第2話:怠惰な賢者.後編

これから俺らが卒業する魔導学園の入試の最後の問題に、必ずと言っていいほど出題される問題がある。


それが“魔法とはどういうものか説明しなさい”だ。


正直に言うと、これに正確な正しい正解なんてものは存在しない。だから本来は“魔法に対して自身の考えを述べなさい”という方が問題としては正しいはずだ。

しかし、そうではないから余計にこの問題を目の当たりにした受験生は混乱する。


まずはじめに断っておくと、俺らの所属する魔導学園―――正式には『王立魔導専門学園』―――は世界最高峰と呼ばれる魔法師養成機関だ。

勿論そんな学校では自分らの持つ当たり前の常識が通用しない。


さて、優秀な受験生はそれを分かってる。……だからこそのこの問題だ。



“魔法とはどういうものか説明しなさい”



もしかして正しい答えがあるのでは?

そんな思考に陥ってしまう。

ただ最初も言ったように、この問題の真意は“魔法に対して自身の考えを述べなさい”だ。


後に聞いた話だが、この問題は学園長が面白半分で作った問題らしい。稀にこの問題で面白い回答をした者はテストの点数関係なくこの魔導学園への入学を許されるのだとか。


そしてなんとその珍回答を生み出した異端児が俺。


「“世の中を怠慢に生きていける素敵な道具”その最初の俺の願いをまんま具現化させたのがこの魔法だ」


目の前には二メートル超のゴーレム。今はまだゴツゴツとしたフォルムで細部の細かなデザインは決めていないが、それでもこれが“土の配下サモン・ゴーレム”によって作り出された、俺の……土の賢者の唯一の魔法オリジナルマジック……


「素晴らしいだろ」


と歯を見せてドヤ顔で自慢する。

……が、


「…………」


ジダはなんとも言い難い表情をしてみせた。


「……なんだよ。なんか言いたいことあるなら口で言えよ」

「いや、たしかに凄いとは思うよ。凄い……とは思うけど…………これがクイナの唯一の魔法オリジナルマジック?」

「いやそうだけど?」


何をさも当たり前のことを聞いてくるんだか。まるでこのゴーレムがで作り出されたかのように…………って、

……いやまさかとは思うが。いやいや賢者ともあろうことかこのに気づいてないわけが……


「……なぁジダ。一つ聞いていいか?」

「ん、良いけど……」


隣にあるゴーレムに片手で触れながら問いかける


「まさかお前気づいてないわけじゃないよな?」

「気づいてないって……何に?」


……冗談じゃないようだ。

その答えを聞いた瞬間、大きくため息をついた。


「はぁ……。まじかよお前。もう一回最初から学院で学び直せよ……ってそう言えばジダにそんな理論は必要ないっていう結論に至ったんだったけか……」

「なんだかそこはかとなくアタシのことを馬鹿にしてる気がするよ」

「いや馬鹿にはしてねぇよ。ただこれが本来のジダ・ジオンだって再確認させられただけだから」


前にも言ったとおり、ジダの主な賢者としての活躍は魔物退治や対人戦など、持っている力をそのまま振るうことに適している―――そもそもとして炎魔法がそのような傾向にあるとも言えるが。


そして本来魔法を使う者、というのは頭が良い。


というのも、魔法を扱う際には魔法ごとに『魔式』なるものが存在する。大抵は魔法陣で描かれていることが主だが、その魔法陣を頭の中で魔力を使い思い描くことで魔法というのは発動する。


ではなぜこの過程を頭の良い奴しか行えないのか。


それはこの魔法陣を完全に暗記する必要があるからだ。魔法陣そのものが意味のわからない記号や文字で構成されているせいで覚える気にもならないし、尚且ほんの少しでも記号や文字の配置がズレていたりしたら威力が落ちたり、もしくは発動さえしない時もある。


これが学ぶ者の意欲を削る。

簡単に言えば魔法というのは努力が直結しにくい分野なのだ。


もちろん死ぬほど努力したらそりゃあ魔法陣の一つや二つは覚えられるが、忘れてはならないのが魔法陣の数イコール覚えた魔法の数ということ。


さて、話を戻すと、ジダの強みはこの面倒な魔法の発動の手間を全て直感で行っているのだ。


意味が分からないだろう?俺も初めて聞いた時意味が分からなかった。

まぁつまり、そういうことだ。


「……ま、あいつらに会ったら答え合わせをするか。ほれ、行くぞ」

「えぇ!?今ここで教えてくれても良いでしょ……ってそのゴーレムそうやって使うんだ」


なんだか長々とした愚痴が始まりそうだったが、今の俺の様子を見て一瞬で引っ込んだよう。

そういう俺は今作りだしたゴーレムの曲げた左腕に座っている。


「もちろん初めにこの魔法を創り出した動機はまさにこの方法だが、考えようによっちゃ色々なことにも使えるぜ。物を取らせたりお茶を入れさせたり」

「それ全部クイナが動かないようにするためじゃん」

「ハハッ、良いじゃねぇか、平和な使い道でよ〜」


そんな俺の言葉を聞いた後、


「それもそうか」


と納得して見せた。



















その後、俺はそのままゴーレムの腕に乗ったまま学園の門を通った。歩きながら(?)だったが、家を出た時間が時間だったので、それでも大いに余裕はあった。


「いやぁ、この門も通るのが最後だと思いと感慨深いね」

「だなぁ。俺にとっちゃこの門を通る事自体が少なかったけどな」

「だったらクイナにとってはこんな門よりも自分の研究室のほうが感慨深く感じるんじゃないの?」

「そうだろうなぁ」


そういった中身のない会話を繰り広げる。

最近はこういった会話も全くもって悪くないんじゃないかと思い始めてきた。それこそ数年前の怠惰真っ盛りの俺からみたら想像もつかなかっただろう。


そんな中、俺らは卒業式までの間に色々な教室を巡ることにした。

あと流石に廊下は広いと言えど土の重さで床が突き抜ける可能性があるのでゴーレムはちゃんと土に戻してから校舎の中へと足を踏み入れた。


「なぁ、この場所覚えてるか?」


そしてある場所で足を止めた。

この場所は俺ら『五色の賢者』にとっても色々と懐かしい。


「もちろん覚えてるよ。この場所は―――」


と言いかけたその瞬間、


唐突に口を何かで塞がれた。


「〜〜〜!?」


バタバタとした様子で非常にジダは慌てふためいているが、俺はこの何かにかなりの既視感を覚えていた。


そうしていると、今度は思いっきり何かに膝カックンされた。その拍子に思わず尻もちをつく……が不思議と痛みは感じない。下を見てみると、そこには見慣れた草で編まれた網があった。


「(この一連のなぜか異常に手慣れている手法は……)」


と思ってると、ジダの方もそれを見て何かを感じ取ったのかキョロキョロと辺りを見渡し始めた。


そしてしばらくすると、ある人物が廊下の奥から音もなく姿を現した。

あの身長が長くてスタイルの良い魅力的なシルエットは、


「しっ!静かに。今凄くいいところなんだから……っ!」


我らが『五色の賢者』の一人にして草の賢者、クレア=ヨルグだ。





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