走れ、にゅうめんマン

追われる天狗は、駅の目の前を流れる鴨川の遊歩道に駆け下り、北へ向かって猛烈な勢いで逃走した。その姿はもはや烏天狗ではなくダチョウ天狗だった。


だが、にゅうめんマンも遅れず後をついていく。ものすごいスピードで走る鳥面の怪人を、これまたすごいスピードで走る覆面の怪人が追いかけるのを見て、川辺の人たちはあっけにとられた。


「止まれ、天狗!」

 にゅうめんマンはどなった。

「止まれと言われて誰が止まるか。このにゅうめん野郎!」

「それはほめ言葉だぞ!」


川岸に等間隔で座るカップルたちを邪魔することにさわやかな満足感を覚えつつ、青春の汗を流して、にゅうめんマンは走りまくった。天狗も青春の汗を流して――と言いたいところだが、鳥類が汗をかかないことを考えると、烏天狗に青春の汗を流す能力があるのかどうかは定かでなく、今後の研究がまたれる。


京都市民のいこいの場である鴨川河川敷には、楽器を演奏する人、ダンスの練習をする学生、上半身裸で寝そべるおじさんなど色々な人がいた。その中にはチアリーディングの練習をする女子大生の集団もいて、天狗たちが自分たちの方へ一生懸命に走って来るのを見ると

「がんばって~」

 とはなやかな声援を送った。


「今の声援に応えるためにも、すぐにお前を捕まえてやる。覚悟しろ」

 にゅうめんマンは天狗に向かって再びどなった。

「何を言ってる。チアリーダーたちは俺を応援したんだ。よく見ろオタンチン」

 天狗は出せる限りの大声で言い返した。


「そんなわけあるか。鳥面の怪人を誰が応援するんだ」

「鳥はかわいいだろうが」

「鳥はかわいいかもしれんが、お前はかわいくもなんともないぞ」

「俺のキュートさが分からんとは。もう怒った!」

 怒りを晴らすためなのか、天狗は走ったまま、得意の大風を巻き起こした。


「くっ」

 激しい向かい風を受けて、にゅうめんマンの走る速度が急に遅くなった。これはまずいと思いきや、天狗も風のせいでスピードが落ちたので、特に天狗が有利になったわけではなかった。


「そっちが神通力を使うなら、こっちにも考えがある!」

「おもしろい。何か知らんができるもんならやってみろ」

「よぉし」

 にゅうめんマンは足下から石ころを拾い上げた。


「にゅうめんマン奥義 天狗滅殺リバーサイド投石アタック!」

 にゅうめんマンは天狗めがけて後ろから小石を投げつけた。


「いたっ」

 小石は天狗の後頭部にぶつかった。天狗は少し痛がったが、にゅうめんマンの奥義をもってしても天狗の逃走を止めることはできなかった。

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