窮地の天狗

にゅうめんマンたちのかたわらでは、万休電鉄の駅員2人が戦いを見守っていたが、激しい戦闘を見ているうちに気分が盛り上がってきて、ついに実況と解説を始めた。


「いやあ。想像以上のすごい戦いですね」

「はい。まさに命がけの戦いです」

「しかしここで、にゅうめんマンのヘッドロックがきまりました。このまま天狗が敗れて試合は終わってしまうのか。どうでしょう、解説の江木印さん」

「そうですね。にゅうめんマンは細めの体型からは想像できない、とんでもない怪力の持ち主ですから、普通に考えたら、天狗がヘッドロックから逃れるのは無理でしょう」

「やはりそうですか」


駅員たちのことは放っておいて、にゅうめんマンは天狗の頭を腕で締め上げ降伏を迫った。

「どうだ。もうどうしようもあるまい。まいったと言え」

「うぐぐ……」


だが、天狗も相当な実力者であって簡単には負けを認めない。強力なヘッドロックを受けながらも、ありったけの神通力を発揮して、さっき以上のすさまじい大風を吹かせた。


「おおーっと!大変なことが起こりました!!」

 駅員の1人が叫んだ。

「どうしましたか。実況の院絵木さん」

「突風を受けて、私のかぶっていた制服の帽子が、線路の奥の方へ吹き飛ばされてしまいました。帽子をなくしたとなっては、上司に怒られることは間違いありません!」

「あなたの帽子のことはいいので、にゅうめんマンたちの戦闘を実況してもらえませんか」


一方、にゅうめんマンは大風を受けて、技をかけたまま、天狗ともどもホーム上をころころと転がり始めた。


「おおーっと!大変なことが起こりました!!」

 駅員がまた叫んだ。

「どうしましたか。実況の院絵木さん」

「突風を受けて、私のかぶっていたかつらが、線路の奥の方へ吹き飛ばされてしまいました。高いかつらをなくしたとなっては、妻に怒られることは間違いありません!」

「あなたの家庭の事情はいいので、にゅうめんマンたちの戦闘を実況してもらえませんか」


ホーム上を転がっていたにゅうめんマンは、運悪く、近くに立っていた大きな柱に頭をぶつけた。このとき腕の締め付けが緩んだので、天狗はヘッドロックを解くことができた。


「ここで天狗、得意の神通力を駆使してヘッドロックから抜け出したぁ!」

 エキサイトした実況の駅員が言った。解説もこれに応えた。

「まさか、にゅうめんマンのヘッドロックを解けるとは思いませんでした。腕力だけで試合は決まらないんですね」

「そうですね。私はこないだあの天狗に殴られたので、できれば、にゅうめんマンに勝ってもらいたいですけどね」

「私もさっき殴られました。にゅうめんマンには、あのいまいましい烏天狗をぜひともらしめてほしいところです」


天狗は駅員たちをひっぱたいて黙らせ、にゅうめんマンの方へ向き直った。

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