暴力は何も生まない

何キロも走り続けて河川敷の遊歩道が途切れると、2人は山へ伸びる車道に上がってさらに走った。


天狗は徐々に疲れてきた。足には自信があったが、どれだけ走ってもにゅうめんマンを引き離すことができない。

「こいつの脚はどうなってるんだ。化け物か」

 自分のことを棚に上げて、天狗は思った。


一方、にゅうめんマンは天狗が疲れ始めたのを感じ取り、勝負をかけることにした。

「ここで一気に追いついてやる」

 と気合を込め、全速力で走って距離を縮めた。当然天狗も必死で逃げたが、背中に生える翼の端っこを、とうとうにゅうめんマンに捕まえられてしまった。


「ちくしょう。煮るなり焼くなり好きにしろ」

疲れ切った天狗は観念して車道の脇に倒れこんだ。にゅうめんマンは、ぼとぼと汗を流しつつ天狗の体を歩道に運び上げた。


「はあはあ……。手こずらせてくれたな」

 にゅうめんマンはポケットから縄を取り出して天狗の両手を縛りにかかった。

「何のために万休ばんきゅう電鉄の営業を妨害をしていたんだ。言え」

 手を縛りつつ、にゅうめんマンは問いただした。天狗はしばらく呼吸を整えてから語り始めた。


「霊山電鉄に雇われたんだ」

「霊山電鉄に?なんで霊山電鉄が万休電鉄に営業妨害をするんだ」

「武力で京都の鉄道を支配するためだそうだ。手始めに、街の真ん中を走る大手私鉄の万休電鉄を攻撃することにしたらしい」

「何を考えてるんだ。武力で鉄道を支配するなんて、どうやったらそんな世紀末的発想が出て来るんだよ」

「俺も詳しいことは知らないが、社長の独断でそう決まったそうだ」

「おろかな社長だ。暴力は何も生まないというのに……」


ここで、天狗が急に身をよじって山の方へ逃れようとしたので、にゅうめんマンは思い切り頭をひっぱたいておとなしくさせた。


「いてててて……。加減ってものを知らないのか。脳みそが飛び出てバカになったらどうするんだ」

「心配するな。元からそんなに賢くないだろ」


にゅうめんマンは、天狗が逃げないよう手だけでなく両足も念入りに縛り、天狗の体をかついで山道を下り、万休電鉄に身柄を引き渡した。


   *   *   *


事件は解決した。これで「万休ばんきゅうそば」は「万休ばんきゅうにゅうめん」に改名され、にゅうめんを愛する沿線の住民も大喜びするだろう。――とにゅうめんマンは思った。


だが、現実はそう甘くなかった。万休電鉄への営業妨害はこれだけでは終わらなかったのだ。問題を完全に解決するまで、万休そばの改名はない。


そのことについて話し合うため、にゅうめんマンは再び万休電鉄の本社へ招かれた。


   *   *   *


「烏天狗の身柄は確かに引き渡しましたよね。それなのに、営業妨害が続いているというのはどういうことですか」

 赤いカーペットを敷いた応接室で、にゅうめんマンは、テーブルをはさんで向かいに座る万休電鉄の重役にたずねた。


「それがですね、新たなる怪人が現れて、京都市内にあるうちの駅で、またしても騒ぎを起こしているんです」

「今度はどんな怪人ですか。鳥面とりづらでなければ、猫面ねこづらとか亀面かめづらとかそんなところですか」

 めんどうくさそうに、にゅうめんマンは言った。

「いいえ。今回はきれいな女の人だそうですよ」

 重役は答えた。


「分かりました。それでは今すぐ京都へ向けて出発します。すべて僕に任せてください」

「話を最後まで聞いてから出発していただけませんか」

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