいかは少々疑問が残るけどね」
互いに苦笑で向き合う。
さぁ、ここからは弁明の時間。言い訳も含めて解雇されないために自分をアピールしていこう。
てなことが昨日の夜にあったわけだ。
結果的に俺らは相互理解し、無事和解した……が、あの部屋には“衝撃吸収”をかけていたため誰にもあの時の話は聞こえてないだずだ。それが例え天井裏に潜んでいたりしても中の内容は絶対に聞こえないと断言してもいいほどに。
別に直接俺自身を「土の賢者様」や「エシハ様」とか呼ばれているわけではなため、絶対にバレた、とは完全には言い切れない。寧ろ俺が盛大に勘違いしていることもあるわけだ。
だが、世の中には「もしも」という言葉がある。
それが例え一パーセントでも、ましてやそれ以下の確率でも、絶対はないのだ。
学園時代でもそれでかなり痛い目にあったので、俺の警戒心は未だに高い。
―――だから確認せねばいかんのだ。
目的の部屋に到達し、ノックする。
「……あら、どなたかしら?」
返事が帰ってくる。
例の『淑女モード中』だが、いると確認できればやることは一つ。
「ナエハです。失礼させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいですよ」
二つ返事で了承する。
顔は見えないが、その声色からしてもなんだか上機嫌なことが伺える。だがこちとらそんなことは気にしてはいられない状況にある。
「失礼します」
……ここからの行動は早かった。
まず素早くドアを開けて閉め、サッと部屋の中を見回してカンナ以外に誰もいないことを確認。
そして素早く右手を振り抜き……
「“土魔法:衝撃吸収”」
部屋全体に何重にも魔法をかけて、万が一も絶対に起こらないような環境を作り上げる。
そして全ての準備が完了した後……叫ぶ。
そして―――
「カンナ!もしかして俺が土の賢者だってこと誰かにバラしてな……い……」
不思議と言葉がどんどんと小さくなっていく。
初めは怒声にも似た声だったが、と・あ・る・人・物・を視界に捉えた瞬間、体中の力がまるでどこかに霧散したかのように脱力していった。
それもそのはず、
「…………誰その子??」
この部屋にいるはずのない三人目の人間がこの場にいたのだから……。
その三人目のは、俺の見たことのないまだ十歳にも満たないであろう幼女だった。
「(……ふぅー、落ち着け、冷静になれ〜。取り敢えず状況の確認を……)」
そして幼女を視界に入れて暫くし、冷静になった俺は今さっき自分が叫んだセリフが突然に頭の中に飛び込んできた。
『カンナ!もしかして俺が土の賢者だってこと―――』
……おれがつちのけんじゃだってこと。
……俺シークが土の賢者クイナだってこと。
「「「…………」」」
少しばかりの凍りついた空気での沈黙の空間。
そして俺は改めて自覚した。
「(…………完っ全にやっちまった……!!)」
誰も何も喋っていないのに、勝手に自滅した俺は頭を抱えてその場に倒れ込んだ。
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