デス・トレイン

しばらく休むと2人はある程度体力を回復した。本格的な回復には程遠いが、いつまでも休んではいられない。


「休むのはこれくらいにしておこうか」

 嵯峨野玲子が言った。

「よし」

 にゅうめんマンは同意し、敵に向かって身構えた。一方、嵯峨野玲子は、さっきやったのと同じように精神を集中して霊力を高めた。


「奥義 デス・トレイン!」

 戦闘を再開するやいなや、嵯峨野玲子は第2の奥義を繰り出した。相変わらずのアグレッシブさだ。


《また奥義か。次はどんな容赦ない攻撃が飛んで来るのか……》

 名前から判断する限り、それほど楽しい技でなさそうだ。にゅうめんマンは不安になった。


次の瞬間、にゅうめんマンの目の前に、電車車両をかたどった霊力のかたまりが現れた。前の奥義、ファントム・サブウェイと似ているが、今回の電車ははじめから地上に出現し、その場に静止していた。


霊力の電車は、出現と同時に、にゅうめんマンの正面に位置する自動扉を開き、すごい吸引力でにゅうめんマンを吸い込もうとした。

《何なんだ、この電車は。乗客を無理やり吸い込むとは、公共交通機関にあるまじき運行形態だ!》


にゅうめんマンは吸い込まれないようにその場を離れようとしたが、嵯峨野玲子に蹴飛ばされて逃げ損ね、あえなく車中に吸い込まれた。にゅうめんマンの体が車内に転がり込むと、デス・トレインの無情な扉が閉まった。他の扉と窓もすべて隙間なく閉まっている。


そうして、にゅうめんマンを捕獲すると、車外にいる嵯峨野玲子が、角張ったマイクらしきものを右手に構えた。嵯峨野玲子がそれに向かって話しかけると車内アナウンスが流れた。


「この電車は、京都御苑経由、あの世行き、あの世行きです。5分後に乗客もろとも爆発四散します。脱出はできません。人生最後の一時いっときをごゆるりとお楽しみください――」


いまだかつて、こんな悪趣味な車内放送があっただろうか。いや、ない(反語)。


《5分で爆発だと?あの守護神、無茶苦茶やりおる。ほんとは守護神じゃなくて破壊神か何かじゃないのか》

 電車から脱出するため、にゅうめんマンは車両の窓ガラスを強く蹴飛ばしたが、どの窓も固くて割れなかった。


「それ防弾ガラスやから殴っても割れへんで」

 座席で競馬新聞を読んでいたおっさんが言った。にゅうめんマンを除く唯一の乗客だ。


悪趣味な電車だと思いつつも、霊力で作り上げた電車に自らアナウンスを流し、乗客まで配置する嵯峨野玲子の芸の細かさに、にゅうめんマンは感心せずにはいられなかった。何の意味があるのかは分からないが。


それにしても、もうちょっと自分のイメージに合うように、若いOLとかそういう乗客を乗せればいいのに、なぜ競馬新聞を読むおっさんを選んだのだろう。しぶいチョイスと言わざるを得ない。はなやかな容貌ようぼうに反して、嵯峨野玲子の中身はおっさんなのかもしれない。


それはさておき、にゅうめんマンはおっさんに疑問をぶつけた。

「なんで電車に防弾ガラスがはまってるんですか」

「銃弾をはじくためとちゃうか」

「誰が銃撃するんですか。というか、霊力で作ったガラスに防弾も普通のガラスもないじゃないですか」

「わしにきかれたかて知らんがな」


こんなおっさんと問答していても仕方がない。今すべきことは脱出方法を考えることだ。なぜすぐに爆発しないのか知らないが(準備時間?)、幸いまだ4分ばかり時間がある。


にゅうめんマンは座席に腰を下ろし、車両を抜け出すための考えを巡らせた。

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