ニューメニティ
にゅうめんマンが黙って考えていると、そばに座っていた例のおっさんが話しかけた。
「にいちゃん、まだ若いのに、数分後に爆発四散するこんな電車に乗るなんて、なんか悩みでもあるんか」
「無理やりこの電車に乗せられたことが僕の唯一の悩みです」
「そら
「あなたも人事じゃありませんよ。
「わしは場外馬券売り場やから」
「場外馬券売り場にも行けませんよ!」
「さよか。とにかく、にいちゃんも気ぃつけや」
「はあ。どうも」
爆発四散する車両に閉じ込められて、どう気をつけろというのか。のんきなおっさんだ。このおっさんは嵯峨野玲子の奥義の一部だから、電車が爆発しても別に困らないのかもしれない。
だが、電車が爆発すれば、にゅうめんマンは困ったことになる。いくら強いとはいえ不死身ではない。何とかここから抜け出さなければならない。
《窓から脱出できないとすると……扉かな》
とにゅうめんマンは考えた。それで、両開きの扉の閉じ目に指をかけて力を込め、左右にこじ開けようとした。残念ながら扉は固く閉まっていて開かなかったが、わずかに手ごたえがあった気がした。そこで、何とか開けることができないか、もう一度本気で試してみることにした。にゅうめんマンは扉の前に立ち、体内の「ニューメニティ」を高めるために精神を統一した。
ニューメニティ (neumenity) はある種の特別なエネルギーだ。広く宇宙に分布するが、にゅうめん中に特に高濃度で存在し、微量ながら人体にも含まれる。にゅうめんマンは、常識的には考えられない高濃度のニューメニティを体内に保持する、
《燃え上れ!俺の心のニューメニティ!!》
するとどうだろう。にゅうめんマンの体のニューメニティレベルがみるみる上昇した!科学の世界では、こうしてニューメニティを高めることで、気分を盛り上げたりする効果があるかもしれないと言われている。
「ぬおおぉぉぉ!!」
にゅうめんマンが全力で扉を左右に引くと、とんでもない怪力に抗し切れず、ゆっくりとドアが開いた。こうして、にゅうめんマンは車両を脱出し、電車もろとも爆破される運命をまぬがれたのだった。
電車から歩み出たにゅうめんマンは一息つくと不敵な笑みを浮かべた。
「正義の味方を爆殺しようとは、ひどい不良守護神だよ」
「力ずくで私の電車から抜け出すなんて、とんでもない馬鹿力だな、にいちゃん……じゃなかった、にゅうめんマン」
脱出されたことに少し面食らったようだったが、嵯峨野玲子はすぐに戦闘態勢に切り替えて、早速にゅうめんマンに攻撃をしかけた。右足のミドルキックだ。
だが、これはにゅうめんマンにたやすく受け止められてしまった。嵯峨野玲子の蹴りには先ほどのような切れがなく、足に乗せる霊力も弱々しい。
敵のスタミナが切れたのをにゅうめんマンは見て取った。複数の大技を放ち、長々と首を絞めつけられて必死で抵抗した後だ。霊力や体力を消耗するのも当然だろう。にゅうめんマンも大きなダメージを受けてコンディションはかなり悪かったが、それでも相手より優勢だと思われた。
嵯峨野玲子は再びにゅうめんマンに蹴りを放った。しかし、にゅうめんマンはこれも難なく見切り、飛んでくる足首を捕まえると
「それっ」
と、敵の体を真上に放り投げた。
投げ上げられた嵯峨野玲子はうまく着地できるように体勢を立て直そうとした。ところが、着地を待たずに、にゅうめんマンは落ちて来る相手の体を空中でとらえ、あおむけにして両肩の上にかついだ。
「アルゼンチン・バックブリーカーだ!耐えられるもんなら耐えてみろ」
にゅうめんマンは、肩の上の敵の体を反らして痛めつけた。
「うう……」
嵯峨野玲子はやはり抵抗したが、まともにあらがう力はもう残っていなかった。スリーパーホールドと違って、この体勢では相手をまともに殴ることもできない。
「その状態では手も足も出まい。爆殺されないだけありがたいと思え」
にゅうめんマンは締めつけを強めた。嵯峨野玲子は技の苦しさに耐えかね、もはや自分に勝ち目がないことを悟った。
「……まいった」
かすれた声で嵯峨野玲子は降参を宣言した。負けを認めた敵の体を、にゅうめんマンは地面に下ろした。
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