昼下がりのメトロ
女怪人はこれまでに数回現れ、決まって万休電鉄の
にゅうめんマンはこの駅のそばで2、3日待機したが、その間怪人は姿を見せなかった。段々退屈になってきたところで、世界遺産に指定されている
醍醐寺へは京都メトロの醍醐駅から徒歩で行ける。にゅうめんマンは四条駅から京都メトロに乗った。
* * *
「本日は京都メトロ東西線にご乗車いただきありがとうございます。この電車は六地蔵行きです。発車までしばらくおまちください――」
車内アナウンスを聞きながら、京都メトロの
歳は20代くらい。白無地の半袖ブラウスに
《こんなにチャーミングな女の人がわざわざ俺の隣に座るとは、ようやく世間が、俺の圧倒的魅力に気づき始めたようだ》
にゅうめんマンは思った。冷静に考えると相当不自然な出来事だが、ポジティブシンキングに
《気づくのが10年ばかり遅かった気もするが、まあいいだろう。いつまでも真実に気づかないよりは、多少遅くても、それに気づく方がずっといいのだから》
にゅうめんマンがそのような誤った考えにひたっていると、女が思いのほかぞんざいな口調で話しかけた。
「あんたがにゅうめんマン?」
「Yes」
にゅうめんマンはもったいぶって答えた。相手はにゅうめんマンのことを知っているようだし、大胆に話しかけてくるところからして、熱心なファンと見てよさそうだ。
「やっぱりね。黒ずくめで
「メトロの死神、嵯峨野玲子か!」
にゅうめんマンは驚いた。メトロの死神はにゅうめんマンの熱心なファンだったのか。
「私は死神じゃない。京都メトロの守護神だ」
嵯峨野玲子は抗議した。
「肩書は何だっていいさ。それはともかく、1つききたいことがある。最近、万休電鉄で営業妨害行為をしているというのはあなたか」
「そうだ」
騒ぎを起こしている怪人はやはり嵯峨野玲子だった。
「万休電鉄はひどく迷惑している。今後そんなことをするのは一切やめてもらいたい」
「その事を話したいと思って声をかけたんだ。あんたもその件で、私がいる京都メトロへ乗り込んで来たの?」
「いいや。俺は京都メトロ沿線の店へにゅうめんを食べに行くところだ」
「そうだったのか。――いつも京都メトロをご利用いただき、ありがとうございます」
「どういたしまして」
改まった挨拶を交わした後で嵯峨野玲子は言った。
「万休電鉄への営業妨害は、こちらの条件をのんでくれたらすぐにやめる」
「条件とは何だ」
「『万休そば』を『万休にゅうめん』に改名しないこと」
「えっ」
万休そばの改名に
「つまりお前は、俺と万休電鉄の契約を知っていて、万休そばの改名を
「そうだ」
「なんで改名に反対するんだ」
「詳しい話はしたくないけど、それを望まない者もいるということだ」
「なるほどね……だけど、『万休にゅうめん』への改名は俺の希望であり、(多分)沿線住民の希望であり、万休電鉄も内心、改名の大義名分ができるのを待っているはずだ。その条件を受け入れるわけにはいかないな」
「どうしても?」
「うん」
「メトロの乗客に暴力をふるうのは気が進まないけど、言うとおりにしないなら痛い目にあってもらうよ」
嵯峨野玲子は美しい顔をすごませて、にゅうめんマンをにらみつけた。
「痛みを恐れてヒーローが
「
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