第1話:怠惰の賢者.前編
ほんの十数年前。とある場所で五人の魔法の天才が生まれた。
彼らは魔法の五大属性と呼ばれている、炎、水、風、草、土を各々が得意としており、それにちなんでか、彼らは総称して『五色の賢者』と言われている。
一人目は炎魔法の天才。
名を『ジダ=ジオン』
その異名のの通り炎魔法を得意としており熱い性格。魔物の退治の面で主に誉れある活躍を見せている。物作りが得意であり、使用する武器は自作が殆ど。
二人目は水魔法の天才。
名を『ウェルナルド=ダンダリオン』
彼は常に冷静沈着であり慎重なため魔法の手数がとても多く、水魔法の派生である氷魔法だったりそれ以外の五大属性をも習得してる。
三人目は風魔法の天才。
名を『アンナ=ニカ』
全体的にほんわかしている雰囲気を纏っており、男女問わず誰にでも分け隔てなく接する。しかし、扱う魔法はまぁ凄くて、風魔法を得意とするだけあって気候の変動なんかも、まるで物を拾うかのごとく平然とやってのける。
四人目は草魔法の天才。
名を『クレア=ヨルグ』
正直彼女がいっちゃんヤバい。何がヤバいって扱う魔法が人の範疇じゃない。別に本人の性格は良いし多少度を越したお節介というステータスを持つものの、その自分の所有する魔法の意味を理解しているからそれほど問題ではないのだ。
彼女は世界で一人の『蘇生魔法』の使い手だ。死んだ直後という条件はついているものの、死した者を魔法を使って蘇らせているのだからそれだけでヤバい。
……そして、五人目がこの俺。
土の賢者……もしくは『怠惰の賢者』と呼ばれている『クイナ=エシハ』である。
「起きろぉ、クイナ!!今日は魔導学園の卒業式だということを忘れたの!?」
朝から響く怒声。
その莫大な声量に自宅の二階で優雅にお茶を飲んでいた俺は土をピースの形にして彼女の前に隆起させることでそれに反応してみせる。
すると、どうもそれが気に入らなかったのか、
「せめてアタシの前に……」
その瞬間、彼女に莫大な量の魔力が収束して―――
「出てから返事しろー!!」
爆音が響く。
「お、マジか!!」
と呑気な声を出してはいるが、俺の自宅はその衝撃により倒壊しそうになっていた。
「まさか俺の魔力から作った土が壊されるとは……いやはやジダもどれだけ強くなれば気が済むのやら……ってヤベ!」
クイナのそんな呆れ声と共に彼の自宅は倒壊する。その際に近くにあった紙の束を急いで懐に入れ込んだ。
因みに彼の自宅は王都から少し離れた場所に位置しているため、周りへの被害は全く無い。強いて言うならバラけた土の破片が邪魔になるだけだろう。
現在進行系で崩れた土の下敷きになりそうなところを、クイナは自分の上方向の土をどかして足場は再度魔力を使って土を生成。そしてその土を浮かすことで難を逃れる。
「あぁ、俺のそこそこ完成度の高かったマイホームが……」
跡形もなく土塊となり、日光百パーセントの吹き抜けとなってしまった。
だが俺もあの態度は流石になかったと思っている。折角呼んできてやったのに、返事すら返ってこないのはまぁ失礼極まりないだろう。親しき仲にも礼儀あり、という言葉があるらしいがまさにそれだ。
……だが、それはそれだ。
「おい、ジダ!お前いつから俺の土を壊せるようになったんだよ!前はヒビ入るのが関の山だったじゃねぇか!」
下で満足げなジダに向かって叫ぶ。
別に俺は家が全壊した件については全くもって怒ってない。寧ろ俺のほぼ全力で作った家を完全にぶっ壊せたことに関心する
彼女は『炎の賢者』だ。根本的に炎と土とじゃ相性が悪い。彼女の戦闘スタイルの一つであるガントレットを付けた拳を火で加速させて殴ったとしても、そのガントレットが俺の本気の土と彼女の本気の加速に耐えられない。
不思議に思い、足場の土の魔力を解除してジダの真正面に降り立つとあることに気がついた。
「あ、それ前にウェルナルドにあげた鉱石じゃんか。俺の中の『世界一硬い鉱石ランキング』の一位を更新したやつ」
「フッフッフッ、これ凄いでしょ。新作のこれはアタシの八十パーセントのパンチに耐えられるんだ〜。ウェルナルドとの『打倒、クイナの壁』を目指しての合作。凄いだろ!」
という風に、まるで親から貰ったおもちゃを自慢する子供のようにそのガントレットを見せてきた。
恐らく彼女の特技の一つである『鍛冶』で叩き上げたのだろう。そしてウェルナルドとの合作、というのは彼女の炎に耐えられる水を彼が作ったということか。
目の前にズイッと出された金色のガントレットをまじまじと眺める。
「なるほどなぁ。いや、しかしでもまだ八十パーセントか。道のりは長いな」
「そうなんだよ。ここまで条件を揃えたら流石に完成するかなって思ったらこれが限界だった」
その時の気持ちを思い出したのか明らかに落胆の声をあげる。
彼女の鍛冶に対する情熱は凄まじく、俺の父さんへ誕生日用のプレゼントとしてペーパーナイフを頼んでみたところ、なんと完成するのに二月かかってしまった。そのせいで誕生日の贈り物のくせに誕生日を過ぎてからプレゼントということが起きてしまったが、それだけ本気に取り組んでいるということだ。
その落胆している様子を見て忘れかけていたが、
「まぁその試し打ちとして俺の家を的にするのは……まぁ分からなくもない。それ以前に俺を起こそうとしていたのは分かる。ただ……」
そう言って俺はポケットの中に入れてあった懐中時計を見せる。
「まだ六時。卒業式まで一時間半もある。仮に俺がまだこの時間まで寝てたとしても流石に一時間弱あれば着替えて朝食食べて歩いて学園まで行けるし。ついでに登校時間に魔法を使ったら俺とお前なら一瞬だろ」
「うっ」
単純な正論に言葉が詰まっている様子。
「そ、それはクイナが怠惰だから朝早くと思って……」
暫くしてひねり出したその言い訳にため息で返答する。
「あのなぁ……、お前はこの十数年間一緒に過ごしてきて俺がこんな大事な日まで『めんどくせぇ』とか言ってサボりだすようなアホに見えるか?そこまで人が出来てないわけじゃねぇよ」
「うぅ……」
意気消沈と言った様子。
真っ直ぐで自分を信じて行動することはジダの美点だが、時としてそれは大きな汚点ともなり得てしまう。
……こんなふうに。
だが俺もこんな大事な日じゃなきゃ寸前まで寝ている自信はある。なんなら毎日学園に通っている時、魔法の研究と称して基本的には学園には泊まりきりだからだ。
もっと言えば昨日の学園から出る寸前まで学園でやり過ごそうかと思っていたくらいだ。
……まぁそんなの言ってしまったらジダから「健康に悪い」だの色々と小言を言われそうなので勿論自分から面倒なことに促すような真似はしない。
「ま、別に早めに行ったって損はないし。それに最後の研究課題の提出まだ終わってないんだよな」
「え、ヤバくない?それ」
「いんや、研究課題自体はもう既に終わらせてるし、レポートも昨日の夜の寝る寸前に終わった。だから後はこのレポートを出すだけだ」
そう言って懐からぐしゃぐしゃに折りたたまれた数十枚の紙を取り出す。
「…………」
「……お前が朝にあんなことしなきゃこの紙もこんな悲惨な運命を辿ることもなかったよ」
「ほんとごめんなさい」
いやあの時はマジで焦った。
「いや別に良いんだよ?
アレだけは何が起きてもあの魔法だけは勘弁して欲しい。
……そう、あの『土硝子化事件』の二の舞いになってはいけない……!
「流石のアタシもこんな場所で
と、ふてくされた顔で呟く。
逆を言えば、誰にも真似できない魔法を持ってこそ、賢者と言えるというわけだ。
その
「どうだか。あんな気軽に創り出しちゃったんだからお前はその魔法の価値観をどうも理解してないような気がする」
実際、以前ジダはこの魔法を当たり前のように普通に魔法を使うように発動させたことがある。その時は俺ら『五色の賢者』全員が揃っていたのと、学園長もその場にいたおかげで難を逃れたが……あの事件はもう二度と起こしてはならない……!
「あの魔法は物質全てを零になるまで燃やし尽くす魔法。その名にも付いている通り『地獄の炎』なんだからあの時みたいに―――」
「も〜分かってるよ!」
俺の説教が効いたのか、何も言わずにその場から逃げるように歩き始めた。
「(今度は説教食らった子供みたいな奴だな)」
もうすぐ十八だというのになんと子供らしいことか。
その背中を苦笑いしながら追いかける。
「悪かったよ。流石に俺もしつこすぎた」
「ホントだよ。いつも面倒くさい面倒くさい言ってるくせに変なところでお節介なんだから。これ以上お節介はクレアに匹敵するよ」
「いや悪かったって」
あのクレアと比較されるくらいだから、相当しつこかったのだろう。
要反省だ。
「あ、そうだ。それじゃあそのお詫びとして俺の唯一の魔法オリジナルマジックを見せてやるよ。これのやつ」
そう言って再度手元にあった紙をヒラヒラさせる。
まだ誰にも見せたことのない魔法だから、これが初下しということだ。
「確かに気になる。私達の中で最後まで完成してなかったのクシナだけだし」
「時間をかけるだけの甲斐はあった研究内容だったぜ」
事実、あまり魔法の術式自体を学ぶことが好きじゃない(面倒くさい)ため、魔力の操作を徹底的に極めた結果のこの『賢者』の称号なのだが、これはそんな俺でもわざわざ魔術式にするほどの成果だ。
……さて、人に見せるのは初めてだけど、いっちょやる気を出すとしますか。
そう小さく心のなかで意気込んで一言呟く。
「“
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