生きる喜び
跳び蹴りをかわされた天狗は、床に着地するやいなや素早くにゅうめんマンに詰め寄り、今度はハイキックをしかけた。にゅうめんマンはこれも片腕で防いだ。
「お前のキックはその程度か」
にゅうめんマンは反撃のストレートを放ったが天狗によけられてしまった。それから2人でにらみ合い、それぞれ5発ばかりパンチを打ち合ったが、両者ともバカみたいに素早いので、よけられたり受け止められたりして、なかなか相手に届かない。
これではらちが明かないと天狗は攻め方を変えた。天狗が強く念じると、
「天狗の神通力か。やるなあ」
とにゅうめんマンは思ったが、感心している場合ではない。細身で体重の軽いにゅうめんマンは猛烈な風にあおられてふらふらした。
風を吹かせたまま、天狗は再び跳び蹴りをしかけた。にゅうめんマンはこれも腕で受け止めたが、大風とキックの勢いを受けて後ろに転倒し、そのままごろごろと転がって、ついには駅のホームへ続く階段を転げ落ちた。
「いててて……」
ホームに転落したにゅうめんマンは頭をさすりつつ上体を起こした。
このとき、大騒ぎが起こっているにもかかわらず、なぜか1台の電車がホームに入って来た(乗客のいない回送電車だった)。天狗は巨大な翼を広げ、階段の上から猛禽のごとくにゅうめんマンに飛びかかり、上半身をぐいっとつかんで、電車のやって来る線路の上に投げ飛ばした。
しかし、階段を転げ落ちたダメージから早くも回復したにゅうめんマンは、空中で体勢を整えて軽やかに着地し、すぐさま背後の壁を蹴って線路から跳び上がり、その勢いで、今度はこちらが天狗に飛びかかった。
天狗は、想像を超える敵の身のこなしに対応し切れなかった。にゅうめんマンは天狗に飛びつくと同時に後ろへ向かって投げ飛ばし、さっきの仕返しとばかりに、同じ線路の法へ落とした。一瞬の出来事だったので、天狗は、とっさに翼を広げて飛び上がることもできなかった。
電車は、線路に落ちた天狗の目の前に迫っていた。天狗は死に物狂いで立ち上がってホーム上に跳び上がり、間一髪で惨事を免れた。
「なあ、にゅうめんマン」
天狗が言った。
「何だ」
「生きているってすばらしいな」
「そうだな」
「――でも、俺と戦い続けていたら命の保証はできないから、早いところ降参した方がいいぞ!」
にゅうめんマンは、ショックから回復し切っていない敵に目にもとまらぬ速さで近づき、首の周りに腕を巻きつけてヘッドロックをきめた。
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