【『六ツ輪の轍』 世界観 解説】

【機動装甲騎】


 ゼクス帝国の重工業メーカーであるスクナ社が、帝国海軍の技術廠と共同で陸軍の支援を受けつつ開発した高機動陸戦用の新型兵器。


 全長約4m程の一人乗りの小型の人型兵器であり、高速かつ高機動に戦線への火力の展開を行う事を志向する兵器として設計された。


 やや張り出した特徴的な胸部の上部に戦闘機のキャノピーを転用した操縦席があり、パイロットはここに前部より搭乗し、操縦や射撃等の諸操作を行う。


 脚部に装備された片側3輪計6つの車輪による高速走行が可能な他、二足歩行やジャンプを用いた塹壕や一程度の傾斜地の走破も可能である。


 兵装は、後述する帝国海軍用の “MR2S 74式機動装甲騎” の試作型V型及び初の量産型であるA型の時点で胴体部37㎜機関砲一門及び7.92㎜機関銃一艇、及び頭部に内装された7.92㎜機関銃一艇を標準装備としており、その他は追加のアタッチメントで武装される。


 追加装備としては基本的には装甲騎手持ちの37㎜機関砲が装備されるが、対歩兵制圧用として連発式の擲弾筒が装備される場合もある。脚部側面にも同様の擲弾筒を搭載する事が出来るが、こちらは単発式であり、かつ弾種も発煙筒やSマインと呼ばれる近接・対人用の跳躍爆雷といった防護用のものが装填される場合が多い。


 当初ゼクス帝国海軍は、主に強襲上陸時などの迅速な火力展開を達成するための陸戦兵器としてこのような兵器を構想した。また、主に火力や組織規模の面で陸軍に対して劣る海軍陸戦隊そのものを陸軍から完全に独立して行動し得るような陸戦組織とする為にもこのような兵器を単独で開発し始めたという背景がある。


 しかし陸軍にとっても機動装甲騎が予想以上に画期的な兵器と映ったために陸軍が協力を打診したところ、次第に高額な開発費に圧迫されつつあった海軍は途中よりその提案を受けるかたちとなり、最終的には陸海軍共同の開発となった。


 5471年10月、スクナ社はブラフマン博士を設計主任とした開発チームを結成し、軍の要望に応える形で設計を開始した。


 ブラフマンらは戦闘機用の自動混合気調整装置等を参考に機体の諸操作を自動制御することで操縦を簡略化する小型の計算機を開発。これにより自動変速機等の操縦系統の簡略化の実現の他、検知された走行速度や旋回時の遠心力や機体への荷重などから適切な機体の姿勢制御が自動で行われる事を技術的に可能とした。


 またこの他にも、帝国内で極秘に開発されていた新合金“オーディ二ウム”を骨格に使用する、パイロットの視点に機体の頭部のターレットの回転やレールカメラの移動が連動する、三面式の車載モニターを搭載する(ただし映像は白黒)等、大々的に新技術が盛り込まれている。


 従来の常識では既存の戦車や装甲車のような兵器を超越する機動兵器の開発は不可能であると考えられていたが、以上のような技術的背景により開発された機動装甲騎は二足ヒト型の小型機体でありながら高速高機動かつ重武装の陸戦兵器として画期的な性能の実現を達成しており、開発主である海軍のみならず陸軍においても戦争を変える画期的な兵器であるとして大きな期待を寄せている。


 開発開始から1年5か月後の5473年3月、初の機動装甲騎 である形式符号“MR1S”(Mobile=機動 Rüstung=装甲 1=一番目の生産型 Sukuna=スクナ社製)の試作1号機が完成した。


 しかしこの “MR1S”の運用試験の結果 、非常に生産価格が高価であったこと、エンジンの信頼性に問題があったこと等が判明し、軍が難色を示す事となった為、スクナ社は改めて生産性や整備性の見直しを行った形式符号“MR2S”を開発した。


 搭載されている火器は航空機用部品や陸軍の対戦車砲や機関銃、擲弾筒等を改良することで安価に抑えられた他、スクナ社のライバル企業であるトート重工のコンペ競合機“MR1T”にも用いられた他社製のエンジンを採用する事で信頼性を改善する等の苦肉の対応が行われた。


 5474年6月の大陸での開戦までの実戦配備は間に合わなかったが、 同年7月には“MR2S” は制式名称“74式機動装甲騎”として海軍に採用され、同年末の時点で64機が生産されている。


 機動装甲騎のパイロットは“機動装甲兵”と呼称され、海軍では3機からなる一個小隊3個で一個分隊を構成し、 “機動装甲隊” がそれを束ねるという形で運用されている。(略称は“機装”、 “第十三機動装甲隊”の略称が“ 十三機装”等。)


  “74式機動装甲騎” は陸軍でも採用が決定しており、形式符号はMP2S(Mobile.Panzer.2.Sukuna)となる。2機からなる一個分隊2個で一個小隊を編成し、それを3から4個束ねる形で中隊を編成して運用し始めるとされている。現時点では、主に機動偵察を主とする捜索隊としての運用が想定されている。


 開戦から半年目の時点で機動装甲騎の生産は専ら開発元のスクナ社が担っているが、戦時体制への移行や陸軍での需要数の問題からトート重工などでも生産準備が進められている。






【アメノトリ軍港】 


 ゼクス諸島主要六島のうち南西部に位置する最も大きな島、ヴェストリ島に存在する軍港。


 ゼクス帝国海軍の保有する中で最大規模の軍港であり、海軍陸戦隊や海軍航空隊の拠点にもなっている。海軍工廠や航空技術廠、海軍病院の他、海兵団や各種の軍学校といった教育機関も存在している。


 海兵団の中で特に特殊技能者を養成する陸戦予科練兵団も創設され、海軍所有の戦車や装甲車、機動装甲騎といった各種の操縦士候補生が育成されている。






【帝都デットモルト】


 ヴェストリ島に存在するゼクス帝国の帝都であり、帝国最大の都市。他の島を含む市外の帝国領内の大半では県制が敷かれているが、デットモルト等の一部の主要都市では複数の特別区からなる市制が採用されている。


 近世以前より有力な地方都市ではあったが、統一歴3763年の帝政成立時にアウストリ島より王室が遷都する事で帝都となり、以降益々の発展を遂げた。


  デットモルトとは、古代に大ティエンタン帝国の海からの侵攻を退けたゼクス人の英雄伝説に由来する名前である。






【カルディエ連邦共和国】


 ゼクス諸島よりみて南西に大洋を挟んで存在する西方大陸に存在する人間国家。ゼクス帝国内ではカルディエ国、カルディエ等とも呼称される。


 白色人種を中心に構成されている。


 有史以来、西方大陸では人間と獣人、妖精との対立が続いていたが、近代に入って人間が獣人や妖精の各部族の駆逐を推し進めた結果、現代ではカルディエ連邦共和国を中心とした人間勢力の支配が確立しつつある。連邦成立前の人間諸国の間でも複数の戦乱が存在していた為に、今日でも連邦に加わらない小規模な人間国家も複数存続している。


 近世以前は、豊かな大陸資源の開拓が進んだことや確保した獣人や人間の捕虜を用いた事もあり、農業が盛んであったが、近代化を比較的早期に受容した事もあり今日では世界最大規模の工業国家としても名高い国家となっている。


 その軍事力や経済力を用い、未だ未開地の多い南方大陸や、東方大陸においても勢力を伸ばしつつある。


 ゼクス帝国とは前世紀における対ティエンタン戦争において同じく連合国として戦ったという経緯もあるため、他の獣人族に比べると一定の交友関係がある。しかしながら非人間種族への差別感情は未だ深く、また近年のゼクス帝国の急速な軍備増強に対して最も警戒感を募らせている国家のひとつである。


 標語は『自由と権利の下で』。



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