最後の輝き

「食い下がるじゃないか。正直もう勝ったと思ったよ」

 にゅうめんマンは天狗に言った。

「甘いな。勝負はここからだ」


自分に有利な状態で戦うため天狗は次なる神通力を使った。天狗が再度強く念じると、周囲にまばゆい光があふれた。


「まぶしい……!」

 その状態でもにゅうめんマンにはどうにか天狗の姿が見えたが、あまりまぶしくて、相手の姿を正確にとらえることができなくなった。天狗は反撃を開始し、パンチとキックを交えて、敵に息をつくすきを与えない連続攻撃を繰り出した。


「ぐっ」

 不利なコンディションでの容赦ない攻撃を防ぎ切れず、にゅうめんマンは胴体にミドルキックをくらった。相手がひるんだので天狗はここぞとばかりにパンチの猛連打を浴びせた。いくらか疲れているようだが、それでも天狗のパンチは鋭かった。


にゅうめんマンは頭部を守りつつ体を丸めてこれをしのいだ。しかし、このままでは危ない。天狗の猛攻を振り切ってにゅうめんマンは前方に突進し、そのままその場を逃げ出した。天狗はすぐさま後を追った。


「待て!」

「待てと言われて待つ奴があるか。この鳥野郎」

「黙れ。人間野郎!」


にゅうめんマンは駅のホームから階段を駆け上がり、自動改札を飛び越え、長い地下通路へ出て、そこをさらに走り続けた。天狗も遅れずついてゆく。そうして逃げながら、にゅうめんマンは走る速度を少し落とした。その結果、2人の距離は徐々に縮まった。にゅうめんマンがちらりと後ろを振り返ると、足の速い天狗はかなり近くまで迫っていた。


ここで、にゅうめんマンは突然反転して真後ろに突進した。天狗は急に立ち止まることもできず、にゅうめんマンと正面から激しく衝突した。自分の意思で体当たりしたにゅうめんマンは問題なかったが、天狗の方はなすすべもなくはじき飛ばされ、地下通路の床にぶっ倒れた。


「勝負あったな」

「うぐぐぐ……」

 大打撃を受けた烏天狗はよろよろと立ち上がった。どうにか体は動くものの戦う力は残っていない。


「まさか俺が、こんな覆面の変人にやられてしまうとは……」

「口の減らんやつだ。観念してお縄をちょうだいしろ」

「負けは認めよう。だが、ここで捕まるわけにはいかない。山へ帰れば、俺には7つのかわいい子があるのだからな」


天狗は背中の巨大な翼を広げ、天井すれすれに飛び上がって、今度は自分が逃げ出した。当然にゅうめんマンは追いかけたが、うまく捕まえることができなかった。天狗は大きな翼の端を壁にこするようにして地上へ通じる階段を飛び抜け、屋外に脱出し、そばにあったファーストフード店、ミスター・モスドナルド四条烏丸店の屋上に止まった。


「飛ぶなんてずるいぞ。下りて来い!」

 にゅうめんマンは呼ばわった。


「はっはっは。悔しかろう。地をはうことしかできない人間はみじめだな」

「むむむ……」

「いいか、にゅうめんマン。飛ばない豚はただの豚だ。そして、飛ばないにゅうめんは、ただのにゅうめんだ!!」

「……?それはどういう意味だ!」

「すまん。勢いで言っただけで特に意味はない」

「ああそう……」


「さらばだ」

 天狗は北へ飛び去った。

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