ファントム・サブウェイ

というわけで、京都メトロの守護神とにゅうめんの守護者は決闘することになった。2人ともなるべく一般人に迷惑をかけたくなかったので、1駅先にある京都御苑ぎょえんという公園へ移動して勝負することにした。京都御苑は、砂利敷きの大きな道、緑地、御所などからなる広大な公園で、端から端まで歩くのに16分くらいかかる。とにかく広いおかげでいているし戦うにはちょうどいい。


御苑に到着すると、5月の日が注ぐ砂利の上で、2人は向かい合ってファイティングポーズをとった。ちなみに、嵯峨野玲子は半袖ブラウス、ズボン、ぺたんこの靴という服装なので、そのままでも一応戦える。にゅうめんマンはいつもどおりスピードスケートのスーツのような黒い服だ。


「さあ、どっからでもかかって来い」

 にゅうめんマンは敵に言った。


「ではお言葉に甘えて」

 嵯峨野玲子は精神を集中して霊力を高め、最初の攻撃を繰り出した。

奥義おうぎ ファントム・サブウェイ!」


《しょっぱなから奥義だと!地下鉄の守護神のくせに、新幹線なみの飛ばしっぷりじゃないか》

 にゅうめんマンは思った。


この奥義、すぐには何も起こらなかったので、どう身構えていいか分からず、にゅうめんマンはまごまごした。すると、地面の下から大きな音が聞こえて来て、電車車両のような実体を持つ霊力のかたまりが、すごい勢いで地下から飛び出した。


「ぐあぁっ!」

 にゅうめんマンは霊力の電車の直撃を受けて激しく突き飛ばされ、地面に倒れた。ファントム・サブウェイは、地面をすり抜けつつ人体を突き飛ばす熟練じゅくれんの技だ。


「ふふん。たわいもない」

 少し離れた所から嵯峨野玲子が倒れたにゅうめんマンを見下ろした。だが、にゅうめんマンも霊撃1発でのされるほどやわではない。体が痛むのをこらえてゆっくり立ち上がった。


立ち上がるとは生意気な、と峨野玲子は跳びりを放った。にゅうめんマンは敵の足の動きをとらえて片手で受け止め、そのまま足をつかんで相手の体を遠くへ放り投げた。嵯峨野玲子は空中で体勢を整えて地面に着地した。


「思ったより打たれ強いな、にゅうめんマン」

「まあね」

「タフなお前に次はこの技をくれてやる。トレイン・チャージだ!」

 嵯峨野玲子はにゅうめんマンに向かって肩から激しく突進した。霊力をこめた体当たりだ。


《さっきは地面から電車が飛び出て来たから不意を突かれたが、体当たりならどうってことはないぞ》


にゅうめんマンは、全力で突っ込んで来る嵯峨野玲子を十分に引きつけてから、ひらりと横に交わした。……と思ったら嵯峨野玲子がそれに合わせて急角度で曲がった。結局、にゅうめんマンは体当たりをくらって、またしても派手に突き飛ばされた。砂利の上に打ち倒されたにゅうめんマンは、2回続けて大技を受けたダメージにたえなければならなかった。


「うぐぐ……卑怯ひきょうだぞ。今の技は『トレイン・チャージ』というんだろ。電車がそんな急角度で曲がるわけないじゃないか」

 にゅうめんマンは抗議した。

「電車が曲がって何が悪い。油断をするのがいけないんだ」

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