【04】

 朝霞に恋人がいるという話を本人から聞いて、僕はショックを受ける。嘘だったけど。

「私、恋人がいるんですよ」

「え」

「嘘です」

「…………なんでそんな嘘をつくんですか」

「ショックでした?」

「同世代として負けたような気持ちになりました」

 それなら僕だって恋人を作ってやる。なんて思いつつ、実際は無理してまで欲しいとは思わないので、なんにも進展しない。

 朝霞とはよく、両思いなのにまだ正式には付き合ってない二人のような会話をした。創作の糧として有益でもあったが、本当のところ、あの人は僕のことをどう思っているのだろうと悩む夜もあった。悩む頻度が増えてきた頃、これが恋ではないかと思い立った。いや、そんなはず、ない。僕は女性が好きなはずだ。

 人として朝霞のことが好きなだけであって、触りたくはない。……というのは嘘で、会えば支配欲が沸いてきて、ときどき上の空になった。恋ではない。自分が落ち着かないから、有利な立場にいたいだけだ。人を操作したいだけだ。雄として、勝ちたいだけだ。

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