みんなの夢
首をぎゅうぎゅう絞められながらも激しく抵抗する敵の体力は、にゅうめんマンを驚かせた。やはり普通の人間ではない。
とはいえ嵯峨野玲子が圧倒的に不利であることは疑いがなかった。苦しそうな顔に脂汗をにじませてどうにか抵抗を続けているが、このままでは遠からず負けるだろう。
しかし、まだ諦めていない嵯峨野玲子は、スリーパーホールドをきめられたまま、最大限まで霊力を高めた。青白いオーラが体の表面からゆらゆらと立ち昇る。そうして高めた霊力を右手の拳に集中して、嵯峨野玲子は思い切りにゅうめんマンの脇腹を殴った。
「ぐっっっ!!」
このパンチは脇腹がちぎれるんじゃないかと思うくらい痛かった。かろうじて技をかけ続けることはできたものの、にゅうめんマンは心がくじけそうになった。
《ちくしょう。俺はただ、にゅうめんを普及させたいだけなのに、なんでこんな目にあわなきゃならないんだ》
あんまり痛いので、にゅうめんマンは戦い続けるのに嫌気がさしてきた。――ここで戦うことをやめれば、『万休にゅうめん』のことを諦めなければならず、すごく残念ではある。だが、このような状況ではそれも仕方がないのかもしれない。
しかしここで、にゅうめんマンは大切な事を思い出した。
《いいや。これくらいでくじけてはいけない。俺は自分だけのために戦っているんじゃない。みんなの夢『万休にゅうめん』を実現するため、みんなの笑顔のために戦っているんだ!》
心の中でそのような茶番を演じることにより、にゅうめんマンは戦う気力を取り戻した。すると、いつもの前向きな気持ちも戻って来た。
《今や最大の危機は乗り越えた。嵯峨野玲子は見るからに苦しそうだし、多分、今のと同じような攻撃をするパワーはもう残ってはいないだろう。――勝ったな》
だが、にゅうめんマンはメトロの死神のファイティング・スピリットを甘く見ていた。確かに敵は急速に弱っていたが体が全然動かないというほどではない。
嵯峨野玲子は、これでダメならもう終わりだというありったけの気合を込めて、後ろ向きに、
にゅうめんマンはこの頭突きであごを強打され、頭がくらくらして力が入らなくなり、とうとう腕の力を緩めた。そうして、嵯峨野玲子はきわどい所でスリーパーホールドから脱出したが、こちらも立っているのが精一杯というふらふらの状態だった。
2人は暗黙の申し合わせにより数分間の休憩をとった。
「……ようやく分かったよ」
しばらくして呼吸が整ったところで嵯峨野玲子が言った。
「何が」
「自分が戦っているのが、おかしな服を着た単なる変人ではないということが」
「今までそんなふうに思いながら戦っていたのか!?」
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